2017年12月31日日曜日

プレパ・シートをつくれ! ~プレパレーションの効率を最大化するために~ その2<実践編①>

前回は、プレパ・シートの理論をご紹介しました。今回は実践編で、「どのようにつくるのか」を中心にご紹介します。今回からは実践編となります。

まず、今回のコーチの基本情報です。

【基本情報】
・コーチ対象は、ディベート6年目の院生のEさんと4年目の学部生のIさん
・Eさん・Iさん共に平均以上の成績は納めているが、とびぬけた成績はおさえられておらず、よりパフォーマンスを向上したいためak_debateに相談
・出場する大会は学部生~院生が出場できる日本の大会。今年も北東アジア大会の決勝、アジア大会の決勝トーナメントに進出した選手が出場するなど、ハイレベルな大会
・2時間のセッション×4回ほどで、計8時間ほどコーチ(1週間に1回ペースで実施)
・セッションは全てオンラインで、LINEを使用して実施(face-to-faceはゼロ)
・(無料で実施)

【Day 1:自分たちをよく知って、大まかなプレパのステップを考える
1回目のセッションでは、まず2人の強み・弱みや、プレパレーションの課題を浮き彫りにすることが主な目的でした。したがって、まず今のプレパ時間の使い方をヒアリングしました。

プレパ時間の使い方としては、はっきりとは決めていないものの、最初に数分自分たちで考えた後、主要なクラッシュを考えて、それをアーギュメントにするという流れがあるようでした。なので、プレパのステップは、「Issue特定」→「Speech化」という2つのようです。

その後、2-3回ほどEさんとIさんに2人でプレパ練をしていただきました。その間ak_debateは黙ってみています。

ここでのコツは、government/opposition、opening/closing等できるだけシチュエーションを分けてみたり、モーションも変えてみたりすることで(抽象的/具体的、テーマ別)できるだけ偏りのない形でプレパレーションを観察することです。

それが終わったらプレパレーションの感想を聞きます。「こういうところができた」「こういうところができなかった」というような話や、「なぜそうなったのか」ということをテーマにディスカッションします。

その結果、色々ありましたが、結果的に主に下記の3点が明らかになりました。

・Iさん、E三共には「相手の話」を考えることが得意;要はHorizontal思考が強い
(おそらく、お二人とも優秀なジャッジであることが影響しているかもしれません)

・一方で、プレパレーションは発散しており、「結局どう勝つのか?」という「勝ち筋」に繋がっていない。その結果、話すArgumentもなかなか定まらない
(「相手はこういうこと言ってくるかもね」という話はIさん、Eさん共にするものの、それがなぁなぁになってしまう)

・その影響もあってか、話が具体化されず抽象的なまま
(Freedom of choiceという枠はあっても、内容を聞いてみるとアナロジーが薄かったり、ロジックも怪しかったりする。そもそもそれらが共有されていない)

上記をまとめると、相手の話を考えているため戦略的な部分がある一方で、「勝ち筋」の明確化や「具体化」が不十分という課題あるため、せっかくあるアイデアの種が生かしきれずに負けてしまうことが多い、というような状況であることが分かりました。非常に勿体ないです。

今回はこの2つが主要な課題なのではないか?という点に合意した上で、まず大まかなステップの流れを「Issue特定」→「戦略立案(勝ち筋を見つける)」→「具体性を強化する」→「Speech化」という流れにしたほうが良いという風にアドバイスしました。細かいモーションのフィードバックも行いこの日の練習は終わりになりました。

<Day 1のまとめ>
・プレパのステップは「Issue特定」→「Speech化」となんとなくあったが、それを、今課題である「勝ち方を見つける」「具体化する」というステップを意識的に追加

2017年12月30日土曜日

プレパ・シートをつくれ! ~プレパレーションの効率を最大化するために~ その1<理論編>

突然ですが、あなたは「プレパ・シート」をつくったことがありますか?
百閒は一見にしかずと言いますので、まず実例をお見せしましょう。(あくまで一例です)


このように、チームとしてプレパレーション・タイムにおいて何をするかの「約束事」や「戦略」を紙に纏めたものをプレパ・シートと言います。ak_debateは各大会ごとにその人にあった「プレパ・シート」をつくることを推奨しています。

今回は理論編ということで、下記の3つの問に答えたいと思います。

1.そもそも、なぜプレパ・シートが必要なのか?
2.プレパ・シートには何が含まれるのか?
3.プレパ・シートはどのように使うのか?

(なお、<実践編>ではak_debateが実際に2017年にコーチした事例を通じて、どのようにプレパ・シートをつくるのかというのを詳しくご紹介します。ディベート自由帳初めての試みです!)

1.そもそも、なぜプレパ・シートが必要なのか?
「即興型ディベートのパフォーマンスの8割くらいはプレパレーションで決まる」というのがak_debateの考えです。(なお、良く調べたら東大ディベート部出身の世界大会のEFL 部門の優勝者も言っていました)

一方で、個人レベルでもなかなか自分の思考を「見える化」することは難しいため、毎回良いプレパができているとは限りません。例えば、調子の良い時は自分のサイド・相手のサイドの両方を考えることができても、場合によっては片方しか考えられないかもしれません。TBH思考法の一部しかできないかもしれません。

それがチームになると猶更です。準備時間の短いBP Style、3人で意思決定をしないといけないAsian Styleはどちらも難しさがあります。特に考え方やコミュニケーションスタイルは多種多様で、文字通り「十人十色」になりがちです。(大学や世代などのクセはありますが。)そこでお互いの思考プロセスを「見える化」しながら、プレパ・シートという「共通言語」ができてはじめてプレパが効率化すると言えます。

2.プレパ・シートには何が含まれるのか?
プレパ・シートはチームごとに大きく異なりますが、どのプレパ・シートにおいても以下の4要素を含むことが重要です

①:プレパのステップ(流れ)
上記の例で言うと「Issue特定」「戦略立案」「具体性強化」「Speech化」のように、何をするかです。

②:各プレパのステップで行うこと
上記の例で言うと「Issue特定」では、「相手が一番言ってくることは何か?」「一言で言うと何と何の対立なのか?」のような質問を自ら問いかけることが挙げられます。

③:各プレパのステップの時間配分
その名のとおりですが、それぞれ15~30分という時間をどのように使用するかです

④:チームとしての分業
誰が何を担当するかです。上記の例の場合は、たまたま2人が同じプロセスを同時に行っていくため反映されていませんが、場合によっては色分け等を行い分業を明確化することもあります。有名な例ですが、過去の秋T(秋季全国大会)・ESUJを連覇したチームは片方が「相手の話」、もう片方が「自分の話」を考えるような分業体制でした。

3.プレパ・シートはどのように使うのか?

プレパ・シートは、「チームで練習・試合をするときはほぼずっと」使用します。具体的には、

a.初めての顔合わせにおいて、プレパ・シートの初期ドラフトを作成
(最初はこんな感じだよね?という風につくります)

b.ラウンド前(プレパ練前)に確認
(実施にプレパを行う前にお互いにどのようにプレパレーションを行うか確認します)

c.ラウンド中に必要に応じて確認
(ラウンド中に、必要に応じてそのプレパ・シートを見ながらプレパを進めます。例えば、「この質問答えていないね」だとか、「そろそろ時間だから次のステップにうつろう」のような使用方法になります)

d.ラウンド後にアップデート
(必要に応じて、ラウンド後に2.の①~④がアップデートされます。具体的には、「Issue特定はもうちょっと時間が必要そうだから長めにとろう」「Issue特定のときに"似たようなモーションの対立軸はないか?"って考えるのはどうだろう?」のような会話が繰り広げられます)

そして、b.~d.が何度も繰り返され、どんどんブラッシュアップされていくことになります。

いかがでしたでしょうか?次回は、具体的な<実践編>となります。

2017年12月27日水曜日

[BP Novice West 2017] より良い大会にするために~ニーズ起点のビジョン/施策の検討~ 内部資料の公開

BP Novice West 2017においては、Tournament Directorの北田さん、Chief Adjudicatorの大村さんをはじめとした皆さんのパッションにより「より良い大会づくり」にチャレンジしました。

具体的には"3E Tournament (Efficient, Equal, Educational)"という大会ビジョンを掲げ、タブの効率化、運営側による内輪ネタの最小化、ジャッジセミナーの実施、"Handbook"の作成、ジャッジアセスメント等、多くの新しい具体的な施策を行いました。

具体的な様子はこちらになります。
http://blogjpdu.blogspot.jp/2017/12/bp-novice-westtdca.html

その際、内部でChief Innovation Officerを務めたakが作成したディスカッション用資料が下記になります。Chief Innovation Officerはアンケートの実施・分析、議論のたたき台としての資料づくり/ファシリテーションを担当しました。そして、TDの北田さん、CAの大村さんをはじめとしたコミ・AC全員でディスカッションし、最終的に全員で大会のビジョンを策定後、具体的にタスクを割り振って実行致しました。他の大会でも参考になるかもしれないと思い、その一連のプロセスで使用された資料をこちらで公開します。

第1回検討資料
https://drive.google.com/file/d/1hjTDQCHyUDLy8KO1JtahbVowVFwnJTpI/view

第2回検討資料
https://drive.google.com/file/d/1PVnHiBZqjvxv5bcDSrG9fzRF-LJ8UpY9/view

至らぬ点も多々あったかと思いますが、引き続きより良い大会づくりやアクティブ・ラーニングの向上に寄与できればと思いますのでご指導・ご鞭撻のほどどうぞよろしくお願いいたします。

2017年12月25日月曜日

[ニュース] 都留文科大学「英文学科、社会学科の学生が日本語ディベート大会で準優勝しました」

私も運営で関わらせていただいている日本語即興型ディベートに関して取り上げて頂きました!
大変うれしい限りです!

