2018年1月3日水曜日

即興型ディベートに必要な能力を身に着けるための練習法シリーズ① 思考法

最近テスト期間ということもあってか、一人でもできる練習方法を質問されることが多いです。また、例えばプレパ練をより効率的にするにはですとか、英語力をどのように向上させるのか、ですとか色々個別具体的な練習方法に関する問い合わせもSarahah・メッセンジャー等で頂戴しています。

したがって今回、一回ステップバックして、「即興型ディベートに必要な能力を身に着けるための練習法シリーズ」と題して連載をしてみようと思います。背後にある考え方というのは、「即興型ディベートが"上手い人"が身に着けている能力というのを効果的に身に着けて上手くなろう」というアプローチです。
(なお、即興型ディベートを通じて身につく能力に関してはak_debateが別途学会発表済で、現在私の研究者としての研究テーマとして検証・論文化を進めている最中にあります。また結果などをご共有できればと思います)

以前か即興型ディベートで必要な能力(≒身につく能力)としてTBH思考法をご紹介させて頂きました。具体的なコーチの際(実践編)でも使用させて頂いておりますが、ここではもう一段深堀りして練習法にまで落としてみようと思います。

かなりボリューミーになったので、サマリを最初に載せます。


<1. Top-Down思考法とその練習法>
即興型ディベートにおいてはマクロ的な思考(根本的な問いを起点に発想していく思考)と定義しております。

私はこれは言い換えると「因数分解」する力、「構成要素を明らかにする力」でもあると思っています。いくつかのパターンがあると思っています。

例えば、古典的ですがTHW ban tobacco.(タバコ廃止)、THW allow active euthanasia.(積極的安楽死)のような「選択」に関するディベートであれば、個人の次元で言うと「選択」とその「結果」に関して因数分解することができます。具体的なディベートの議論としてタバコを吸う/安楽死を選ぶという選択の妥当性(例:自由意志に基づいているのか)、結果の良し悪し(例:健康への害、苦痛からの解放、死)の論点が出てくることが分かってきます。

時間軸として「因数分解」する場合、例えばTH prefers a world without marriage.(結婚制度が存在しない世界のほうが今の世界よりも望ましい)の場合、結婚前、結婚という選択をする際、結婚後、場合によっては離婚の際等のシナリオに分かれることがモーションを見た瞬間に分かると思います。

説明責任を起点に「因数分解」するパターンもあります。例えば、THBT feminist movement should actively seek to include men’s right activist in their movement.(フェミニスト運動は、男性の権利活動家を積極的に運動に含めるべきである)のような場合は「そもそもフェミニスト運動とは何を求めるべきか」「男性の権利活動家を運動に含めることはそれになぜ理想像に合致するのか」「男性の権利活動家を運動に含めないことはなぜ理想像に合致しないのか」という3点の説明責任が導出されます。(2つめと3つめは表裏一体ですが。)これはある種「理想像」を起点に2つの世界観(男性を含めている状態/含んでいない状態)を比較していることになります。

これに似ているのは、例えば多くのディベーターが最初に学ぶ説明責任のクッキー・カッターです。特定の政策をとる場合、多くの場合汎用的な争点としてnecessity(必要性)、solvency(解決性)、justification(正当性)、があがるとトレーニングされることがあります。肯定側であれば「必用であり、解決でき、それは正当化できる」ことを説明し、否定側であればそれらのどれかを否定することをチャレンジします。

この練習法はいくつかあると思いますが、個人的には2つあります。

1つ目は、まず足元で過去のモーションから「こういう因数分解が必要なのでは?」というのをストックし、自分の型をつくることです。以前ご紹介した1st Principleに近いですね。Criminal Justice Systemであれば有名な、Retribution, Protection, Deterrence, Rehabilitationのようなイメージです。ここで1こコツなのは、「モーション」レベルではなく「テーマ」レベルで考えること、ある種一段「抽象化」することです。なので、「よし今日はCriminal Justiceだ」と例えばし、今まで行ったモーションを復習したり、音源を聞いたり、場合によっては他の人に聞きながら自分としての因数分解のパターンをつくることになります。いわゆる「パターン認識」的な積み上げアプローチになります。ただ、ここで気を付けてほしいのは「フレームワーク病」「議論自動製造機病」です。いわゆる思考停止状態で「あ、CJSのモーションだからこれ言おう」という視野狭窄状態になると、第三者を説得することが難しくなってしまいます。
なお、この練習方法は一人でもできますし、また実際にこういう風に考えたんだけどどう?と他の人にフィードバックを求めることで他人を巻き込んでみることもブラッシュアップにつながります。

