2017年12月31日日曜日

プレパ・シートをつくれ! ~プレパレーションの効率を最大化するために~ その2<実践編①>

前回は、プレパ・シートの理論をご紹介しました。今回は実践編で、「どのようにつくるのか」を中心にご紹介します。今回からは実践編となります。

まず、今回のコーチの基本情報です。

【基本情報】
・コーチ対象は、ディベート6年目の院生のEさんと4年目の学部生のIさん
・Eさん・Iさん共に平均以上の成績は納めているが、とびぬけた成績はおさえられておらず、よりパフォーマンスを向上したいためak_debateに相談
・出場する大会は学部生~院生が出場できる日本の大会。今年も北東アジア大会の決勝、アジア大会の決勝トーナメントに進出した選手が出場するなど、ハイレベルな大会
・2時間のセッション×4回ほどで、計8時間ほどコーチ(1週間に1回ペースで実施)
・セッションは全てオンラインで、LINEを使用して実施(face-to-faceはゼロ)
・(無料で実施)

【Day 1:自分たちをよく知って、大まかなプレパのステップを考える
1回目のセッションでは、まず2人の強み・弱みや、プレパレーションの課題を浮き彫りにすることが主な目的でした。したがって、まず今のプレパ時間の使い方をヒアリングしました。

プレパ時間の使い方としては、はっきりとは決めていないものの、最初に数分自分たちで考えた後、主要なクラッシュを考えて、それをアーギュメントにするという流れがあるようでした。なので、プレパのステップは、「Issue特定」→「Speech化」という2つのようです。

その後、2-3回ほどEさんとIさんに2人でプレパ練をしていただきました。その間ak_debateは黙ってみています。

ここでのコツは、government/opposition、opening/closing等できるだけシチュエーションを分けてみたり、モーションも変えてみたりすることで(抽象的/具体的、テーマ別)できるだけ偏りのない形でプレパレーションを観察することです。

それが終わったらプレパレーションの感想を聞きます。「こういうところができた」「こういうところができなかった」というような話や、「なぜそうなったのか」ということをテーマにディスカッションします。

その結果、色々ありましたが、結果的に主に下記の3点が明らかになりました。

・Iさん、E三共には「相手の話」を考えることが得意;要はHorizontal思考が強い
(おそらく、お二人とも優秀なジャッジであることが影響しているかもしれません)

・一方で、プレパレーションは発散しており、「結局どう勝つのか?」という「勝ち筋」に繋がっていない。その結果、話すArgumentもなかなか定まらない
(「相手はこういうこと言ってくるかもね」という話はIさん、Eさん共にするものの、それがなぁなぁになってしまう)

・その影響もあってか、話が具体化されず抽象的なまま
(Freedom of choiceという枠はあっても、内容を聞いてみるとアナロジーが薄かったり、ロジックも怪しかったりする。そもそもそれらが共有されていない)

上記をまとめると、相手の話を考えているため戦略的な部分がある一方で、「勝ち筋」の明確化や「具体化」が不十分という課題あるため、せっかくあるアイデアの種が生かしきれずに負けてしまうことが多い、というような状況であることが分かりました。非常に勿体ないです。

今回はこの2つが主要な課題なのではないか?という点に合意した上で、まず大まかなステップの流れを「Issue特定」→「戦略立案(勝ち筋を見つける)」→「具体性を強化する」→「Speech化」という流れにしたほうが良いという風にアドバイスしました。細かいモーションのフィードバックも行いこの日の練習は終わりになりました。

<Day 1のまとめ>
・プレパのステップは「Issue特定」→「Speech化」となんとなくあったが、それを、今課題である「勝ち方を見つける」「具体化する」というステップを意識的に追加

2017年12月30日土曜日

プレパ・シートをつくれ! ~プレパレーションの効率を最大化するために~ その1<理論編>

突然ですが、あなたは「プレパ・シート」をつくったことがありますか?
百閒は一見にしかずと言いますので、まず実例をお見せしましょう。(あくまで一例です)


このように、チームとしてプレパレーション・タイムにおいて何をするかの「約束事」や「戦略」を紙に纏めたものをプレパ・シートと言います。ak_debateは各大会ごとにその人にあった「プレパ・シート」をつくることを推奨しています。

今回は理論編ということで、下記の3つの問に答えたいと思います。

1.そもそも、なぜプレパ・シートが必要なのか?
2.プレパ・シートには何が含まれるのか?
3.プレパ・シートはどのように使うのか?

(なお、<実践編>ではak_debateが実際に2017年にコーチした事例を通じて、どのようにプレパ・シートをつくるのかというのを詳しくご紹介します。ディベート自由帳初めての試みです!)