英文学科、社会学科の学生が日本語ディベート大会で準優勝しました
https://www.tsuru.ac.jp/news/u-news/2465.html

2017年12月23日土曜日

ジャッジ入門 ~ジャッジとしての心構え~

【サマリ】
ジャッジには、審判およびコーチとしての役割があります。もちろんこれは理想的で、最初からできるわけではありません。ですが、やりがいも大きいですし、全力でディベーターに向き合うことで、ちょっとずつでもよいのでチャレンジしていただければと思います。

【はじめに】
練習会や大会においてジャッジをすることがあるかと思います。
特に初めてのときのジャッジは緊張しますよね。ak_debateも初めてのジャッジのときはよく覚えており、先輩2人としたのですが、逆サイドに入れ、かつ理由もしっかりしていなかったのでボロボロだったのを覚えています。

スキル面では色々このブログでも取り上げていますが、(主要記事のジャッジに関する記事です。)まずそもそものマインドに関して語られることが少ないのではないかと思っているので、最初の心構えとしてどうあるべきか、という問いにチャレンジしたいと思います。

【ジャッジとしての2つの役割:"審判"と"コーチ"の理想像】
僕は、ジャッジはそもそも、①その試合における審判としての役割、②その試合を通じてスキルの上達やマインド面でのモチベーション向上に繋げるコーチ(/教育者)としての役割の2つがあると思っています。

①は、ディベーターが15-30分真剣に考えた上で、7-8分のスピーチを全力で行っているわけです。試合の最後の瞬間までPOIまで含めると考え、戦ったというのは全員に公平にあります。特定の大会であれば、初めての大会であったり、思い入れのあるパートナーとの大事な試合だったり、切磋琢磨したライバルとの試合だったり、最後になるかもという覚悟の元の試合だったりするわけです。また、その背後には何時間もの練習や試行錯誤の時間があるわけです。したがって、ジャッジとしても、真剣に、全力で向き合って、メモをとり、頭を悩ませ、場合によってはディスカッションを通じて審判を下すことがリスペクトを示すことだと思っていますし、固くいうと責任なのだと思っています。
まさに責任という言葉は僕の場合はしっくりきていて、責任は英語ではresponsibility、要はresponse(応答)するabilityなので、ディベーターに対する応答、というところが腹落ちしています。
ディベーターに期待されているのは、全力で向き合う基本姿勢というプロセス、そして公平な第三者としての審査という結果というところになるでしょう。

②は、直接的にラウンドを一番見ているわけですし、ディベーターが一番分かりやすい形でフィードバックを受けるのは現時点ではジャッジです。そうなった際に、「どういうところがよかったのか」「どういうところが改善点だったのか」という「現状」や、「このようにすればさらに良くなるのではないか」というアドバイス・フィードバックを提供することがあるとディベーターからすると嬉しいことだと思います。特に「勝ち負け」がはっきりとする競技である以上「どう勝つのか?」という客観的なゴール、「英語がうまくなりたい」「論理的思考方法を身に着けたい」「より視野を広げたい」のような主観的なゴールの両輪に対してフィードバックできるとなおよいと思っています。


【初心者ジャッジに向けたアドバイス】
上を見て思ってしまうかもしれないことは「うわ、自分にできるのかな・・・」という不安だと思います。安心してください。

いくつかの観点があります。まず、最初に書かせていただいた通り、私も最初は全然だめでした。皆最初は初心者です。どうしても人はバイアスがあるし(この人はうまい、とか、このアイデアが好き、とか、この人をずっと応援していたから頑張り賞的に評価をあげてしまう、とか)、場合によっては見落としてしまうこともあるわけです。英語の場合は語学の壁もあると思います。一方、ジャッジも筋トレのようなもので、必ず正しい努力をすればうまくなります。私自身、最初はジャッジもボロボロだった人がうまくなっていき、表彰されるようになった様子を何度も見てきています。また、ディベーターとしては結果がでなかったものの、ジャッジとして花を咲かせた人も何人もいます。なので、安心してください。時間はかかるのは当たり前です。

2つめは、それと関係しますが、最初から完璧を目指さず、少しずつ「理想」に近づけ場大丈夫です。例えば上の「審判」と「コーチ」と書きましたが、「コーチ」としての役割は明確には大会では求められていません。多くの大会ではそれは評価基準にも入っていません。(将来は変わるかもしれませんが)。フィードバックを行う技術はまた別のスキルセットであり、当然嬉しいですが徐々に身に着けるステップ論だと思っています。また、審判としても、例えばインプットとしてディベーターが言っていることをまず正確に理解できるようになる、時間はとてもかかるが公平でリーズナブルな説明ができるようになる、それが短い時間でもできるようになる、それがレベルの高いラウンドでもできるようになる、のようなステップ論です。1ステップ1ステップクリアしていけばいいのです

3つ目に、全力で頑張っていただいたのであれば、文句は言われづらいです。その時に全力で真摯にノートをとり、頭を悩ませ、根拠をもって説明してくれることが、多くのディベーターが望んでいることです。一方で、のけ反り返りながら、ちゃんとメモもとらず、上から目線でものを言ってくる人であればディベーターもイラっとします。そうでなければ、ジャッジとしては納得できなかったとしても「仕方ないな」と思ってくれたり、建設的なディスカッションができたりするわけです。仮に、全力で頑張ったのにリスペクトを払わない形で攻撃的に「噛みついて」来た人がいたら、それはak的には明確にいけていないディベーターだと思っています。(僕も過去によくジャッジに詰め寄り納得できない、と1年生の時は特に言ってしまいましたが、明確にいけていないと思っています。いくら勝ち負けがかかっていたからとはいえ、本当によくなかったなと。)ディベート界で考えても、世界大会の審査員団を務めるような海外のトップスピーカーも「ジャッジとディベーターが戦うようなことはもうやめよう、僕も過去にやってしまったけど、終わりにしよう」と何度も言っていました。実社会に出てからも思いましたが、明確にリスペクトを払われ、信頼されるのは「全力で頑張ること」です。最大出力が出せるにもかかわらず手を抜いたならともかく、最大出力がその時無かったのは明確に仕方がないことです。仮に今このカルチャーが主流じゃないとしたら、それはあるべきカルチャーやノームではないと私は断言します。仮にそういうディベーターの「被害」にあってしまった場合は「いけていないんだな」と気にしないでください。
(もちろん、ディベーター、ジャッジ間のリスペクトがある上でのconstructiveなディスカッションはすればいいと思います。)

【ジャッジのやりがい】
ジャッジがうまくなると、どうなるのでしょうか?どういうシーンでうれしさ・やりがいを覚えるのでしょうか?akの具体的なエピソードをいくつか紹介します。

・とてもハイレベルなラウンド、かつ負けたら敗退というプレッシャーのかかるタイミングで、1人で審査をしていたときのこと。どちらに入れるのもあり得るなと思ったものの、必死にクロースながらも特定のサイドが勝ったと説明しきった際、ディベーターが深く頷いてくれた

・必死に「こうやればうまくなるのじゃないかな」「ここが強みなのじゃないかな」と想像して、考えて、説明したときのこと。しばらくたってから「あの言葉に救われました」「あのおかげでうまくなりました」と言ってもらえた

・「ずっとうまくならなくて悩んでいるんですけど・・・」とラウンドが終わった後のフィードバックできてくれた。一個一個丁寧にこういう話ができるかも、だとか「こういう風なことに気を付けたらいいかもね」といったところ、ぱっと顔が明るくなって「感動しました、ありがとうございます!」と言ってくれた

上記のように、審査員は大変ではありますが、大きくその人の納得感の情勢や、その後のスキルやマインド向上に結び付くわけです。とてもやりがいのある役割だし、とても大事な役割だと思っています。

また、ジャッジも成長実感を感じることができます。最初は噛みつかれた(笑)としてもディベーターが納得してくれる。難しいラウンドであっても徐々に自信をもって説明できるようになる。アドバイスも最初は抽象的なことしか言えなかったけれども、徐々に盗んでいったりストックすることで具体的な話まで踏み込めるようになる。その結果として客観的な数字もついてきてブレイクや表彰されることもある。。。。より多くの情報を処理する能力、ディベーターの観察能力等、ディベーターとは別のスキルが伸びると思います。これは単純に楽しいですし、また、実社会でもリーズナブルに説得するというスキルにも結び付きます。(特に勝ち負けで争っている人たちに対して説得するって並大抵のことじゃないと思います。別の価値観を持っているかもしれない、という相手を説得するのは社会人になってから重要になりますよね)

【終わりに】
いかがでしたでしょうか。ぜひ、ジャッジにチャレンジしてみてくださいね :)

2017年12月17日日曜日

即興型ディベート初心者へのおすすめの「最初の詰め込み」 ~もし初大会まで5日間しかないとしたら何をするか~

今日は、即興型ディベート初心者が仮に5日後に大会に出るとしたら・・・!
と仮定して効率的であろう練習方法について書いてみました。

(メインは日本語の即興型ディベートを始めようとしている人を想定していましたが、英語の即興型ディベートにしても似たようなテクニックが使える気がします。前に部で行っていた初心者である大学1年生向けにどうやって教えていたか+ak_debateゼミ等を通じてコーチしているときにどのように教えていたかを思い出して、それを5日間のメニューに凝縮してみました。)



【背景①:日本語ディベートの盛り上がり】
背景としては、最近日本語の即興型ディベートが盛り上がってきているのですが、(ak_debateも運営・審査員などでお手伝いさせていただいています)、見ていると「ルールは一定程度わかり、なんとなくスピーチもわかってきた」じゃあどうするか?というところで躓く可能性があるなと思っています。

特に、調査型(アカデミック)のスタイルを行っていた人は、せっかくHorizontal思考のレベルが高いにもかかわらず勝ちきれずに悔しい想いをしているのではないかと思っている次第です。(なお、ディベートのプレパレーションタイムに必要な3つの思考方法、通称TBH思考法に関してはこちらをご覧ください)

【背景②:英語ディベートでの「より効率的な練習方法」のニーズ】
よくどのように練習すればいいですかね、という相談が最近増えてきたのですが、
確かに体系的に学ぶことは難しく、属人化してきたことは否めませんでした。
なので、ここで仮にカリキュラムをつくるとしたらこうなのでは、というのを提示することで各大学がトレーニング方法を体系的に考えるスタートになるのでは、と思いました。

なお、下記の前提としてはあまりラウンドができない状況を想定しています。ペアでは集まれるが・・・くらいのイメージです。ラウンドができる場合はラウンドも適宜織り交ぜてください。

大まかな5日間の流れの推奨案は下記のとおりです。なお、色々な考え方もあるでしょうし、あくまで現時点の初期仮説となります。ぜひフィードバックください。



Day 1: 「大きな対立軸」を一回なぞってみる

英語の即興型ディベートの経験者がなんとか15-30分の準備時間でスピーチを組み立てられるのは、所謂「大きな対立軸」のパターン認識があるところは大きいと思っています。

色々な説明の方法はありますが、私はこれを「実社会のアドボカシー」(特定の考えを持つ人を代弁する)ととらえています。

例えば、いわゆる炭素税を導入する、というような議題になると簡略化すると環境の権利 VS 企業の権利の大きな対立となります。これは例えば、肯定側は特定の環境保護団体のNGOの代弁をすることになるかもしれませんし、否定側は企業や経済団体のトップの代弁をすることになるかもしれません。

もう一つ例を挙げると、煙草を禁止する、のような議題では簡略化すると、健康(体に悪いのだから禁止しよう) VS 自由 (個人が健康を害するのも幸せを追求する一つの方法だ) のような大きな対立になります。これはいいかえると、パターナリズム VS リベラリズム、大きな政府 VS 小さな政府を信条としている人の代弁かもしれません。

このような「大きな対立軸」を理解しておくことの良さは、「あ、この議題、似たようなことやったことある!(構図がこれと一緒だ)」という思考のショートカットができるところにあります。例えば、上記の2つを知っていると、下記のようなモーションも一見難しいものの、「あ、似たような対立軸になる」という風になります。

・先進国のエネルギー企業は、新興国においても先進国の環境基準を守るべきだ(THBT energy companies of developed countries operating in developing countries should adhere to the environmental standards of their countries of origin.)
・環境マーケットの創出を、援助の条件とする(ただし、緊急時の援助は除く)(THW make the development of eco-friendly industry a condition for receiving non-emergency aid.)
・飲み放題を禁止する(THW ban all-you-can-drink option)
・嗜好用のマリファナを合法化する(THW legalize marijuana for pleasure)

