2014年5月17日土曜日

モーションの作り方④(終) Motion Philosophy

いよいよこのシリーズも最後になりました。
モーションの作り方なのですが、最後に実は一番最初にカバーしておくべき内容を書きたいと思います。

それは、「Motion Philosophy」という考え方です。

僕は、MotionはAdjudication Coreからのメッセージ性があると考えています。
どのようなメッセージ性を込めるかは各ACの好みでもあると思いますが、限られた大会の中でACをやる以上、僕はそれなりの責任があると思っています。(ちゃんと出来ているかどうかは分かりませんが。)

したがって、僕はモーションに関して哲学を持とうと思っていますし、そういうことを早い段階でACと共有しようと思っています。

具体的にMotion Philosophyというのは、その大会で、このACが、どういった問題意識を抱き、どういうことを得て欲しく、ディベート界に何かしら正の遺産を残せないかという問いに答えていく営みだと思っています。

それは、具体的には
①ACがどのような問題意識を持っているか?
・自分がディベート界に足りないと思っているものは?
・今のモーションに足りないものは?
・日本人がさらに活躍できるには?
・僕ら・私たちが出来ることは何か?

②この大会の参加者は何が必要か?
・参加者は何を求めているのか?
・参加者が今後必要になっていくものは何か?

というような問いに答えていくのではないでしょうか。

例えばですが、一番最初のCAは僕はPre Icho Cup 2011なのですが、その際「基本に大切にしっかりすれば思いつくモーション」をコンセプトに、新2-3年生の基礎の確認になればと思って出しました。
最近の春Tでは(少なくとも僕は)世界中の色々な話を知ってほしい、でも背後にある対立軸をおろそかにしておしくないというメッセージがありました。その理由はこの前他のところにも書いたので割愛します。

また、Gemini 2011では「難しいモーションも出来るようになって欲しい」というACの願いが込められていたと聞きました。

こうしたMotion Philosophyがあると、その後モーションを選ぶ際にも取捨選択の軸になりますね。

最後に、少し脱線するのですが、モーションというのは参加しているディベーターだけではなく、将来のディベーターにも影響します。なので、しっかりとしたPhilosophyがあるといいんじゃないかなぁと個人的には思っています。

2014年5月12日月曜日

モーションの作り方③ 最終調整

いよいよシリーズ第三弾です。

モーションの公平性が担保できたら、次は最終調整です。具体的にはどのようなことをするのでしょうか。

(1) モーションのwordingを最終調整
大事なのは、「初めてこのモーションを見た人が、モーションの意味が分かるか?」「変な抜け穴がないか?」というところです。「こういう範囲のディベートをして欲しい」ということに関して混乱しないのが重要です。

春Tの例を挙げます。
THW outlaw suicide tourism for non-residents. というモーション候補がありました。
ACとしては、基本的には安楽死したい人ができないから海外に渡航する」みたいなイメージでした。海外で臓器移植したりするようなニュアンスですね。

ただ、ニュアンスとしてあったのが、「安楽死が違法の国からきている人」というところでした。それをもう少し明確化したかったため、以下のような変更点を加えました。
THW not euthanize travellers from nations where euthanasia is illegal.

くだらない抜け穴として"non-residents"でも安楽死が合法化されていたり・・・とか変なクレームとかごちゃりを避けることも少し意図としてはありました。

なお、人によってはwordingをかっこよくしたり、短くすることを目指す人もいるようです。僕も紅葉杯の反省から短くしようとしています。。。笑

(2) モーション全体のDiversity
個々のモーションがよくても、全体として偏っているモーション群というのはよくあります。
例えば、ラディカルなモーションが多かったり、CJSが多かったり……というものです。
テーマがかぶっていたり、動詞がかぶっていたり、対象がかぶっていたり、対立軸がかぶっていたり、といろいろな「かぶり」が想定されます。したがって、色々なモーションが無いのであれば必要に応じて特定の分野を考えたりするのも重要です。

どうしてもという時に、もし仮に似たようなモーションを出す場合は、できるだけ離して出しましょう。(予選と本戦等)
また、最近大会で出ていないかのチェックもここで入ります。

(3) (Asianの場合)3-motionの中の公平性
これはAsianに特有な話ですが、3モーションが並んだときに「実質1モーション状態」が起きていないか調べるのが大事です。
つまり、govだったら絶対これveto、oppだったらこれ絶対vetoとか。
また、2つ以上vetoしたいのが並んでいないか、などという点を確認することが肝要になります。

僕がACの時にやるのは、各自がgov, oppで1,2,3のランキングをつくってみることです。
ここでの考えがばらけたり「これは好みだな」という状況であれば大丈夫だと思います。
3-motionは特にACの自己満モーションをいれやすくなるので(経験談)気をつけましょう。