1.そもそも、なぜプレパ・シートが必要なのか?
「即興型ディベートのパフォーマンスの8割くらいはプレパレーションで決まる」というのがak_debateの考えです。(なお、良く調べたら東大ディベート部出身の世界大会のEFL 部門の優勝者も言っていました)

一方で、個人レベルでもなかなか自分の思考を「見える化」することは難しいため、毎回良いプレパができているとは限りません。例えば、調子の良い時は自分のサイド・相手のサイドの両方を考えることができても、場合によっては片方しか考えられないかもしれません。TBH思考法の一部しかできないかもしれません。

それがチームになると猶更です。準備時間の短いBP Style、3人で意思決定をしないといけないAsian Styleはどちらも難しさがあります。特に考え方やコミュニケーションスタイルは多種多様で、文字通り「十人十色」になりがちです。(大学や世代などのクセはありますが。)そこでお互いの思考プロセスを「見える化」しながら、プレパ・シートという「共通言語」ができてはじめてプレパが効率化すると言えます。

2.プレパ・シートには何が含まれるのか?
プレパ・シートはチームごとに大きく異なりますが、どのプレパ・シートにおいても以下の4要素を含むことが重要です

①:プレパのステップ(流れ)
上記の例で言うと「Issue特定」「戦略立案」「具体性強化」「Speech化」のように、何をするかです。

②:各プレパのステップで行うこと
上記の例で言うと「Issue特定」では、「相手が一番言ってくることは何か?」「一言で言うと何と何の対立なのか?」のような質問を自ら問いかけることが挙げられます。

③:各プレパのステップの時間配分
その名のとおりですが、それぞれ15~30分という時間をどのように使用するかです

④:チームとしての分業
誰が何を担当するかです。上記の例の場合は、たまたま2人が同じプロセスを同時に行っていくため反映されていませんが、場合によっては色分け等を行い分業を明確化することもあります。有名な例ですが、過去の秋T(秋季全国大会)・ESUJを連覇したチームは片方が「相手の話」、もう片方が「自分の話」を考えるような分業体制でした。

3.プレパ・シートはどのように使うのか?

プレパ・シートは、「チームで練習・試合をするときはほぼずっと」使用します。具体的には、

a.初めての顔合わせにおいて、プレパ・シートの初期ドラフトを作成
(最初はこんな感じだよね?という風につくります)

b.ラウンド前(プレパ練前)に確認
(実施にプレパを行う前にお互いにどのようにプレパレーションを行うか確認します)

c.ラウンド中に必要に応じて確認
(ラウンド中に、必要に応じてそのプレパ・シートを見ながらプレパを進めます。例えば、「この質問答えていないね」だとか、「そろそろ時間だから次のステップにうつろう」のような使用方法になります)

d.ラウンド後にアップデート
(必要に応じて、ラウンド後に2.の①~④がアップデートされます。具体的には、「Issue特定はもうちょっと時間が必要そうだから長めにとろう」「Issue特定のときに"似たようなモーションの対立軸はないか?"って考えるのはどうだろう?」のような会話が繰り広げられます)

そして、b.~d.が何度も繰り返され、どんどんブラッシュアップされていくことになります。

いかがでしたでしょうか?次回は、具体的な<実践編>となります。

2017年12月27日水曜日

[BP Novice West 2017] より良い大会にするために~ニーズ起点のビジョン/施策の検討~ 内部資料の公開

BP Novice West 2017においては、Tournament Directorの北田さん、Chief Adjudicatorの大村さんをはじめとした皆さんのパッションにより「より良い大会づくり」にチャレンジしました。

具体的には"3E Tournament (Efficient, Equal, Educational)"という大会ビジョンを掲げ、タブの効率化、運営側による内輪ネタの最小化、ジャッジセミナーの実施、"Handbook"の作成、ジャッジアセスメント等、多くの新しい具体的な施策を行いました。

具体的な様子はこちらになります。
http://blogjpdu.blogspot.jp/2017/12/bp-novice-westtdca.html

その際、内部でChief Innovation Officerを務めたakが作成したディスカッション用資料が下記になります。Chief Innovation Officerはアンケートの実施・分析、議論のたたき台としての資料づくり/ファシリテーションを担当しました。そして、TDの北田さん、CAの大村さんをはじめとしたコミ・AC全員でディスカッションし、最終的に全員で大会のビジョンを策定後、具体的にタスクを割り振って実行致しました。他の大会でも参考になるかもしれないと思い、その一連のプロセスで使用された資料をこちらで公開します。

第1回検討資料
https://drive.google.com/file/d/1hjTDQCHyUDLy8KO1JtahbVowVFwnJTpI/view

第2回検討資料
https://drive.google.com/file/d/1PVnHiBZqjvxv5bcDSrG9fzRF-LJ8UpY9/view

至らぬ点も多々あったかと思いますが、引き続きより良い大会づくりやアクティブ・ラーニングの向上に寄与できればと思いますのでご指導・ご鞭撻のほどどうぞよろしくお願いいたします。

2017年12月25日月曜日

[ニュース] 都留文科大学「英文学科、社会学科の学生が日本語ディベート大会で準優勝しました」

私も運営で関わらせていただいている日本語即興型ディベートに関して取り上げて頂きました!
大変うれしい限りです!