具体的にはどのように学んでいけばよいでしょうか?
日本語の資料ですと、ちょっと長いのですが、やはり今読み直しても秀逸だなというのは、この「Principle-奥田さん (ICU/早稲田大学 OB)」の資料です。(なお、奥田さんはICUの黄金時代の4枚エースの1人で、伝説ディベーターのひとりです)
http://www.jpdu.org/?page_id=23
なお、ak_debateは1年目の夏に3回くらい読みました。

英語の資料ですと、Monash大学(オーストラリアの強豪校。世界大会も何度も優勝している世界トップクラスの大学)が出している"1st Principle"に関するレジュメがおすすめです。こちら、18ページなので英語が苦手な方でもぜひチャレンジしてみてください。
http://www.monashdebaters.com/downloads/GuideToFirstPrinciples.pdf

なお、ここで出てくるDemocracyのAccountability, Representation, Participation、Criminal Justice SystemのRetribution, Protection, Deterrence, Rehabilitationは特に強豪ディベーターですらArgumentの出発点にに用いています。まずは、これらで主要な議題のなんとなくのイメージ感を持ってほしいと思っています。

Day 2: 何度かPrime Minister Speechを行ってみる

ak_debateはPrime Ministerこそ、ディベートの神髄だと思っています。一番短いプレパレーションタイムで、相手の話も考慮した強い話を立てるってすごく技術がいることだなと思っています。(実はこのような背景もあって、部の代表時にトライアウト(選抜)においてはじめてPrime Minister Speechによる選抜を導入したのは余談です)

まずは恐れずに、15-20分のプレパレーション時間を用いて、実際に大会のスピーチ時間(多くの場合は7分)のスピーチをしてみてください。議題は色々なところがまとめていますが、英語即興型ですと、UTDS(http://resources.tokyodebate.org/debate-motion/motions/)がよくまとまっています。(日本語即興型となるとCDSの過去ページになるかと思いますが、そちらもプール(絶対数)としてはまだ少ないため、英語即興型の論題を使用することをおすすめしています)

具体的には、アジア大会のような国際大会ですと難易度が高すぎるかと思いますので、まず総じてモーションの難易度が低めの傾向にあるNA Styleのモーションがいいと思います。(こちらは、多くの大学で導入編として使用されているため、大会も1-2年生向けのが多いからです。なお、UTDSのモーションですとESUJモーションのみ1年生大会ではありません)。

このプロセスの目的は3つあります。

1つ目に、Day 1で行った「大きな対立軸」のストック/アップデートを行うことです。色々なモーションをやりながら、「あ、これはこの対立軸だな」「あ、これはちょっと違って、動物の権利対人間の権利だな」なるほど、という風にストックしていきます。頭がいい人は覚えられると思うのですが、ak_debateのように要領が悪い場合はディベートノートに書きます(関連する記事はこちらです)要は、ノートにテーマ(ないし対立軸)ごとにストックしていくイメージです。

次に、「スピーチ(アウトプット)」に慣れることです。残念ながらディベートは現段階ではアウトプットのみで評価されます。「いいアイデアがあったのに・・・」という人は良くいますが(事実、私もパートナー運がよく、だいたいパートナーに助けられています)とはいえジャッジはそこまでわからずスピーチを評価します。口を回す慣れもそうですし、最終的に目指す「ゴール」を明確化する意図もあります。

3つ目に、「スピーチでできていること、足りないところ」を明確化することにあります。できればフィードバックがあるほうがベターなのですが、ない場合は自分で録音して聞き直すことになるかと思います。例えば、「関係のある話はできる」「可愛そうな描写ができる」「具体性がない」「そもそも早くてわからない」のような現状分析(アセスメント)になるかもしれません。

なお、スピーチの型ですが、教科書などに書いていない場合、Triple A、AREA等を用いるのが良いと思います。(Triple Aに関する記事はこちら。)時間がない場合はAREAにフォーカスしましょう。Assertion, Reasoning, Example, Assertionの略で、主張・理由・例・主張です。これをStatus Quo(現状)、After Plan(政策後)であったり、our model(私たちのパラダイム・世界観)・their model(相手側のパラダイム・世界観)で並列に話します。つまり、

「私たちのパラダイムでは、XXXが起こります(A)。理由はYつあって。なぜなら、XXXだから・・・そしてXXXだから・・・です(R)。例えば、XXXです(E)。その結果、XXXが起こります(A)。一方、相手のパラダイムでは・・・」という風に話します。これは、本当にベーシックな型で、当然色々な批判はあるのですが、守破離でいう「守」では最適だと思っています。なぜかというと、①スピーチをひとまず結論からわかりやすく言えるので一定程度ジャッジに伝わりやすくなるし、②理由をかならずつけ、かつ相手のパラダイムとも絶対に比較する、③具体例によって議論を地に足をつける、癖をつけてくれるからです。

Day 3: プレパレーションの初期戦略を立案する

私は即興型ディベートのパフォーマンスの8割くらいはプレパレーション(準備時間)で決まると思っています。したがって、プレパレーションのコーチングは現役時代からよく行っており、選手のパフォーマンスが面白いほど伸びる様子を何度も目にしてきました。なのでここの戦略は肝となります。

色々な型があると思いますし、本格的な戦略立案には私は3-4回のセッションを頂戴することが多いのですが、いったん個人レベルで行うこととしてお勧めしているのは、まずあなたにとって最適の「時間の使い方」のルールを決めることです。例えば、

・最初の5分は個人でブレインストーミング(広く考える)
・次の5分はアイデアの共有(アイデアの発散)
・次の2-3分は勝ちどころの確認・アイデアの収束/取捨選択
・残りの時間は具体的なスピーチづくり

のようになるかと思います。
その際活きてくるのはak_debateが提唱している「TBH思考法」となります。(詳しい解説はこちら)要は、Top-Down、Bottom-Up、Horizontalで考えるというところになります。なお、経験則的に、コンスタントにブレイク(決勝トーナメントに進出)したり個人賞を受賞したりする人は最低2つの思考法を持っていることが多く、優勝するチームや圧倒的な個人は3つの思考法を使いこなしている傾向にあります。初心者の場合はまず、足元の戦略として当然全部を頑張るのは中長期的に行ってほしいのですが、まずは1つ武器となりそうな思考法を軸にすることを意識しましょう。例えば、私の部ではまずは日本人の多くが得意な傾向にあるBottom-Upからお勧めしています。これは実は戦略的な意味もあって、Bottom-Upで考えることは具体的になりやすいというところがあるので、最初の1st PrincipleがややTop-Down/Horizontalの初期インプットになると想定すると、Bottom-Upによって補完するという一定程度「完成させる」意味があります。さらには、ジャッジとしても具体的な話はやはり取りやすく、勝ちに直結する傾向にあります。

3日目の目的としては、2日目で行った最後のアウトプットを意識しながら、さらに「大きな対立軸」をストックしながら、実際そのアウトプットに向けた「プロセス」を精緻化していくという流れです。ある種、1日目でインプット、3日目でアウトプットを、2日目でプロセスを強化しているというデザインになっています。

なお、このプロセスをやる際に、ぜひディベートノートはアップデートしてください。

Day 4:試合的な環境に身を置く

3日間ストイックにやっていると、なんとなくの感覚はつかめてきます。ここで重要になるのはとはいえ、やや「机上」で行っているため、「実践」が薄い可能性が高いというところです。具体的な試合になると、様々なことが起こります。分かりやすいのは反論ですね。相手の話への対応を考えないといけなくなるのですが、これはなかなか予想がつかなかったりもします。特に、2nd Speaker以降となればなおさらです。

(万が一BP Style等に出るというのであれば、できるだけClosing、特に一番難しいと言われているClosing Governmentをやることをおすすめしています)

もちろん試合ができればベストになります。具体的には、どこかの大学にお邪魔することになるでしょう。意外とFacebookで頼むとOKしてくれるパターンがあります。または練習会も場合によっては開催されています。また、一部の大学ですとSkypeでラウンドをすることもあります。ak_debateも例えば九州のディベートを東京でジャッジしたことがあります。海外だと、マカオ VS シンガポールの試合がフィリピンのジャッジによってSkypeでラウンドとして成立していることもあったと思います。なのでふんだんにテクノロジーも使ってみてください。

試合ができない場合は、どのようにするかというといくつかのパターンがあります。まず2人以上いる場合であれば、途中までででもいいのでラウンドをしてみてください。いわゆる「アイアンマン」と言われる1vs1のディベートもak_debateもたくさんやりました。特に、私の代は部員の数が私を含めて6人だったので、毎回6人くれば良いのですが、最悪2人しかおらず1vs1で練習したこともあります。また、ストイックに負けず嫌いなak_debateは、先代部長に頼み込んで1vs1でAsian Style(3回スピーチを行う)もやっていただきました。今思うと本当先輩には頭があがりません。

それも難しい場合は、英語即興型の場合は、ぜひ音源を聞いてみてそれに反論・立論することを考えてみてください。JPDUのYouTube等、多くの音源がレベル別にあると思いますので、それを聞いてLOだったとしたら、という練習は最低限出来ると思います。また、MGをやるというということもできなくはないです。(ak_debateも一時期やっていました) 日本語即興型の場合はリソースが今の段階では少ないですが中長期的にはできるようになるかもしれません。

ここでのポイントは、実際の試合になって改めて必要になったこと、工夫できることを洗い出すことになります。もしかしたらプレパ戦略がアップデートされるかもしれまんせんし、それ以外にも気を付けるポイントというのが出てくるかもしれません。

なお、このプロセスをやる際に、ぜひディベートノートはアップデートしてください。色々見えてくると思います。

Day 5:復習して、個別的な練習を行い、最後はコンディションを最適化する

いよいよ最終日となります。ここで行う必要があるのは、「復習」です。ここから詰め込もうとしてもなかなか自分のものにならないので、諦めましょう。割り切ったほうが効率的です。

行うことはまずディベートノートを読み返しましょう。どういうことができて、どういう工夫をすればよいのかというのを改めて見返します。ここでお勧めなのは、ディベートノートの1ページを使って、「To-Doリスト」をつくることです。

例えば、ak_debateでは、
【プレパ】
・Bottom-Upだけではなく、Horizontalにも考える(=相手が言ってくることは何か?)
・必ず具体的に話す(どうかわいそうなの?どう嬉しいの?)
【スピーチ】
・Status Quo, After Plan, ImpactのAREAを徹底する
・反論は短くする

のようなチェックリストをもって大会に臨んだことがあります。あまり多くても大変なので、シンプルに減らすことがポイントです。

また、Day3につくったプレパレーションの型ももう一回確認します。改めてこの時間配分で明日もがんばろう、と思うわけです。

そして最終日なので、何かに特化した練習だけ少しだけ行います。例えばやっぱりスピーチが不安なのであればスピ練でしょうし、プレパに不安があるならプレパ、その中でも例えば特定の議題が不安なら特定の議題をやることもあるかもしれません。あくまで、4日間の結果を受けて集中的に練習するわけです。

そして最後は・・・大事ですが寝ることです。コンディションを最大化しましょう。さっさと携帯を閉じて布団でぐっすり寝るのが結局はいいことです。あとは「楽しもう」とかポジティブなイメージをもったりすることも、ak_debateは個人的にはやっています。

いかがでしたでしょうか。
もし、5日間しかないとしたら、と考えてみました。もしそのような相談がきたとしたら、ak_debateは過去の経験上、上記のような時間の使い方をお勧めします。
質問などございましたら、いつでもお気軽にご連絡ください!