(4) ラウンドのアロケーション
また、どのラウンドにどのモーションを出すのかというのも重要になっています。
ちまたでよく言われる内容はこのようになっていますが、必ずしもそうである必要はないと思います。ACでぜひとも話し合ってください

・R4(予選最終ラウンドは最も公平なモーション
bubbleであるため、最も公平なモーションが求められます。

・OF(本戦初戦)は難しいモーション
実力があるチームとそうでないチームを振り分けるため、難しいモーションが望ましいとされています。

・GFは、ACの色が出るモーションや、最近ホットな内容
ex. HKDO 2012のban the publication of opinion pollは、その当時アメリカ大統領選挙があってホットで、ACの満場一致でした。
BP Novice 2011の THW ban expressions which glorify assassination.も、当時assassinationがほっとでした。
JPDU Spring Tournament 2012の時に古典が3つでましたがあれはACの「基本に忠実に話すこと」
というメッセージがありました。

・R1はwarm up的なモーション
古典や、わかりやすいモーションを好む人がいます。朝一なので。
ちなみに僕はR1から飛ばす方が好きです。


という感じになると思います。いかがでしたでしょうか。
実は「最終調整」というタイトルがありますがまだ続きます。そもそもモーションを出すとき何を最初に考えているかという話があるので。
続きます。

2014年5月2日金曜日

モーションの作り方② 公平性を担保する


アイディアが面白くても公平性が担保されていない場合があります。結局ディベートで一番重要なのは公平性だと僕は思いますし。
このままじゃGov/Opp(ないし、Closing)に有利・不利という可能性があります。

基本的にはAsianでもBPでもそこまで変わらないのですが、BPの場合"depth(richness)"という概念が登場するので、それだけ別で後で書きます。

では、公平性はどのようにして考えればいいのでしょうか?
僕の中でちゃんとした答えはないのですが、Gov/Oppでしっかりプレパしてみるとことだと思います。

ここで、調整していくものとして例えば

・動詞に注目する (ban⇔何かしらのregulate等, force⇔allow等)
・Value motionにしてみる (It is legitimate to, THBT...)
・Assumingでburdenを減らす (Assuming that both options are available...)
・対象をコントロールする (all⇔some、抽象的⇔具体的)
ということもありだと思います。

また、Oppのstrategicなカンプラ、スタンスによって死なないようなwordingであるかも重要になります。

プレパしてみると分かりますが、片方のインパクトがどうしても弱い場合があったりとかもします。
なのでAC会議でも「この話にどうやって対抗するの?」という答えはある程度出ないとあんまり良いモーションではないのかもしれません。


BPに関してはですが、5-6個各サイドで分析がでるかどうかを必ずチェックするのが大事だとよく言われています。(僕がACに入ったときは全部5-6個出ることを確認してから出しています)
そのためにキーワードをちょっと1個増やしてあげたりするとかで話が広がることもあります。
(主体を入れてみたりする等)

また、補足ですが場合によってはinfoslideを作ることも必要でしょう。対象として、キーワードや、backgroundをinfoslideにのっけることが多いと思います。

2014年5月1日木曜日

モーションの作り方① 最初のアイディアの出し方


巷では、最終的に公平性やダイバーシティを重視しながらモーションをつくろうというような事が書いてあります。かなり僕自身も参考にしていて、モーションがある程度出た後どうやって吟味していくかはすごくよく分かりました。
(ex. Shengwuのブログ等)

でもここでは、「そもそも最初のアイディアの出し方」に関して書こうと思います。そういう記事を書いている人って今のところみたことがないので。

あくまで我流ですので参考程度にお願いします。
また、アイディアを出した=そこから必ずしも良いモーションになるとは限らないので、僕の没モーションは悲惨なことになっています……。
大事なのはとりあえずアイディアベースに最初出してみてみるところってところだと思うので、(ブレストはたくさんしましょう)ちょっと書いてみますね。

(1) 新聞記事、雑誌の記事、本等を少し読んで、「problem」を考える
これは完全にTateの受け売りなのですが、HKDOでTateがどんな風にモーションを考えているか聞いたところ「どうすればこの世界がもっと良くなるのか?」という視点を持つことが大事らしいです。
となると、何かしらの「problem」を考えるのが大事なんだと思います。

例えばですが、先日三鷹のストーカー事件ってありましたよね。それから気になってストーカーのドキュメンタリーを見てみまり、ちょっとネットで調べてみました。
そこで知ったのは現行の法律だと、ストーカーに関しては例え警察に相談しにいってたとしても、最終的には被害者の同意がないと動けないとのことでした。
だいたいストーカーというのは第三者ではなく、もともと自分の元恋人だったりするわけで非常にジレンマに陥るとのことです。その間にストーカーの被害がエスカレートしてしまうこともあるとのこと。
「これって問題なんじゃないかな?」と思って生まれたのが以下のモーションです。