英文学科、社会学科の学生が日本語ディベート大会で準優勝しました
https://www.tsuru.ac.jp/news/u-news/2465.html

2017年12月23日土曜日

ジャッジ入門 ~ジャッジとしての心構え~

【サマリ】
ジャッジには、審判およびコーチとしての役割があります。もちろんこれは理想的で、最初からできるわけではありません。ですが、やりがいも大きいですし、全力でディベーターに向き合うことで、ちょっとずつでもよいのでチャレンジしていただければと思います。

【はじめに】
練習会や大会においてジャッジをすることがあるかと思います。
特に初めてのときのジャッジは緊張しますよね。ak_debateも初めてのジャッジのときはよく覚えており、先輩2人としたのですが、逆サイドに入れ、かつ理由もしっかりしていなかったのでボロボロだったのを覚えています。

スキル面では色々このブログでも取り上げていますが、(主要記事のジャッジに関する記事です。)まずそもそものマインドに関して語られることが少ないのではないかと思っているので、最初の心構えとしてどうあるべきか、という問いにチャレンジしたいと思います。

【ジャッジとしての2つの役割:"審判"と"コーチ"の理想像】
僕は、ジャッジはそもそも、①その試合における審判としての役割、②その試合を通じてスキルの上達やマインド面でのモチベーション向上に繋げるコーチ(/教育者)としての役割の2つがあると思っています。

①は、ディベーターが15-30分真剣に考えた上で、7-8分のスピーチを全力で行っているわけです。試合の最後の瞬間までPOIまで含めると考え、戦ったというのは全員に公平にあります。特定の大会であれば、初めての大会であったり、思い入れのあるパートナーとの大事な試合だったり、切磋琢磨したライバルとの試合だったり、最後になるかもという覚悟の元の試合だったりするわけです。また、その背後には何時間もの練習や試行錯誤の時間があるわけです。したがって、ジャッジとしても、真剣に、全力で向き合って、メモをとり、頭を悩ませ、場合によってはディスカッションを通じて審判を下すことがリスペクトを示すことだと思っていますし、固くいうと責任なのだと思っています。
まさに責任という言葉は僕の場合はしっくりきていて、責任は英語ではresponsibility、要はresponse(応答)するabilityなので、ディベーターに対する応答、というところが腹落ちしています。
ディベーターに期待されているのは、全力で向き合う基本姿勢というプロセス、そして公平な第三者としての審査という結果というところになるでしょう。

②は、直接的にラウンドを一番見ているわけですし、ディベーターが一番分かりやすい形でフィードバックを受けるのは現時点ではジャッジです。そうなった際に、「どういうところがよかったのか」「どういうところが改善点だったのか」という「現状」や、「このようにすればさらに良くなるのではないか」というアドバイス・フィードバックを提供することがあるとディベーターからすると嬉しいことだと思います。特に「勝ち負け」がはっきりとする競技である以上「どう勝つのか?」という客観的なゴール、「英語がうまくなりたい」「論理的思考方法を身に着けたい」「より視野を広げたい」のような主観的なゴールの両輪に対してフィードバックできるとなおよいと思っています。


【初心者ジャッジに向けたアドバイス】
上を見て思ってしまうかもしれないことは「うわ、自分にできるのかな・・・」という不安だと思います。安心してください。

いくつかの観点があります。まず、最初に書かせていただいた通り、私も最初は全然だめでした。皆最初は初心者です。どうしても人はバイアスがあるし(この人はうまい、とか、このアイデアが好き、とか、この人をずっと応援していたから頑張り賞的に評価をあげてしまう、とか)、場合によっては見落としてしまうこともあるわけです。英語の場合は語学の壁もあると思います。一方、ジャッジも筋トレのようなもので、必ず正しい努力をすればうまくなります。私自身、最初はジャッジもボロボロだった人がうまくなっていき、表彰されるようになった様子を何度も見てきています。また、ディベーターとしては結果がでなかったものの、ジャッジとして花を咲かせた人も何人もいます。なので、安心してください。時間はかかるのは当たり前です。