2017年12月16日土曜日

【寄稿文】続・効率的に本を読む4つのポイント

効率的に本を読む4つのポイント を前回書かせていただいたところ、
下記のような寄稿文を頂戴しました。ありがとうございます!!
やり方の工夫はチャレンジなんでしょうね。。。!

***
某大学のディベーターです、以前読書会のようなものを実施していたのでその時の事について書いてみようと思います。

〇どのようにしていたか?
・各自が違う本を読む。1人1冊(一応フリーライダー:自分は読まないけど参加したい、は認めてなかった)
・授業の空きコマなどを調整し毎週特定の時間に3~5人くらいで集まり、各自が読んだ本の内容についてまとめて解説する(パワポなどは用意せず。やるとしてもホワイトボードに書くくらい)
・本のジャンルが被らないようにしていた
・居合わせなかった人のためにLINEのノートにも掲載する
・1か月で1冊読み終わるペースを目標としていた、本の内容や厚さにももちろんよるが

〇効用
・私的に「マターが増える」という効果はそこまでなかったように感じた。というのも結局他人から見聞したものであるためそれだけで十分使えるレベルの知識化と言われると疑問は残る。しかし、以下のような利益はあったように見える。

1:マターやアイディア・リサーチのとっかかりになる
→読書会で聞いた話について自身で深くリサーチすると漸く身に付く印象。また自身が避けがちな分野の入門書とかに触れることができるのでどのヨナ本を読むといいのかという見当もつけれるようになる

2:他人に分かりやすく伝える力
→LINEのノートなどを見ると人によってまとめ方が様々。本の内容をただ復唱転写するのではなく要点を押さえ分かりやすく再構成してまとめる力が(意識して実践すれば)伸びる。簡略化しすぎても伝わらないし内容を濃くしすぎても具体例とかばかりで説明も煩雑に

3:Motionや実際のディベートへの応用を前提として知識の吸収ができる
→自身が読んでいる・他人が読んだ本はどのようなMotionにおいて使えるのかという点を意識することで単なる知識で終わらずディベートに使える理論やケーススタディに化ける

対して以下のような問題点はあった。
1:自身が参加できていない読書会での情報がLINEノートに限られる。その際LINEノートのまとめ方がよろしくない(=結局口で聞かないと分かりにくいレベル)だと吸収できない
⇒何か統一したフォーマットなどがあると良いかも。しかし本の内容やジャンルにより異なるので難しいか。

2:人によって忙しさがまちまち・波もあるため定期的に続けていくのが困難。参加者みんな忙しかったので誰も発表の準備ができていないということも
⇒何か対策が欲しい。正直ここが一番深刻化も

3:そもそも何の本を読んだらいいのかわからない、ということもあった
⇒当時は先輩のアドバイスなどで何とかなっていたが、今思えばUTDS resourceのbookの部分なども活用すればよかったかもしれない。しかしお勧めの本についてまとめるサイトとか今後より拡大していくべきだなあと感じる。1大学に頼るのではそれこそフリーライダーな印象なのでコミュニティ全体でどうにかしたい

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2017年11月28日火曜日

効率的に本を読む4つのポイント

即興型ディベートの性質上、多くのテーマに関してベーシックな知識は抑えておく必要があるかと思います。政治、経済、IR、教育、ジェンダー… かといって、すべてを効率的に読むことは難しいわけです。今回は各論ですが、リサーチを行う際、本を読むこともあるかと思いますが、そこで効率的に読むには?ということをテーマに書いてみます。

(また、蛇足かもしれませんがディベーター以外のとき(例:ak_debateの場合は大学院の研究のとき、仕事のとき等)でもインプットをいかに効率的に行うかはキーとなるかと思います。書き終わってからも思いますが、これは必ずしもディベートだけに当てはまらない内容になっています)

まだまだ全然数が足りないと思うのですが、職業柄、仕事に直接関係ない本だけでも年に100冊程読んでいることを通じてどういうことに気を付けているかまとめてみました。


1. そもそも "Right Book"にあたる
一番無駄なのは、「いやあこの本読んだの意味なかったな・・・」と思う時です。具体的には「内容が一切刺さらない」「読むのが大変なわりに得られることが少ない」等色々なパターンがあるかと思います。時間は有限であるため、そもそも良質な本にあたる工夫が重要になります。

ak_debateがやるのは、まず、Amazonのレビューの高さ、著者のバックグラウンド、その道に詳しい人によるお勧め等をもとに“良書”候補をリストアップすることです。例えばIRのリサーチをする時は大学の授業でも使用されている藤原帰一の『国際政治』、飯田敬輔の『国際政治経済』等からはじめることをお勧めしています。ディベートにカスタマイズすると、その学部の人だとか詳しい人に聞くのが一番です。
(なお、ak_debateのおすすめブックリストはこちらです)

また、自分が今最も必要としている知識や、今の習熟度等を勘案して読む本を優先順位付けることが重要です。IRをやりたいと決まっている場合、自分は今は全く知らないという状態であればまずは入門書から入っていく必要があるかと思います。そこで分厚い専門書を読むよりかは、わかりやすい新書でいいと思います。また、賛否両論あるかと思いますが、ak_debateは「漫画でわかる」系もエッセンスが抽出されているので好きです。

2. 読み方を選択する
重要なポイントは、「そもそもどのような本も同じように、熟読する必要は無し」というところです。まじめな人にありがちなのが、とりあえずどの本も同じように一語一句丁寧に読むということです。

読み方にはいろいろなバリエーションがあります。例えば、状況に応じて全体をざっと理解するための飛ばし読み、内容を正確に理解するための熟読、一部だけ活用するための選び読み、何度も読むことを前提とした初回の“ぼんやり読み”等です。ベストな読み方をそもそも選ばれているでしょうか?

例えば、ak_debateは新しいテーマのことを知りたいときは3冊くらいざーっと読みます。そしていいなと思った1冊は熟読します。それをもとに、専門的な本に移っていき、なんとか理解できそうかどうかわからない際は60%くらいの理解でもいいのでいったん読み、またしばらくしてから読み直す、というようなことをしています。

3. 論旨を想像してから読み始める
これは、社会人になってから特に身に着けた方法です。昔は「バイアスを一切なくして読むのがとても重要だ」と思っていたのですが、本質的には「思い込みで変に理解しない」ことが重要なだけなので、「バイアスを後でフレキシブルに変えられるようにしておく」という対応策で済むことです。

無理やりでも良いので、「この筆者はきっとこう考えているのではないか」と思ってから、それを修正しながら読むほうが圧倒的に効率的に内容を読むことができるのは間違いないです。

では、どのようにして論旨を想像すればいいのでしょうか?もちろんネットに転がっているような要旨を読むのもいいと思いますが、ak_debateは「はじめに」・「目次」・「終わりに」だけを読み著者の主張内容を想像してから読み始めるようにしています。

4. 読んだ内容を復習できるような仕組みをつくる
せっかく読んだにもかかわらず、定着しなかった場合は勿体ないですよね。ここは十人十色だと思いますが、ak_debateは下記のような工夫をしています。

・重要なポイントに付箋を貼る
(そもそも、読みながら重要なポイントは付箋を貼ってあります。なので、読み直すのは付箋がついているところだけでOKです)

・論旨やポイントをA4 1枚でまとめる
(昔はスマホのEvernote等も使用していました。ポイントは「短くする」ことです)

・読書会によってアウトプットする
(人は他の人に伝えないといけないとなると必死になって理解しようとするかと思います。特に読書会のような形で他の人に内容を共有しないといけないとなると、必死に内容を覚え、自分のものにするようにする傾向にあります)

・レビューを書く
(読書記録のサイト/アプリなどでレビューを書くのも一手です)

2017年11月1日水曜日

【SIDO/QDO/HKDO分析】アジアのBP大会で活躍するための3つのポイント

お久しぶりです、ak_debateです。

背景/結論
今年はSIDO、QDO、HKDOと3つのアジアのBPの国際大会でジャッジする機会に恵まれたのですが、
そこで感じたディベーター/ジャッジのギャップに関して書いてみたいと思います。
具体的には、「日本チーム/ジャッジがより活躍するには何が必要か?」というのを、この3大会を通じて感じたことを中心にまとめてみました。

結論から言うと、色々あるかと思いますが
1. "Sell your idea"の意識
2. 絶対的/相対的Impactの明示
3. Secondary Mechanismの強化
この3点があるかと思います。ポイントとしては、これはディベーター/ジャッジ両方でガラパゴス化している(=海外勢とのギャップが大きい)部分なのではないかと思っており、ディベーター、ジャッジ両者への示唆としてまとめています。

【ディベーター編】
まずはディベーター編を見ながら説明させてください。


1. "Sell your idea"の意識
実はこの言葉はJapan BP 2014に出場していたイムランに教えてもらった言葉です。
予選で当たった際に、BPとAsianの根本的な違いは"アイディアをどれくらいジャッジに売ることができるかだ。Sell your idea!"と教えてくれました。

具体的には、イントロから最も重要でイイタイコトを明示化し、その例も最初から出していけ、というような各論まで踏み込んでくれました。

なぜこれが重要になるのか?というところですが、シンプルに、ジャッジが8スピーチを聞いた後、4チームの優劣を短い時間でつける必要があるためです。

例えば、これはBP Novice West 2017 Handbook 寄稿文#5でもこう書かれています。
特にBPにおいて、「分かりやすい=評価しやすい」というのは大きな武器です。
一々よくわからない部分を見るより「分かりやすいからここ上位にしよう」という方が簡単ですし。
最終的にDecisionを出すまで15~20分しかありません。その間にすべての複雑・難解なスピーチを紐解くのは不可能です。
これをまさに体現したのはHKDOのOpen Quarter Finalでジャッジした時でした。1位はクリアで、2-3位でディスカッションした時にチェアージャッジは「まず各チームが言ったことを一言でまとめるとなんだっけ?」という問いからディスカッションを始めました。そこですぐに出てこないアイデアに関しては「はっきり言われていなかったよね」と評価が一気に下がってしまいました。