THW allow the police to act (ex. warning, prevention measures) regarding the stalker without victim's consent.(JPDU Spring Tournament 2014 R4)


(2) problemの解決方法を考える(動詞・制度に着目)

problemが分かったらrectifyしないといけません。その方法として着目するのが、「動詞」や「制度」だと思います。
例えばよくありがちなのが、何かあったらbanしておこうという考えです。

一つ例をあげます。EUって人権守っている主体のはずなのに、ネオナチとか極右の政党が台頭しているけどいいのかなと。
そこで、廃止しようと思ってつくったのがこのモーションです。(Sharmilaも気に入っていて本当はHKDOで出す予定だったのですが、opinion pollの方がホットだったので見送られました。)
THBT EU states should ban ultra-nationalist/far-right political parties.(Ryoso Cup 2012 GF)

でもban/legalizeって結構extremeなんですよね。なので、他の「動詞」や「制度」を考えてみます。
「あ、この制度使えるじゃん!」シンプルな例を挙げます。なんとなく日本って医療モーション少ないなぁと思いながら医療訴訟とか調べていました。
そういえば産婦人科とか今少ないらしいなぁ、でもありきたりなモーションばかりだなぁと思っていました。
(ex. THW make juries of malpractice litigation comprised by doctors. 等)

なんか無いのかなぁと思って調べていたら、ニュージーランドのACCという試みがあるというのを知りました。
「あ、これいいんじゃないかな?」と思ってかつ、基本的な対立軸は過失責任と無過失責任になるなと思いつつ、そのまんま安直ですがモーションにしてみました。
THW introduce ACC (Accident Compensation Corporation) scheme in doctor-patient relationship.(JPDU Spring Tournament 2014 OF)


でもやっぱりまだレベルってあがりそうですね。オリジナル感が欲しいですし。
例えば、インド等がコンテキストで女性が性犯罪に苦しんでいます。そういう時にそうすればいいかというと、男性側にもっと責任を負わせるパターンも良いですが女性側をどうやってさらにempowerするかという議論になるかもしれません。
それだと、自分で自分の体を守れたほうが良いなと思って生まれたのがこのモーションです。
THBT the government should distribute free lethal weapons to women living in misogynistic community with excessively high rate of sexual violence.(Titech Cup 2013 QF)

ちょっとイメージとしては、THBT US government should subsidize twitter to liberalize oppressed societies.のように、empowerしていこうよみたいな感じです。


他の例をあげます。警察って色々問題起こしたりしているなぁと。あ、あとそういえば民営化ってよくされてるよなぁ、prisonとかもされてるし。
と「民営化」という手法が思いついてつくって、ACから評価が高かったのがこのモーションです。
THW privatize the police.  (HKDO 2012 R1)

とりあえず、アイディアとしては「動詞」「制度」に注目するというニュアンスが伝わると幸いです。
コツとしては、自分が知っている動詞や制度、もしくは他のモーションである動詞や制度を連想することです。

個人的な感想としては、SharmilaとかTateはこういうモーションが好きな印象があります。
例えば、Berlin WUDCではTHBT countries with booming populations should allocate every adult a single tradable permit to have a child.というモーションが出ましたが、これは「carbon emission trading」という市場原理を導入していることに他なりませんし。


(3) 主体を考えてみる
他の発想方法として、主体を発想してみるというのがあります。

最近流行っているTHBT the feminist movement should...というようないわゆる「アクターディベート」モーションですね。
海外の大会を見てみると、TH, as North Korea,...等主体をかえていることが多いです。

例えば、ICCってcrime against humanityとかをprosecuteしているのはもはや最近では有名になりましたね。
ICC should prosecute crimes against democracyとか、色々ICCモーションってありますよね。そこからアイディアをもらったのが以下のモーションです。

THBT ICC should prosecute heads of IMF upon assisted countries' requests. (Ryoso Cup 2012)


(4) extremeに考える思考実験をしてみる
僕が好きなのはとことんの極限状態とか、とことん何かやってみるとか、想像の世界に思いを寄せてみることです。
なんでかというと、過去の哲学者がやっていたように本質的な議論、対立軸に近づくからです。

Assume that a large meteorite is about to hit the Earth.  The international community was able to build a perfect underground shelter which can hold and sustain a small number of people for reasonable years until human can live again on Earth.  There is no way to avert the crisis.
THW choose who survives based on a lottery-of-fate rather than considering any personal ability/professional skills.(Titech Cup 2012 R2)

これは結局資源の分配の仕方という経済学の問いですね。


いかがだったでしょうか。他にもモーションのアイディアの出し方の方法はあると思います。
(僕もこうやって体系立ててやっているわけじゃなくて、結構勘とか暗黙知の部分は多いと思いますが、言語化するとこの4つは思考パターンとしてあるのかなと思いました。)
少しでもお役に立てると幸いです。