2つめは、それと関係しますが、最初から完璧を目指さず、少しずつ「理想」に近づけ場大丈夫です。例えば上の「審判」と「コーチ」と書きましたが、「コーチ」としての役割は明確には大会では求められていません。多くの大会ではそれは評価基準にも入っていません。(将来は変わるかもしれませんが)。フィードバックを行う技術はまた別のスキルセットであり、当然嬉しいですが徐々に身に着けるステップ論だと思っています。また、審判としても、例えばインプットとしてディベーターが言っていることをまず正確に理解できるようになる、時間はとてもかかるが公平でリーズナブルな説明ができるようになる、それが短い時間でもできるようになる、それがレベルの高いラウンドでもできるようになる、のようなステップ論です。1ステップ1ステップクリアしていけばいいのです

3つ目に、全力で頑張っていただいたのであれば、文句は言われづらいです。その時に全力で真摯にノートをとり、頭を悩ませ、根拠をもって説明してくれることが、多くのディベーターが望んでいることです。一方で、のけ反り返りながら、ちゃんとメモもとらず、上から目線でものを言ってくる人であればディベーターもイラっとします。そうでなければ、ジャッジとしては納得できなかったとしても「仕方ないな」と思ってくれたり、建設的なディスカッションができたりするわけです。仮に、全力で頑張ったのにリスペクトを払わない形で攻撃的に「噛みついて」来た人がいたら、それはak的には明確にいけていないディベーターだと思っています。(僕も過去によくジャッジに詰め寄り納得できない、と1年生の時は特に言ってしまいましたが、明確にいけていないと思っています。いくら勝ち負けがかかっていたからとはいえ、本当によくなかったなと。)ディベート界で考えても、世界大会の審査員団を務めるような海外のトップスピーカーも「ジャッジとディベーターが戦うようなことはもうやめよう、僕も過去にやってしまったけど、終わりにしよう」と何度も言っていました。実社会に出てからも思いましたが、明確にリスペクトを払われ、信頼されるのは「全力で頑張ること」です。最大出力が出せるにもかかわらず手を抜いたならともかく、最大出力がその時無かったのは明確に仕方がないことです。仮に今このカルチャーが主流じゃないとしたら、それはあるべきカルチャーやノームではないと私は断言します。仮にそういうディベーターの「被害」にあってしまった場合は「いけていないんだな」と気にしないでください。
(もちろん、ディベーター、ジャッジ間のリスペクトがある上でのconstructiveなディスカッションはすればいいと思います。)

【ジャッジのやりがい】
ジャッジがうまくなると、どうなるのでしょうか?どういうシーンでうれしさ・やりがいを覚えるのでしょうか?akの具体的なエピソードをいくつか紹介します。

・とてもハイレベルなラウンド、かつ負けたら敗退というプレッシャーのかかるタイミングで、1人で審査をしていたときのこと。どちらに入れるのもあり得るなと思ったものの、必死にクロースながらも特定のサイドが勝ったと説明しきった際、ディベーターが深く頷いてくれた

・必死に「こうやればうまくなるのじゃないかな」「ここが強みなのじゃないかな」と想像して、考えて、説明したときのこと。しばらくたってから「あの言葉に救われました」「あのおかげでうまくなりました」と言ってもらえた

・「ずっとうまくならなくて悩んでいるんですけど・・・」とラウンドが終わった後のフィードバックできてくれた。一個一個丁寧にこういう話ができるかも、だとか「こういう風なことに気を付けたらいいかもね」といったところ、ぱっと顔が明るくなって「感動しました、ありがとうございます!」と言ってくれた

上記のように、審査員は大変ではありますが、大きくその人の納得感の情勢や、その後のスキルやマインド向上に結び付くわけです。とてもやりがいのある役割だし、とても大事な役割だと思っています。

また、ジャッジも成長実感を感じることができます。最初は噛みつかれた(笑)としてもディベーターが納得してくれる。難しいラウンドであっても徐々に自信をもって説明できるようになる。アドバイスも最初は抽象的なことしか言えなかったけれども、徐々に盗んでいったりストックすることで具体的な話まで踏み込めるようになる。その結果として客観的な数字もついてきてブレイクや表彰されることもある。。。。より多くの情報を処理する能力、ディベーターの観察能力等、ディベーターとは別のスキルが伸びると思います。これは単純に楽しいですし、また、実社会でもリーズナブルに説得するというスキルにも結び付きます。(特に勝ち負けで争っている人たちに対して説得するって並大抵のことじゃないと思います。別の価値観を持っているかもしれない、という相手を説得するのは社会人になってから重要になりますよね)

【終わりに】
いかがでしたでしょうか。ぜひ、ジャッジにチャレンジしてみてくださいね :)