各論としては、まずイントロ、アウトロでしっかり印象に残す、立論ではそのアイデアをサポートする構造を分かりやすくつくる、パワフルな具体例を用いる(ICUT 2015でラフィーク(昔のAsian BPとかのFinalist)が言っていましたが、「Examplesは数より質」です)、必要に応じてPOIでもリマインドする、などになるかと思います。特に具体例に関しては、海外のジャッジのAverage Intelligent Voter (Informed Global Citizen)のレベルが高いため、ちょっとでもドンピシャな例であれば大きく評価してくれる一方、そうでないと一気に評価が下がります。例えば、HKDO SFのTHBT the international community should create an independent sovereign Rohingya state in northern Rakhineで、PMが出してきた具体例の悪さ(インド/パキスタン、北朝鮮/韓国)に関してジャッジは低評価でした。また、同じくHigh School Pre-Semi FinalのTHS politically active first ladies.でOGが出したTrumpの例のCredibilityが悪く「なんでObamaとかを使わないのだろう」とジャッジが嘆いていました。

また、日本では驚くべきポイントだったと思いますが、同じくそのHigh School Pre-Semi Finalで、PMがpoliticsの話に終始、LOがそれもあるがfeminismも大事だよねと言い、DPMがそれに対応する形で両方話したものの、私以外のジャッジ2人は「それじゃ遅すぎで4位」と言っていました。(そもそも分析の深さやエンゲージで下がるなぁと思っていたので順位は一緒だったのですが、そんなに重く見るんだ、とちょっと驚愕しました)もちろん、その2人がstandardなジャッジなのか?という点は注視する必要はあるかもしれませんが、それくらいにSell your ideaがしっかりしていないと評価が下がる、という例かもしれません。

2. 絶対的/相対的Impactの明示

1. に関係しますが、2種類のImpactを両輪で明示できるかごうかが鍵になります。もちろん、ジャッジもどうImpactfulなのかは考えながらジャッジしますが、どうしてもジャッジとしても明確に言ってくれないと気付かない、or勝ちにしづらいという構造があります。

絶対的/相対的Impactはak_debateによる造語ですが、下記のように定義させてください。
絶対的Impactというのは、「そのArgument/Idea単体としての重要性」です。いわゆる古典的なSQ AP ImpactのImpactかもしれません。どうひどいのか?どういいのか?(Practical, Principleどちらもあるかと思いますが)の話ですね。日本との違いとしては、よりそれがイラストされた分が印象操作などとされずにしっかり評価される部分でしょうか。

相対的Impactというのは、ディベートの中での重要性という話です。これは例えば相手の話をより切っているだとか、どこにClashしているだとかです。日本でもよくやる"This directly clashes with the opening"のようなものですが、具体的にどのようにClashし、上回っているかまで説明しているところはポイントでしょう。

特にClosingになった際にこれは顕著になります。例えばSIDOでのOxfordのチーム(優勝チーム)は必ず"Why is this extension important?"と愚直にサインポストをつけ、いかにOpeningの話を上回っているか、相手の話に対応しているかなどを説明していました。

また、HKDOで日本チームが負けてしまっていた時に他のジャッジに休憩時間などの雑談で聞いてみていると、「明示的にImpactを言ってくれていないからだ」と答えられました。「言っていることは分かるんだけど、ラウンド中にハッキリ言ってくれないと」と言われたのが印象的でした。

また、感覚的ではありますがHKDOの予選でジャッジしていても、「なんでOpeningを超えているかの説明がはっきりとないから残念ながら負けにした」と言った際のディベーターの納得感も違いました。(もちろんHKDOが招へいジャッジだけで回っているだとかいろいろなポイントもあるかと思いますが…)「Openingより重要なのが明示されていなくて」と言った瞬間にClosingのチームが頷くことが何度もあったので、ちょっと留意してもいいかもなと思いました。

3. Secondary Mechanismの強化

これもまた造語で恐縮ですが、Primary Mechanismをすぐ思いつく話(モーションからすぐ出てくる話)とすると、Secondary Mechanism(すぐ出てこないステークホルダーや、中長期的な視点)をしっかり海外勢は立てている印象がありました。

例えばQDOの優勝チームは、GFのYou are a respected, high ranking, heterosexual officer in the military.  In the past, you have publicly advocated for LGBT rights within the army and have worked hard to improve how they are treated.  A newly elected conservative government has enacted a ban on LGBT's serving in the army.  As the officer, THW resign.というモーションのCOから、resignしてしまった場合は内部から、司法/警察/科学者などへの調査を依頼して、evidence baseでLGBTがいることでoperationが非効率的なのかどうか(=excludeしていいのかどうか)議論することができる、というようなinternal changeの話を立て最初からほぼ全員のVoteを勝ち取っていました。

他にも、例えばHKDOのR7のTHBT HK government should post strict restrictions on non-holders of HK passports right to purchase properties.で、今回のTop 10 speakerに入ってGFまで進出したディベーターはOGは、単純なpurchaseを禁止したmodelとしてprice gougingがなくなることや市民が地元でビジネスを行うことによる経済効果にとどまらず、「strict restrictionによって生じた余剰からethnic quota, poor quotaのようなpublic housing policiesをinitiateできる」というような話を出していました。

日本であれば「自己満」「遠い」と呼ばれるような話かもしれませんが、それらも例えばメカニズムを具体例を詰めながら話していたり(例えば後者であればシンガポールの話が具体例でついていました)、そのImpactまで伸ばしたりしていました。(例えば後者であれば、Oppのcounterproposalのpublic housingへの対応)あくまでIdeaの強さはmechanism, examples, impact, relevancy等の「掛け算」であり、relevancyが多少薄くてもrelevantにしていたりそれ以外が強い場合はとるというholistic adjudicationが垣間見えたと思いました。

【ジャッジ編】
そして、これらの話は実はジャッジにもRecommendationがあります。ほぼディベーターのほうで詳しく説明したので、スライドを中心にさせて頂きますが、基本的には「ディベーターにその3つを意識したRFD/FBを行う」というところになるかと思います。


1. "Sell your idea"の意識
ここで日本勢が良くも悪くもやっているのではないか、と思っているのは「アイデアの咀嚼」です。「こういうことを言いたいと思ったんだよね」という介入が多い気がしています。もちろんこれは悪いことではないのかもしれませんが、「介入しすぎていないか?」というのは見つつ、また「よりはっきりとsellしたチームに対して評価をあげる」ことが重要な気がします。また、勝ち負けに反映されなくても、「より分かりやすくsellするには」という観点でフィードバックするのが重要かもしれません。

誤解してほしくないのは、はっきり言っていないから負けね、というようなラディカルなジャッジをしろということではないです。Sellできていた度合いがRFDにはねてくるのも一個ありなのでは?というご提案です。

蛇足かもしれませんが、仕事を始めて海外のビジネスパーソンと会話することも増えたのですが、やはり海外勢は一言目から伝えたいことを明確に伝えてくるし、スライドなどをつくっていてもexplicitに書かれているか、clarityが高いかなどがフィードバックのポイントになっています。一方、日本勢だと「相手の話を咀嚼していてよかった」のようなフィードバックが来ることも多く、日本では「聞く(理解する)」「話す(伝える)」だと前者がより重要視されているような気がしました。あくまでn数も少ないので蛇足にとどめますが、「ハイコンテキストな会話」「あうんの呼吸」等の言葉からもそこそこ当てはまるのかもしれません。

2. 絶対的/相対的Impactの明示
誤解していただきたくないのは、ジャッジとしてディベートに介入するなということではありません。

例えばSIDO/QDO/HKDOのBriefingでも、「アーギュメントの重要性は明示的に言われていたものの、暗示的に合意されていたものの両方である」と言われています。また、Extensionに関しても「Judges need to look for which parts of the speeches are new」とジャッジに評価の責任はあることを伝えています。一方で、とはいえそれが明示的でない場合は評価が下がりうること、それが明示的にされていれば評価が上がりうること、というジャッジ/FBをすることは、ディベーターへの成長にもつながると思います。

ここのバランスは当然難しいですしケースバイケースです。"ImplicitではあったがOOをtackleしており・・・"と評価することもあれば、"Explicitでなかったため評価しづらく"と、評価をさげることもあると思います。ただ、Explicitなほうが評価は当然あがるので、それをFeedbackすることは重要な気がします。

3. Secondary Mechanismの強化
海外ではsecondary mechanismまで含めてしっかり説明していないと「薄い」「浅い」と言われることがあります。「コアじゃなかった」「Relevantではなかった」「自己満だった」というのは思い込みではないですか?という投げかけをしたいというところもあります。

一方で、ここでも誤解してほしくないのは、妄信的にSecondary Mechanismをとる必要はないということです。

ディベーター編でも書きましたが、「あくまでIdeaの強さはmechanism, examples, impact, relevancy等の「掛け算」であり、relevancyが多少薄くてもrelevantにしていたりそれ以外が強い場合はとるというholistic adjudicationが垣間見えたと思いました。」であり、secondary mechanismだという理由だけで評価を下げることはやめたほうがいい、というところかもしれません。

特に難しいのは、Secondary MechanismはIntuitiveでない部分もあるため、説明するうえでの力量も要するところです。いい視点であっても十分に説明力が足りずに強く立ち切らないことは多々あるかと思います。ジャッジとしては一緒に考え、どうすれば立ったのか、まで考えてあげることが重要でしょう。

最後に
3つのポイントはいかがでしたでしょうか?個人的には、ディベーター/ジャッジの相互作用の中で、この3つが日本に輸入されることにより、より日本人のディベート力があがり、海外(アジア)でも評価されることにつながることを願っています。

何かご質問などございましたらお気軽にご連絡ください。

2017年10月15日日曜日

どうすれば、上手くなれるのか? -"成長エンジンの設計方法"-

【はじめに】
「上手くなりたい!」
これは、目標の違いはあるにしろ、すべてのディベーターが思うことだと思います。
akも負けず嫌いであったことから、常にうまくなりたいと思っていました。

一方で、「上手くなる方法」があまり体系化されていないのではないか?という問題意識を持っていました。なんとなく、例えば1st SpeakerだったりClosingだったりでの「各論」はあるものの、「総論」としてどのように上手くなるのか?ということを整理することで、より多くのディベーターの成長に寄与できるのではないかと思いました。

そのような意図があり、学会発表も今年の3月にしているのですが、そこでのフィードバックやまた最近考えたことを受け、先日、Tokyoの全体練習会でまさにタイトルのような意識の高い内容のレクチャーをさせて頂きました。ポジティブな反響もあったので、少し内容をアップデートしてこちらも共有させて頂きます。(なお、普段文字が多いことも受け、パワポの練習をしたいので今回はテイストを変えてパワポも一部いれてみました)

【"成長エンジン"の設計において必要な3つの問い】
突然ですが中長期的に成長するため、あなたは下記の3つの問いに対する答えはありますか?また、3つ全ての問いを、常に問い続けていますか?ちょっと紙を出して書いてみるなり、自分で考えてみるなりしてみてください。

もしすでに問い続けている場合は、さすがだと思います。akの場合は、これをしっかり考え始めるのがいつだったのか・・・と思うと恥ずかしくて言えないかもしれません。ただ、周りで上手い人は常にこの3つの問いを何かしら持っていたのではないかと思います。

(なお、蛇足ですがこれは種明かしをすると、教育の現場でも取り入れられているシンプルな問題解決 のフレームワークに沿っています。①がTo-Be(目指す姿)、②がAs-Is(現状)、③がApproach(アプローチ)ですね。)