2017年12月17日日曜日

即興型ディベート初心者へのおすすめの「最初の詰め込み」 ~もし初大会まで5日間しかないとしたら何をするか~

今日は、即興型ディベート初心者が仮に5日後に大会に出るとしたら・・・!
と仮定して効率的であろう練習方法について書いてみました。

(メインは日本語の即興型ディベートを始めようとしている人を想定していましたが、英語の即興型ディベートにしても似たようなテクニックが使える気がします。前に部で行っていた初心者である大学1年生向けにどうやって教えていたか+ak_debateゼミ等を通じてコーチしているときにどのように教えていたかを思い出して、それを5日間のメニューに凝縮してみました。)



【背景①:日本語ディベートの盛り上がり】
背景としては、最近日本語の即興型ディベートが盛り上がってきているのですが、(ak_debateも運営・審査員などでお手伝いさせていただいています)、見ていると「ルールは一定程度わかり、なんとなくスピーチもわかってきた」じゃあどうするか?というところで躓く可能性があるなと思っています。

特に、調査型(アカデミック)のスタイルを行っていた人は、せっかくHorizontal思考のレベルが高いにもかかわらず勝ちきれずに悔しい想いをしているのではないかと思っている次第です。(なお、ディベートのプレパレーションタイムに必要な3つの思考方法、通称TBH思考法に関してはこちらをご覧ください)

【背景②:英語ディベートでの「より効率的な練習方法」のニーズ】
よくどのように練習すればいいですかね、という相談が最近増えてきたのですが、
確かに体系的に学ぶことは難しく、属人化してきたことは否めませんでした。
なので、ここで仮にカリキュラムをつくるとしたらこうなのでは、というのを提示することで各大学がトレーニング方法を体系的に考えるスタートになるのでは、と思いました。

なお、下記の前提としてはあまりラウンドができない状況を想定しています。ペアでは集まれるが・・・くらいのイメージです。ラウンドができる場合はラウンドも適宜織り交ぜてください。

大まかな5日間の流れの推奨案は下記のとおりです。なお、色々な考え方もあるでしょうし、あくまで現時点の初期仮説となります。ぜひフィードバックください。



Day 1: 「大きな対立軸」を一回なぞってみる

英語の即興型ディベートの経験者がなんとか15-30分の準備時間でスピーチを組み立てられるのは、所謂「大きな対立軸」のパターン認識があるところは大きいと思っています。

色々な説明の方法はありますが、私はこれを「実社会のアドボカシー」(特定の考えを持つ人を代弁する)ととらえています。

例えば、いわゆる炭素税を導入する、というような議題になると簡略化すると環境の権利 VS 企業の権利の大きな対立となります。これは例えば、肯定側は特定の環境保護団体のNGOの代弁をすることになるかもしれませんし、否定側は企業や経済団体のトップの代弁をすることになるかもしれません。

もう一つ例を挙げると、煙草を禁止する、のような議題では簡略化すると、健康(体に悪いのだから禁止しよう) VS 自由 (個人が健康を害するのも幸せを追求する一つの方法だ) のような大きな対立になります。これはいいかえると、パターナリズム VS リベラリズム、大きな政府 VS 小さな政府を信条としている人の代弁かもしれません。

このような「大きな対立軸」を理解しておくことの良さは、「あ、この議題、似たようなことやったことある!(構図がこれと一緒だ)」という思考のショートカットができるところにあります。例えば、上記の2つを知っていると、下記のようなモーションも一見難しいものの、「あ、似たような対立軸になる」という風になります。

・先進国のエネルギー企業は、新興国においても先進国の環境基準を守るべきだ(THBT energy companies of developed countries operating in developing countries should adhere to the environmental standards of their countries of origin.)
・環境マーケットの創出を、援助の条件とする(ただし、緊急時の援助は除く)(THW make the development of eco-friendly industry a condition for receiving non-emergency aid.)
・飲み放題を禁止する(THW ban all-you-can-drink option)
・嗜好用のマリファナを合法化する(THW legalize marijuana for pleasure)

具体的にはどのように学んでいけばよいでしょうか?
日本語の資料ですと、ちょっと長いのですが、やはり今読み直しても秀逸だなというのは、この「Principle-奥田さん (ICU/早稲田大学 OB)」の資料です。(なお、奥田さんはICUの黄金時代の4枚エースの1人で、伝説ディベーターのひとりです)
http://www.jpdu.org/?page_id=23
なお、ak_debateは1年目の夏に3回くらい読みました。

英語の資料ですと、Monash大学(オーストラリアの強豪校。世界大会も何度も優勝している世界トップクラスの大学)が出している"1st Principle"に関するレジュメがおすすめです。こちら、18ページなので英語が苦手な方でもぜひチャレンジしてみてください。
http://www.monashdebaters.com/downloads/GuideToFirstPrinciples.pdf

なお、ここで出てくるDemocracyのAccountability, Representation, Participation、Criminal Justice SystemのRetribution, Protection, Deterrence, Rehabilitationは特に強豪ディベーターですらArgumentの出発点にに用いています。まずは、これらで主要な議題のなんとなくのイメージ感を持ってほしいと思っています。

Day 2: 何度かPrime Minister Speechを行ってみる

ak_debateはPrime Ministerこそ、ディベートの神髄だと思っています。一番短いプレパレーションタイムで、相手の話も考慮した強い話を立てるってすごく技術がいることだなと思っています。(実はこのような背景もあって、部の代表時にトライアウト(選抜)においてはじめてPrime Minister Speechによる選抜を導入したのは余談です)

まずは恐れずに、15-20分のプレパレーション時間を用いて、実際に大会のスピーチ時間(多くの場合は7分)のスピーチをしてみてください。議題は色々なところがまとめていますが、英語即興型ですと、UTDS(http://resources.tokyodebate.org/debate-motion/motions/)がよくまとまっています。(日本語即興型となるとCDSの過去ページになるかと思いますが、そちらもプール(絶対数)としてはまだ少ないため、英語即興型の論題を使用することをおすすめしています)

具体的には、アジア大会のような国際大会ですと難易度が高すぎるかと思いますので、まず総じてモーションの難易度が低めの傾向にあるNA Styleのモーションがいいと思います。(こちらは、多くの大学で導入編として使用されているため、大会も1-2年生向けのが多いからです。なお、UTDSのモーションですとESUJモーションのみ1年生大会ではありません)。

このプロセスの目的は3つあります。

1つ目に、Day 1で行った「大きな対立軸」のストック/アップデートを行うことです。色々なモーションをやりながら、「あ、これはこの対立軸だな」「あ、これはちょっと違って、動物の権利対人間の権利だな」なるほど、という風にストックしていきます。頭がいい人は覚えられると思うのですが、ak_debateのように要領が悪い場合はディベートノートに書きます(関連する記事はこちらです)要は、ノートにテーマ(ないし対立軸)ごとにストックしていくイメージです。

次に、「スピーチ(アウトプット)」に慣れることです。残念ながらディベートは現段階ではアウトプットのみで評価されます。「いいアイデアがあったのに・・・」という人は良くいますが(事実、私もパートナー運がよく、だいたいパートナーに助けられています)とはいえジャッジはそこまでわからずスピーチを評価します。口を回す慣れもそうですし、最終的に目指す「ゴール」を明確化する意図もあります。

3つ目に、「スピーチでできていること、足りないところ」を明確化することにあります。できればフィードバックがあるほうがベターなのですが、ない場合は自分で録音して聞き直すことになるかと思います。例えば、「関係のある話はできる」「可愛そうな描写ができる」「具体性がない」「そもそも早くてわからない」のような現状分析(アセスメント)になるかもしれません。

なお、スピーチの型ですが、教科書などに書いていない場合、Triple A、AREA等を用いるのが良いと思います。(Triple Aに関する記事はこちら。)時間がない場合はAREAにフォーカスしましょう。Assertion, Reasoning, Example, Assertionの略で、主張・理由・例・主張です。これをStatus Quo(現状)、After Plan(政策後)であったり、our model(私たちのパラダイム・世界観)・their model(相手側のパラダイム・世界観)で並列に話します。つまり、

「私たちのパラダイムでは、XXXが起こります(A)。理由はYつあって。なぜなら、XXXだから・・・そしてXXXだから・・・です(R)。例えば、XXXです(E)。その結果、XXXが起こります(A)。一方、相手のパラダイムでは・・・」という風に話します。これは、本当にベーシックな型で、当然色々な批判はあるのですが、守破離でいう「守」では最適だと思っています。なぜかというと、①スピーチをひとまず結論からわかりやすく言えるので一定程度ジャッジに伝わりやすくなるし、②理由をかならずつけ、かつ相手のパラダイムとも絶対に比較する、③具体例によって議論を地に足をつける、癖をつけてくれるからです。

Day 3: プレパレーションの初期戦略を立案する

私は即興型ディベートのパフォーマンスの8割くらいはプレパレーション(準備時間)で決まると思っています。したがって、プレパレーションのコーチングは現役時代からよく行っており、選手のパフォーマンスが面白いほど伸びる様子を何度も目にしてきました。なのでここの戦略は肝となります。

色々な型があると思いますし、本格的な戦略立案には私は3-4回のセッションを頂戴することが多いのですが、いったん個人レベルで行うこととしてお勧めしているのは、まずあなたにとって最適の「時間の使い方」のルールを決めることです。例えば、