ただ、多くの場合この3つの問いを意識的に答え続けている人は少ないと思います。その場合、陥りがちな罠というのは下記のスライドです。

【ディベーターが陥りがちな罠】

どれも、ぎくっとしたことがあるのではないでしょうか?
何を隠そう、どれもakが見事にはまった罠です。
特に1-2年生のとき、とりあえずSQ/AP/Impact等の型に終始した後、①目指す方向もわからないまま、②格好いいスピーチもできないな、つらいなと思いながら、③ひたすらにラウンドを繰り返しました。ある種、合併症を引き起こしていたことになります。

少しだけ自分語りをすると、akは上級生のエジュケにも恵まれ、かつパートナーにもかなり恵まれ、客観的には最初結果が出たと言われています。(ありがたいことに、実際1年生の全国大会である紅葉・梅子を連覇し、JBP(当日の冬T)では1年生で全体のベストスピーカーをとることができました。今よりも圧倒的に調子にのっていましたが、WUDC(世界大会)では4試合連続4位をとり撃沈。6ラウンド終わっても3点というぼろぼろの結果でした。年明けをしても、Titech Cup、Debate no Susumeといった大会ではことごとく負け、優秀な伝説級の先輩と組んだ大会でも思うような結果を残すことができませんでした。

そんな中、ディベート戦国時代と呼ばれていた時代であることも相まって、同期はどんどんうまくなっていきます。主要な大会で結果を残す同期を見て、うらやましく、かつ悔しい思いをし続けました。そんな中、やみくもにくそーと思い、なんとなくひたすらにラウンドを馬鹿みたいに繰り返しましたが当然うまくなりません。Geminiのトライアウトにおいても、部長であるにもかかわらず上位チームであるAをとれなかったということは、akとして悔しさしか残りませんでした。

「英語がうまいだけで上手くならなっていない」「結局1年目がうまかっただけ」と、はっきりとは言われなかったものの、それをひしひしと感じ続けていたのがakでした。

そんな中、徐々に上昇傾向に戻ってきたのが下記の3つを意識し始めてからです。

【ak_debateが取り組んだこと】

一番のきっかけは、2年生になってエジュケ(トレーニング)をする立場になったことだと思います。たくさんの後輩が入ってきて、どうやれば教えられるのか必死に考えるわけです。特に当時は、高校生の経験者も入部してきたり、全国模試でトップ10に入るような"化け物級"がたくさん入部したわけです。いわゆる「突き上げ」状態。akの場合はそれまでの部長陣が圧倒的な成績を残していたことから、上からのプレッシャーも勝手に感じていました。(何か言われたわけではないです、決して。)そのあたりから、「ディベートはそもそも何か?」「Argumentとは何か?」「PrincipleとPracticalの違いは?」「強いRefutationとは何か?」のようなことを考え、かつ質問されるようになりました。(=①)このような中、①必死にディベートとは何か、強いディベーターとは何か考えることで、あれ、今自分はこれできていないよな、これはできているな、という現状把握にもつながりました。そんな中、あ、akは別に格好いいスピーチはできないのであると。とはいえWUDCでも唯一評価された反論力をヒントに、Matterで勝負していこうと決意したわけです(=②)。そこでいかにMatterがつまったスピーチを作るかの営みが始まりました。ラウンドを行ってフィードバックをもらってその再スピーチを先輩に見てもらうことを頼むという自己中心的なことをやることを行ったのもこのころからです。いわゆる「スピ練」(スピーチ練習)だけをやり始めたのもこのころです(=③)

別にその後、自分の実績をつらつらと書いたところでも誰も楽しくないので書きませんが、成長軌道に乗り始めたのはこのころだったと思いました。今思うと、本当に3つの問いに、苦しい時でも向き合い続けることだなと思いました。

とはいえ、今までの話はあくまでakの場合だったと思います。それをもう少し再現性の堅い形で、別の角度であるステップ別に考えたものが下記になります。

【ステップ別に、中長期的にうまくなるための取り組み】

結局、当たり前のことでしかないかもしれませんが、インプット・プロセス・アウトプットの繰り返しでしかありません。それぞれのステップにおいていかに効率化をはかるかが、しいて言えばkeyなのかもしれません

これでいうと、akがブログをやる理由は色々ありますが、(主には多くの人にディベート・リソースを公開して、他の人の参考になればというところですが)一つ自分のメリットとして感じていることは、実はiiiのアウトプットを強制的に行うことで、他の人を巻き込むことができるところです。幸いなことに最近はこのブログは英語即興型以外の人からのフィードバックも頂戴しており、それを契機に「ここはいいんだな、ふむふむ」と思ったり「なるほど、そういう視点もあるならこうしたほうがいいかも」のようにブラッシュアップしていくことができているため、akの理解が深まっています。そういう意味で、ぜひ早い段階からブログを書いてほしい(akが読みたいだけ)というのもあります、という蛇足でした。

いかがでしたでしょうか?今回はあえてpowerpointも使いながらの文章にしてみました。
ぜひ、feedback頂けると幸いです。
あえてやや抽象論もあるかと思いますので、「特にこの部分」のようなリクエストがありましたら、ぜひご連絡ください。

2017年9月10日日曜日

即興型ディベーターは「ディベートノート」と「マターファイル」を持て

即興型ディベートでは、プレパ時間における電子媒体でのリサーチは禁止されています。一方で、今までの紙媒体での資料の持ち込みは可能となっています。

国際大会に行くと、Economistを持ち歩いていたり、「マターファイル(Matter File)」と呼ばれるリサーチした結果を持ち歩いている人がいます。

私も現役時代はファイルでいうと2冊分、特に国際関係のリサーチ結果を中心に持ち歩いていたりしました。(大学院の授業もそれに関連していたので、場合によっては試験用につくったノートがそのままディベートに流用されることもありました)

背景としては、ak_debateは細かい内容まで覚えるのは苦手だったので、細かい地名とか人名とかは持ち歩くことにしていたというところです。特に、議題が多岐にわたる中、全部覚えておくことは難しかったので。

過去に一度もノート/ファイルをしっかりと人に見せたことはありません。ak_debateの競争優位性にかかわるのでお断りしてきました。なのですが、そろそろコミュニティに還元したほうがいいなと思ったので、そのポイントを一部ご紹介します。

私は現役生に対しては、「ディベートノート」と「マターファイル」を持て、とアドバイスしています。

【ディベートノート】
「ディベートノート」とは、ディベートのスキルに関連する内容を纏める本になります。
これは実は主に2パートに分かれていて、①総論と②各論があります。
(ak_debateは面倒くさがりだったので、大きなノートを2分割してつかっています)

①総論:
具体的には、すべてのラウンドで使えそうな理論や自分の癖とその対応法、ロール特有の話、フォーマット(NA, Asian, BP)特有の話に関してまとまっています。(また、細かい話だと英語表現などに関してもまとまっています)

これは、ak_debateはかなり楽をしたい派だったので、上記のようなセクションがすでに分けられており、ジャッジからのフィードバックをその関連する場所に書いていくスタイルをしていました。例えばジャッジからのフィードバックで、「どのようなラウンドでも使える話」が来た瞬間に、関係あるページを探し、そこにコメントを書いていました。

例えば、signpost(いろいろな定義がありますが、ここではArgumentのタイトル)に関する部分では、例えば下記のようなことが書かれています。

・抽象と具体のバランスを必ず持つ
(抽象的な1. principle, 2. practicalは辞める⇒内容がわからないため。一方で、具体的なミクロすぎる話は話が分かりづらくなる)
・(参考)抽象的な話と具体的な話をあえて両方交えるスタイルもあり
(ウィル・ジョーンズっぽく;"or, if you prefer, principle of ..."のように言い換える)
・相手チームも考慮しているようにサインポストする
(in terms of X, which is better?  Nature of Y; a or b?)
・サインポスト間の全体最適も行う
(3つArgumentがあればそのMECE感も担保する。キャラクター/時間軸等)

②各論:
これは、各テーマに応じて使える話を纏めています。
Economics、Politics、CJS、Environmentのような抽象的なレベルで1-2ページずつ使っています。

ここでのコツは、過去に考えた内容はすべて書きつつ、リサーチもして重要なポイントも抑えたうえでラウンドを行い、フィードバックをもらうことです。つまり、「今まで知っている知見」を全力投球した後、フィードバックがくるので「あ、そういう視点もあるんだな」となって進化していくため最大出力が強化されます

例えば、taxというページでは、税金の類型化が(おそらくwikipediaか何かで当時は調べていたのですが)書かれています。富の再分配(redistribution)、景気調整(built-in stabilizer)、(産業保護含む)経済政策(economic policy)、sin taxと書かれています。
(これが網羅的なのかどうかなどはパッと見わからないですが、主要なものがまとまっていたのでしょう)

読み直していて気づきましたが、英語でも必ず書いていたり、関連する事例も書いてあったりするので、すぐディベートで使えるような状態にしている意識があったようです。

このように、ディベートノートは「汎用性が高い内容」になっています。たとえるならば、すべてのラウンドで必ず二塁打が打てるように意識してつくっていました。


【マターファイル】
こちらは、②の各論ノートとの違いが難しいのですが、かなり細かい調査結果になります。ぱっと見直すと、特に国際関係を中心にまとまっています。
イスラエル・パレスチナ問題における主要なステークホルダーや事件、EUにおける仕組みとその意思決定プロセス(ASEANとの比較含む)、アフリカにおける軍事介入の成功例/失敗例とその背後にあるメカニズム等がぱっと見た感じありました。

これらのファイルは正直「ホームラン型」の内容になっており、あたれば遠く飛ぶが、毎回使えるとは限らない内容になっています。なので、優先順位も比較的下げていましたが、もし今またディベートができるならば、こちらを圧倒的に精緻化して勝ちに行くと思います。(職業柄、リサーチも早くなりましたし。。。)

(余談ですが、また、ここは大変ではありますが確実に力がつく道でもあるので、個人/組織として大きな強みを具備できていない場合はチャレンジすることも大事かと思います。)

こちらも、ディベートノートと共通するのは「すぐラウンドに使えるようにする」ことで、特定部分を少し読んでカスタマイズするとすぐ試合で使えるようになっています。

(参考)
象徴的だったのは、アジア大会(UADC)のブレイクラウンド。アジアの強豪NUSに当たった際、アフリカにおける軍事介入のモーションでした。
まずプレパ時間は、素直にモーションを読みながら、かつ必要に応じてディベートノートのほうを使いながら主要な立論を考え、相手への主要な反論もつくりきりました。その際、Whipだったので、最後の5分くらいは私はマターファイルをさらに開いて、必要に応じて例を前のスピーカーに伝えました。

調子が良かったためディベートもよく見えていたため、試合を通じて"intervention" vs "negotiation"のボトルネックがあることも理解できたため、、negotiationがなぜうまくいかないのか、interventionがなぜうまくいくのかという話を過去の交渉/介入例を使いながらスピーチしたところ、80超えの点数が付き、「Whipで試合がひっくり返った」と、いつも動画で見ていた憧れのオーストラリア人ディベーターに言われたことは、僕の中でも大きく印象に残っています。

長くなりましたが、ディベート上達のために、ディベートノート、マターファイル両方を持つことをお勧めしています。マターファイルはまだしも、少なくともディベートノートは負担も少なく簡単にできるうえ、すぐ成長につながりやすいためお勧めです。

2017年8月27日日曜日

プレパ練3種(80点プレパ練/プレパ・コンサル/Closingプレパ練)

プレパ練(プレパレーションの練習)というのは、すっかりディベーターの練習方法になっています。

位置づけとして、野球に例えるとラウンドは「練習試合」になりますが、プレパ練はその一部を切り取る形であり、例えばノックや素振りだという風にご理解ください。

具体的には、15分-30分のプレパレーション・タイムの効率化を目的に行うパターンが多いです。特に、意思疎通が難しくなる3人での場合、初めて組む相手である場合等によく使われます。実際のラウンドよりも時間が短くて済むメリットもあり、好きな人は多いです。

とはいえ、ただやみくもにプレパ練をしている人も多いかと思います。(よくあるパターン:モーションを選び、15-30分程プレパして「なるほどねー」ってなってちょっと反省するパターン)

ここでは、場合によってはより効果的になり得る、ak_debateが行っていた/行っているプレパ練のパターンを3つほどご紹介します。
(他もいろいろありますが、いったんこれくらいで!)