・最初の5分は個人でブレインストーミング(広く考える)
・次の5分はアイデアの共有(アイデアの発散)
・次の2-3分は勝ちどころの確認・アイデアの収束/取捨選択
・残りの時間は具体的なスピーチづくり

のようになるかと思います。
その際活きてくるのはak_debateが提唱している「TBH思考法」となります。(詳しい解説はこちら)要は、Top-Down、Bottom-Up、Horizontalで考えるというところになります。なお、経験則的に、コンスタントにブレイク(決勝トーナメントに進出)したり個人賞を受賞したりする人は最低2つの思考法を持っていることが多く、優勝するチームや圧倒的な個人は3つの思考法を使いこなしている傾向にあります。初心者の場合はまず、足元の戦略として当然全部を頑張るのは中長期的に行ってほしいのですが、まずは1つ武器となりそうな思考法を軸にすることを意識しましょう。例えば、私の部ではまずは日本人の多くが得意な傾向にあるBottom-Upからお勧めしています。これは実は戦略的な意味もあって、Bottom-Upで考えることは具体的になりやすいというところがあるので、最初の1st PrincipleがややTop-Down/Horizontalの初期インプットになると想定すると、Bottom-Upによって補完するという一定程度「完成させる」意味があります。さらには、ジャッジとしても具体的な話はやはり取りやすく、勝ちに直結する傾向にあります。

3日目の目的としては、2日目で行った最後のアウトプットを意識しながら、さらに「大きな対立軸」をストックしながら、実際そのアウトプットに向けた「プロセス」を精緻化していくという流れです。ある種、1日目でインプット、3日目でアウトプットを、2日目でプロセスを強化しているというデザインになっています。

なお、このプロセスをやる際に、ぜひディベートノートはアップデートしてください。

Day 4:試合的な環境に身を置く

3日間ストイックにやっていると、なんとなくの感覚はつかめてきます。ここで重要になるのはとはいえ、やや「机上」で行っているため、「実践」が薄い可能性が高いというところです。具体的な試合になると、様々なことが起こります。分かりやすいのは反論ですね。相手の話への対応を考えないといけなくなるのですが、これはなかなか予想がつかなかったりもします。特に、2nd Speaker以降となればなおさらです。

(万が一BP Style等に出るというのであれば、できるだけClosing、特に一番難しいと言われているClosing Governmentをやることをおすすめしています)

もちろん試合ができればベストになります。具体的には、どこかの大学にお邪魔することになるでしょう。意外とFacebookで頼むとOKしてくれるパターンがあります。または練習会も場合によっては開催されています。また、一部の大学ですとSkypeでラウンドをすることもあります。ak_debateも例えば九州のディベートを東京でジャッジしたことがあります。海外だと、マカオ VS シンガポールの試合がフィリピンのジャッジによってSkypeでラウンドとして成立していることもあったと思います。なのでふんだんにテクノロジーも使ってみてください。

試合ができない場合は、どのようにするかというといくつかのパターンがあります。まず2人以上いる場合であれば、途中までででもいいのでラウンドをしてみてください。いわゆる「アイアンマン」と言われる1vs1のディベートもak_debateもたくさんやりました。特に、私の代は部員の数が私を含めて6人だったので、毎回6人くれば良いのですが、最悪2人しかおらず1vs1で練習したこともあります。また、ストイックに負けず嫌いなak_debateは、先代部長に頼み込んで1vs1でAsian Style(3回スピーチを行う)もやっていただきました。今思うと本当先輩には頭があがりません。

それも難しい場合は、英語即興型の場合は、ぜひ音源を聞いてみてそれに反論・立論することを考えてみてください。JPDUのYouTube等、多くの音源がレベル別にあると思いますので、それを聞いてLOだったとしたら、という練習は最低限出来ると思います。また、MGをやるというということもできなくはないです。(ak_debateも一時期やっていました) 日本語即興型の場合はリソースが今の段階では少ないですが中長期的にはできるようになるかもしれません。

ここでのポイントは、実際の試合になって改めて必要になったこと、工夫できることを洗い出すことになります。もしかしたらプレパ戦略がアップデートされるかもしれまんせんし、それ以外にも気を付けるポイントというのが出てくるかもしれません。

なお、このプロセスをやる際に、ぜひディベートノートはアップデートしてください。色々見えてくると思います。

Day 5:復習して、個別的な練習を行い、最後はコンディションを最適化する

いよいよ最終日となります。ここで行う必要があるのは、「復習」です。ここから詰め込もうとしてもなかなか自分のものにならないので、諦めましょう。割り切ったほうが効率的です。

行うことはまずディベートノートを読み返しましょう。どういうことができて、どういう工夫をすればよいのかというのを改めて見返します。ここでお勧めなのは、ディベートノートの1ページを使って、「To-Doリスト」をつくることです。

例えば、ak_debateでは、
【プレパ】
・Bottom-Upだけではなく、Horizontalにも考える(=相手が言ってくることは何か?)
・必ず具体的に話す(どうかわいそうなの?どう嬉しいの?)
【スピーチ】
・Status Quo, After Plan, ImpactのAREAを徹底する
・反論は短くする

のようなチェックリストをもって大会に臨んだことがあります。あまり多くても大変なので、シンプルに減らすことがポイントです。

また、Day3につくったプレパレーションの型ももう一回確認します。改めてこの時間配分で明日もがんばろう、と思うわけです。

そして最終日なので、何かに特化した練習だけ少しだけ行います。例えばやっぱりスピーチが不安なのであればスピ練でしょうし、プレパに不安があるならプレパ、その中でも例えば特定の議題が不安なら特定の議題をやることもあるかもしれません。あくまで、4日間の結果を受けて集中的に練習するわけです。

そして最後は・・・大事ですが寝ることです。コンディションを最大化しましょう。さっさと携帯を閉じて布団でぐっすり寝るのが結局はいいことです。あとは「楽しもう」とかポジティブなイメージをもったりすることも、ak_debateは個人的にはやっています。

いかがでしたでしょうか。
もし、5日間しかないとしたら、と考えてみました。もしそのような相談がきたとしたら、ak_debateは過去の経験上、上記のような時間の使い方をお勧めします。
質問などございましたら、いつでもお気軽にご連絡ください!


2017年12月16日土曜日

【寄稿文】続・効率的に本を読む4つのポイント

効率的に本を読む4つのポイント を前回書かせていただいたところ、
下記のような寄稿文を頂戴しました。ありがとうございます!!
やり方の工夫はチャレンジなんでしょうね。。。!

***
某大学のディベーターです、以前読書会のようなものを実施していたのでその時の事について書いてみようと思います。

〇どのようにしていたか?
・各自が違う本を読む。1人1冊(一応フリーライダー:自分は読まないけど参加したい、は認めてなかった)
・授業の空きコマなどを調整し毎週特定の時間に3~5人くらいで集まり、各自が読んだ本の内容についてまとめて解説する(パワポなどは用意せず。やるとしてもホワイトボードに書くくらい)
・本のジャンルが被らないようにしていた
・居合わせなかった人のためにLINEのノートにも掲載する
・1か月で1冊読み終わるペースを目標としていた、本の内容や厚さにももちろんよるが

〇効用
・私的に「マターが増える」という効果はそこまでなかったように感じた。というのも結局他人から見聞したものであるためそれだけで十分使えるレベルの知識化と言われると疑問は残る。しかし、以下のような利益はあったように見える。

1:マターやアイディア・リサーチのとっかかりになる
→読書会で聞いた話について自身で深くリサーチすると漸く身に付く印象。また自身が避けがちな分野の入門書とかに触れることができるのでどのヨナ本を読むといいのかという見当もつけれるようになる

2:他人に分かりやすく伝える力
→LINEのノートなどを見ると人によってまとめ方が様々。本の内容をただ復唱転写するのではなく要点を押さえ分かりやすく再構成してまとめる力が(意識して実践すれば)伸びる。簡略化しすぎても伝わらないし内容を濃くしすぎても具体例とかばかりで説明も煩雑に

3:Motionや実際のディベートへの応用を前提として知識の吸収ができる
→自身が読んでいる・他人が読んだ本はどのようなMotionにおいて使えるのかという点を意識することで単なる知識で終わらずディベートに使える理論やケーススタディに化ける

対して以下のような問題点はあった。
1:自身が参加できていない読書会での情報がLINEノートに限られる。その際LINEノートのまとめ方がよろしくない(=結局口で聞かないと分かりにくいレベル)だと吸収できない
⇒何か統一したフォーマットなどがあると良いかも。しかし本の内容やジャンルにより異なるので難しいか。

2:人によって忙しさがまちまち・波もあるため定期的に続けていくのが困難。参加者みんな忙しかったので誰も発表の準備ができていないということも
⇒何か対策が欲しい。正直ここが一番深刻化も

3:そもそも何の本を読んだらいいのかわからない、ということもあった
⇒当時は先輩のアドバイスなどで何とかなっていたが、今思えばUTDS resourceのbookの部分なども活用すればよかったかもしれない。しかしお勧めの本についてまとめるサイトとか今後より拡大していくべきだなあと感じる。1大学に頼るのではそれこそフリーライダーな印象なのでコミュニティ全体でどうにかしたい

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