①「80スピーチづくり」のプレパ練(主に1人、時間は1時間程)

これは、あえて時間をかけていいスピーチを作るパターンです。(akの場合は、これにスピ練(スピーチ練習)をセットに行っています。)
意図としては、「マックスの出力」の最大化です。要は、例えばホームランを打撃練習で打てない人が、実際の試合でホームランは打てる確率ってすごく低いですよね。逆に、ホームランを普段から打てていれば、実際の試合では二塁打くらいは打てるかもしれないですし、ホームランも打ちやすくなります。

具体的にはどういうことかというと、時間をかけてでもいい+リサーチをしてでもいいので、満足のいくスピーチを作りきるところにあります。
例えば、Argumentに関してもどうすれば一番伝わるのか?を意識しながらロジックを手厚くしながら、一番ベストな例も選び、その説明の仕方も考えます。必要に応じて、ネットで音源やリサーチをして、よりベストな例を探しに行きます。
「これならいける」というレベルまでスピーチを粛々と作りこみます。必要に応じて、第三者にも聞いてもらってフィードバックを求めてさらにレベルアップさせていきます。

Tipsとしては、一回やったモーションの復習とするほうがいいとは思っています。つまり、ちゃんとすぐどこを直すかが分かるので。(このロジック分かりづらいからよりわかりやすいものを探す、具体例がなかったのでドンピシャなものを探しに行く。特定の部分の説明が長かったので短くする、等)

②プレパ・コンサルティング(主にプレパ練をしている2-3人に対して、見る、時間は実際のプレパ時間+そのフィードバック約5-15分)

これは、プレパ練を「見る」というパターンです。例えば、実際のペアがいる際にそのプレパの様子をずっと見ます。その内容をフィードバックしていく形です。

ここでのコツは、①アウトプットになろうであろう話に関するフィードバック(例:こういう話も出せばよかったんじゃない?こういう視点もあったよね?」も行うのと同時に、②そのプロセスに対してもフィードバックすることです。つまり、どうすればよりプレパが効率的になったのかを第三者的に指摘することが鍵になります。

なので、akが行う際は必ずプレパ全体を見ています。どこでコミュニケーション・ロスが発生しているのか、どこでより効率的にできるのか、何度も見ているうちにポイントは明らかになってきます。

例えばですが、よくあるパターンは議論の「発散」と「収束」のバランスが悪いパターンです。いきなり「収束」しにいってしまう場合では、議論の決めうちになってしまいます。一方で、「発散」が多すぎる場合は、どこかで「では、アーギュメントにするとどうなるかな?」というような問いを持っていく必要があります。なので、チームを見ていて、「ちょっと発散が多い気がするから、10分したらさすがに収束させにいこう」というだけで、プレパの時間が効率的になっていきます。

また、単体としては強いのにチームとしてシナジーが出ていないパターンもよくあります。それはいろいろなパターンがありますが、例えばチームとしてTBHの思考パターン(Top-Down, Bottom-Up, Horizontal)のバランスが悪いことに起因することもあります。そういった場合は、意識的に「XXさんはあえてBottom-Upで考えてみようか」というと、急にプレパがスムーズになることもあります。

③Closingプレパ練(minimumではOpening役1人、Closing役1人、大体15分-30分)
これは「akゼミ」時代によく部内で行っていた手法です。プレパ時間10-15分ほどでまずOpening役が話します。「このArgumentをこういうロジックとこういう例で話す、またこういう話も相手からくると思うからこういう反論もだいたいする」というのを出せる限り出します。そのあと、Closing役は2-3分の準備時間を置いたうえで、「Closingではこういう話をこのように出し、このようなExtensionにしていくい」という風に紹介させます。その際、判定基準はClosingが「Openingを抜き切れているか」という点です。なので、「いやあ、今回はOpening抜けなかったね」とかという所感のフィードバックがされます。

ここでのコツですが、Openingは上級生がやるほうがいいです。そうすればするほど、Closingの難易度があがっていきます。日本勢は特にClosingに弱い傾向があります(=強いOpeningの後に差別化できていないことが多い)その原因はまた別途どこかで分析してみようかと思いますが、Closingに専念する形での練習スタイルになります。

面白いもので、Closingプレパ練は、繰り返しが大事です。最初はOpeningが勝ちがちですが、何度もやるとだんだんClosingが抜き始めます。それをみて、Openingもまた強化されていきます。部全体の底上げに特に有効だと思っています。(蛇足ですが、加藤はOpening役をよくやってました。途中から後輩に負けはじめ、悔しさを覚え自分のプレパをより精緻化するインセンティブになりました 笑)

なお、変化球として、Closing役のチームを複数おくのもgoodです。Closingチーム1は、「この話を出します」といった後、Closingチーム2は、「私たちだったらこういう話をClosingで出します」というところで、競わせるパターンです。

いかがでしたでしょうか?
他にもいろいろなパターンがあるかと思いますが、プレパ練もひと手間加えると、効果があがることもあるのでぜひいろいろチャレンジしてみてください :)

2017年8月22日火曜日

良いPOIとは?

「良いPOI(Point of Information)とは?」

この問いはなかなか難しいです。
巷で言われていることとしては、

・短くてわかりやすい内容
・1つの内容だけに専念する

等と言われていますが、いまいち体系化されていない気がします。
なぜかというと、POIだけを切り取って説明することがとても難しいからだと思っています。

私は、POIは、現時点では「チームとしての合戦略性」×「端的さ」の2点により規定されていると思っています。上で書かれている内容はまさに後者にあたるものです。(15秒という制約条件の中で、どれくらいうまく言えるのか、が重要になるからです)
一方、前者である「戦略」の部分は今までなかなか即興型ディベートであまり語られていなかった気がします。

戦略に関する詳細は今度また別途話すとして、現時点では、「①チームとしてどのように勝とうとしているのか?」「②そのうえで、POIは効果的だったのか?」という2つを確認することでPOIの良し悪しを判断するのが良いと思っています。

例えば、下記のような事例を見てみましょう。

①戦略:チームの一貫性の観点から優位に立とうとする(相手はinconsistentだ!というところを一つの勝ちどころにしようとしている)/ チームのスタンスの証明責任を重くしようとする(相手が守りたい世界観をより丁寧に説明させる)

②良いPOI:相手のStanceに関する質問をする
例えば、THW legalize marijuanaの場合、Oppから"If you believe in free choice, how about hard drugs such as cocaine?" のようにして、govにスタンスをとらせる
→noと言ってきた場合は、自由を守ろうとしているのに、スタンスの一貫性がないよね、と指摘。cocaineとmarijuanaの違いは何か、という説明責任も押し付けに行く
→yesと言ってきた場合は、何でも自由を守りに行くリバタリアンだと指摘

例えば、THW ban political party based on ethnicityの場合、Oppから"How is this different from political party based on religion and ideology?"のように質問
→相手側は違いを説明せざるを得なくなる。説明ができなかった場合、ethnicityのuniquenessを証明する必要があったと指摘できる
→相手側がそれらも廃止する場合、「それでいうと、そもそもpolitical partyは特定の利益を代弁するはずに、それがそもそもできなくなる」のように批判することができる

(参考:悪いPOI:上記の戦略と関係ない内容)

これは一例ですが、あくまで「どのように勝とうとしているのか」というところと紐づいているのが一つ良いPOIの条件ではないでしょうか。

2017年7月18日火曜日

Definitionの戦略

日本語即興型の大会にいらして下さっていた方からご質問をいただきました。これは英語でも通じる話だと考えさせられましたので、どちらのオーディエンスにも向けて書いてみます。

まず、いただいた質問は下記のとおりです。

大会を拝見して「即興はdefinitionより内容重視」とはこういうことかと思いました。ただそこで、でもdefinitionしないと選手はジャッジのvoteのブレを制御しにくいのでは?と疑問も浮かびました。
例えば、予選最終試合の宇宙船が10人乗りなのか1万人乗りなのか。ここは即興なら定義しなくともよい、と講評で聞きました。でも、くじで10人決めるのと1万人決めるのって野党側が出す生命維持の価値観でみたときの印象がかなり違うように思います。
ジャッジングの物の考え方が根本的に異なるのか、それとも定義するしないの度合いはケースバイケースであり、定義によって勝敗が変わるケースもあるのか。ご教示いただけないでしょうか。  

注:予選最終試合の議題(地球に巨大隕石が衝突することが発覚した。国際社会が最善を尽くした結果、人類の唯一の生存方法としてシェルターを開発したが、生存可能な人数は限定的である。 国際社会は生存する人類を、個人の能力や専門性を考慮せず、くじ引きにより決定する)


まず、非常にハイレベルな質問ですね。私個人の見解として、2点挙げたいと思っています。

①まずおっしゃる通り、ジャッジの考え方が大きく異なる部分はあるかと思います。
即興型で特徴的なのは、あくまで内容だとされているからです。また、細かい実現可能性はさておき、どちらにしろ起きる現象の是非について議論してほしい、というところもあるかと思います。
事実、特に近年、Definitionによって生じるメリット/デメリット(Argument)の扱いは「とられない」傾向にあるかと思います。(この傾向は、加速化していると個人的に感じています)

背後にある考え方としては、上記のような範囲を問題とする定義(生存人数など)であれば、単純にHard Case(ラディカルなもので、メリットも立ちやすい一方、デメリットも大きくなる)、Soft Case(差分が小さいもので、メリットも少ない一方、デメリットも小さくなる)なのかの違いになるのみで、その他の議論に大きく影響しないため、そのジャッジの方も「定義不要」とおっしゃったのだと思います。

②一方で、近年そのような傾向が国内で強まっているようにも感じますが、それはDefinitionを戦略的に活用するチームが少なくなった、ということも原因かと思います。
(①と鶏と卵の関係でもあるかもしれませんが)

国内でも、昔はDefinitionを細かく練り上げるチームが多かったイメージがあります。(特に、調査型出身者や、細かい議論が好きな人に多かったと思います)
海外でも比較的そうだったと思っていて、例えば2011年頃まで特にアクティブだった、TateというマレーシアのディベーターはDefinitionを戦略的に活用することで有名でした。
例えば、下記の動画では2:40程Definitionに使っています。(スピーチの1/3に相当!)



Definitionを「戦略的に行う」というのはどういう意味でしょうか。2つの意味合いがあると思います。

(1)自らのサイドのArgumentをより際立たせる
例えば、THW make parental leave mandatory.
において、(1か月とかよりも)1年ほどの育児休暇を導入する、という話にしておくほうが、自分が話すであろう子育ての話などがより際立つかと思います。

THW not cover unhealthy lifestyles under the national healthcare system.
においては、unhealthy lifestylesを喫煙、飲酒などに設定しておくほうが、より具体的にジャッジがイメージできるでしょう。

(2)相手のサイドのArgument、反論を弱める
THW introduce affirmative action for LGBT in the parliament.
において、「既存の議席の中で行うのではなく、新たに議席を追加し、その議席をLGBTが争うようにする」という定義をTateは行っていますが、
これは、一見、相手のデメリットである「議席が奪われたことによる反発」等を消しに行っている戦略と見せることができます。
THW allow euthanasia for children.
において、親の同意を必須とすることも、子供の"immaturity"を消しに行く戦略かと思います。

実はかくいう私も、Definitionには比較的凝るほうです。
特に実は、アジア大会では相当に気を付けます。なぜなら、感覚的ではありますが、Definitionにより厳しいジャッジ/ディベーターが多いと個人的には感じていたからです。特にDefinitionをしっかり行わないことで評価を下げられるケースや、否定側がその重箱の隅のような内容をつついてくるケースもあったからです。

例えば、アジア大会で下記のような議題が出ました。
THW reduce a prisoner's sentence for every state-approved book that they read
変にジャッジのVoteをぶらしたくないと思った私は、下記のようなDefinitionにしました。

a. state-approved bookは、政府が設置し、民主的正当性が担保できるような第三者委員会によって決める。決め方は文科省が教科書を決めるような方式を参考にする。
b. 選ばれる本から、反社会的な内容は除く(リハビリにつながる内容)
c. 1冊によってどの程度刑期を削減できるかは本の難しさなどにも依存するが、1冊読んで1年減らすような形ではなく、おそらく1月単位。
d. 1冊きちんと読んでいるかを確認するために、レポートの提出も義務付ける。内容をしっかりと理解しているかなどは国語の教師に値する人材が判定

a,bを支えに、自分のサイドのリハビリ(改心)の話を伸ばし、c,dのような話から否定側がいうであろう、「さぼるのではないか」「不公平なのでは」というような話を削りに行っています。また、d.を活用して「本を読むという行動がpatienceやdiligenceを生み、社会復帰がしやすくなる」のような話も立論しました。

ジャッジ(オーストラリア大会準優勝経験等)からは「細かいね!(笑)」と言われたものの、対象がわかりやすく、それが不公平ではない形できちんと立論にも効いていたため高評価をもらい、(それもあってか)勝利しました。

長くなりましたが、私も質問者と一緒で、Definitionをしっかり行うことは、確かにジャッジの"ブレ"を減らすことにつながりやすいと私は考えています。
ただ、ジャッジが近年あまり評価せず、Definitionをもとにメリット/デメリットを大きく建てるチームがいなくなってきていることから、最近は下火になっているというところかと思います。

一方で、ジャッジ/相手にもよるという月並みな答えにはなってしまいますが、今後Definitionを戦略的に使うチームなどが出てきたら、また考え方が変わるのかもしれません。

2017年7月9日日曜日

日本語即興型ディベートの可能性 メモ

今日は日本語即興型のディベート大会に審査員として行ってきました。
(PJのマネジメントに少しだけかかわらせていただいており、大会には、議題のアドバイスと、事前資料作成などで携わりました)

即興型/調査型のディベーターがいりまじっていて、とても新鮮でした。
どっちもいいところがあって、すごくよかったです。

思ったことをいくつか、箇条書きで。

・即興型と調査型の大きな差分は①想定しているジャッジ像(専門家VS一般人)、②プレパ時間、③議題の幅
・調査型の優位性は、(①からくる)議論の厳密性とエビデンスの重視、(②、③からくる)Horizontal思考の徹底的な鍛え上げとリサーチ力
・即興型の優位性は、(①からくる)トップダウン/マクロ・ミクロのわかりやすいストラクチャーや感情的な説得力、(②からくる)即興性・スピード感、(③からくる)多くの議論への対応(教養/柔軟性)
・英語即興型と比べた際に日本語即興型の優位性は、日本語であるがゆえのよりクリティカルさ、political correctnessへの配慮、言葉への込める重さ等。

>All
日本語即興型ディベート面白いのでは?と思っています

>英語即興型ディベートをやっているみなさん
・調査型のHorizontal思考と議論の厳密性は盗むべき
・長時間かけて考えるのはたぶんもっとやったほうがいい(調査型はそこに命かけてるので。さらにいうと、うまい即興型の人は結構やってます)
・日本語でやるほうがもしかしたらより説得的なのかどうか精査できる場合があるのかも?(昔一部の大学でやっていた日本語即興型もありなのかもしれない)

と思いました。取り急ぎ

2017年5月26日金曜日

ディベート2.0時代の幕開け

ディベート2.0
このコンセプトだけ先出しさせてください。
自分としてもまだ練り上げているところですが、
この前非ディベーターの方に講演でお話ししたところ、とても反応がよく。
取り急ぎ、自分のメモとして。

2017年3月20日月曜日

HPDUの感想とSuggestion

今日HPDUの決勝トーナメントを見てきました。
どのラウンドも相当にレベルが高く、特にQFは感動しました。
え、これ高校生?と心の底から思いました。いくつかのスピーカーは既に梅子はもちろんですが、JPDU-Tのブレイクも狙えるレベルにあると思いました。

理由としてはいくつかありますが、
・普通にmotionにinherent/uniqueな話が多い
・5分という短い時間にもかかわらず、抽象と具体のスピーチのバランスがよく、具体の話がとても説得的にされている
・イラストが上手で、「いかにかわいそうなのか」のイモーショナルな説得もされている
・バーデン指摘や反論の視点がよく、例えば「それはモーションをとる理由になるのか?」というところまで踏み込んでいる

等があったと思います。
本当に今後が楽しみだと思いました。来年も予定があえばコミットしたいですし、ほかの機会もぜひ呼ばれればいきたいなと。(学会へのフィードバックもしたいですし)

うれしいことに、このブログを読んでくれている人もいるようなので、ちょっとアドバイス的なものも書いてみようかと思います。(今日言ったFBと被るかもしれませんが)

① 特に後半(2nd~Reply)のスピーチにおいては、アクターや時間軸の場合分けにより、より精緻な議論を行えると良いのでは?

かなりレベルが高いことを要求しているのは覚悟しているのですが、(かつ、大学生でも、なんなら僕でもできないことも多々あるのですが)議論がパラレルになりがちな時というのは、具体的な場合分け、具体的な状況をしっかりと意識することかなと思いました。違うアクターの話をしていたり、違う時間軸の話をしている場合があるわけです。

時間軸の話でいうと、例えばGF(THW prefer a world without marriage)は秀逸で、govが、PMの段階から結婚する前/結婚しているとき/離婚した後の話を時間軸で切ることに成功していたと思っています。(いわゆる「MECE」っぽくてすごいと思いました。)

これはクリアにPMからでたケースですが、実際のディベートでは「実はそれってこの時間軸の話だよね」とかってあるケースが多く、2nd以降で「相手の話はどの時間軸の話をしているのか、どのアクターの話をしているのか?」と整理し立論できればいいかなと思います。

つまり、それらがクリアでない場合は「それは結婚前の話だけであって、結婚後の話をしているからirrelevant」だとか、「結婚後における立論はしているものの、結婚前の話をそもそもしている」のような話で優位性を示しに行くような戦略ができるのではないか、と思いました。

アクターのほうの話でいうと、例えば、SFのTHW abolish all hate speech-related laws(wording may be incorrect)ですと、govは社会的な変革のような話をすることが多いと思うのですが、oppはinitialには(主にracistによる)mental harmの話がされることがあるかと思います。
この場合、実はspeak upする人が違うわけで、govは結構good intentionの場合だったり、discriminateされているところを変えたいと思っている人たちだったりし、oppであればマイノリティに無関心、もしくは差別的な人が暗黙の前提になっているかと思います。

そのような人がどのように動くのはそれぞれ違うことになるかと思うので、わけて話す必要がでてくるわけですね。

アクターのほうの例でもう一ついうと、例えばですが、THW allow organ transplant for profit.とかになると、poor/middle class/richというアクターが出てきたり、現状でcharityとしてorganをdonateしている人、等色々な形でアクターが分かれると思うのですが、「あなたはどの人の話をしているのか?」という前提は暗黙のまま話せれることもあり、これを特定できれば、「そのような人は変わらない」「そのような人は少数派である」のような戦略的な取捨選択にも至るのではないかと思っています。

じゃあこれってどうやるの?って話になるかもしれませんが、「そもそもこれらってどういう人たちなの?」「どの時間軸なの?」という問いを持つだけでも変わる気がします。中長期的には、実はこれらもクッキー・カッター的なものもあるので、(経済系モーションであれば、poor, middle class, richなど経済的な収入できる、sexやgender系であれば男女で切るなど)それらをストックしていくことが必要になるでしょう。

②「一番強い反論は何か?」という意識をする

僕は比較的細かい反論をたくさんしていくタイプではあるのですが、5分という限られた時間を鑑みると、「一番強い反論」を考える必要性があるかと思います。

これは色々な考え方がありますが、例えば
Not true, Not uniqueな反論よりも、Irrelevant, Rather counterproductive, "that is not a reason to propose/oppose the motion"のような反論のほうが強いことはあるかと思います。
また細かいNot analogous, factually falseのようなExampleというArgumentの構成要素の一つである部分に対する反論よりも、Argument全体に対する反論のほうが強いことはあるかと思います。

いわゆる「鋭い」反論というのは(教育学的にも)なかなか言語化が難しい部分ではあるらしいのですが、私は今仮説的には「より前提を切っている」「よりArgument全体にかかわる反論」のほうが強いと思っています。

もちろん、色々別の考え方もあると思うのですが、「1個しか反論できないとしたら?」という風に考えて取捨選択していくことは大事かもしれません。

テクニックとしては、ジャッジに「一番良かった反論はどれか?」のように聞いて行ってそれの共通項を探していくだとかできるといいのかもしれません。

なお、特に英語は堪能なんだけど、というような方や「細かい反論しがち」な人(=僕みたいな人)にとっては意識しておくと、一つレベルアップするチャンスかなと思いました。

いずれにしろ、僕もできていない、学生ディベーターでもできていないことが多いかもしれませんが、期待を込めて、ややハイボールを投げてみました。