2つ目は、中長期的になるかもしれませんが、単純にロジカルシンキング、いわゆるMECEに「切る」能力を高めるというスタイルです。(ディベートにおけるMECEの過去記事はこちら)いわゆる「コンサル本」が巷には山ほどありますのでそちらをご参照ください。(例えば『問題解決プロフェッショナル「思考と技術」』、『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』などです。なお、後者はコンサル業界では名著だと言われていますがかなり難解ではあるので、何度か読むことが必要です。なので前者のほうが個人的にはまずお勧めです。これの第2章の<MECE>の部分がミートしていると思います。もう少しより実践的であれば「フェルミ推定」「ケース問題」などが親和性が高く、やりながら覚えられるので、『東大生が書いた 問題を解く力を鍛えるケース問題ノート』、『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート』、『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』がおすすめです)これは、習得には時間がかかりますがk、比較的ゼロベースで見たことがないモーションでもある程度トップダウン思考ができるようになるメリットがあります。
これは自分でも例えば実践的な本を解きながら練習することもありですし、即興型ディベーターはコンサル業界に行くこともあるので、OBOGを巻き込むのも面白いと思います。

<2. Bottom-Up思考法とその練習法>
即興型ディベートにおいてはミクロ的な思考(具体的な事象・現象から発想していく思考)と定義しております。

これもいくつかのパターンがあると思いますが、まずは「具体的な人」が「どうかわいそうか、幸せか」という問いを立てることが重要だと思っています。(もちろん議題によっては動物実験廃止のように動物等、人が主人公に必ずもならない場合もありますが…)その状況を、映画のワンシーンのように正確に切り取ろうとするとどういうことがあるのか、時間軸に沿って発想していくのです。

例えば、THW not allow religious freedom in public.(宗教的自由を公的空間において認めない)という議題の肯定側では具体的な人を想像します。詳しい人であれば、フランスの「スカーフ事件」が想起されるでしょう。詳しい説明は他に譲りますが、「イスラム子女の公立学校でのスカーフ着用の是非」が議論されました。肯定側であれば、神を信じる一環としてスカーフを身に着けて居たいと考える学生の様子が頭に浮かんでくると思います。(例:「なぜムスリム女性はヴェールをまとうのか」)ちなみに、私はこの関心があったので、『神の法vs.人の法 スカーフ論争からみる西欧とイスラームの断層』という本を読みました。少しボリューミーですが、面白いです)

また、特に話が抽象的になりがちな議題は意識的に具体化することが重要になります。例えば経済関係の議題では顕著です。THW not bail out companies which are TBTF (Too-Big-To-Fail). ("大きくてつぶせない"企業の救済を行わない)というようなモーションの際、例えば肯定側で救済を行わない、その結果として「雇用が失われる」ということは単純に解雇通知の書面だけの話ではなく、その背後に一人一人のストーリーがあるはずなので、そこまで想いを寄せられるとよいかと思います。

ボトムアップの思考法の練習法ですが、幾つかあると思います。

1つ目に、マインドセットとして「その人だったとしたら」と強制的に「自分事化」する練習だと思います。自分がもしスカーフを身に着けたいと思う学生だったとしたらどう考えるか?自分がもし家族を持っていて急に解雇されたらどう思うか?のように「もし自分だったら」と考えることです。人はなかなか、程度の差もありますが、一般的に自分のことにならないと想像力が働きづらい側面はどうしてもあると思います。したがって必死に想像していくことは重要です。

2つ目に、単純に前提となる基礎知識はつけるということは必須になります。ボトムアップ思考が具体的な現象・Factからスタートする以上、その前提となる知識がないとなると手も足もでないことになってしまいます。国内のトップディベーターや海外ディベーターの多くは、The Economist、BBC、The Guardian等のニュースを見ているとのことで、そこのドキュメンタリーは時に目を覆いたくなるようなこともあります。このブログの一番の人気記事である(ここまで反響があるとは思っていませんした)おすすめブックリスト50も併せてご覧ください。

3つ目に、とはいえ2.は毎回すべての事象を知っているとは限りません。そこでak_debateがボトムアップ思考の一類型だと理解している「アナロジー思考」の習得・応用もおすすめです。(こちらは、Triple Aの一つでもありますね)どんぴしゃの例ではないが、構図が似ている例をいかに「引っ張ってこれるか」というのが鍵になります。分かりやすい話で言うと、THW decriminalize marijuana for pleasure.(嗜好用のマリファナを非犯罪化する)という際の肯定派は、タバコと似ているな、という着想で、「じゃあどういうシーンで吸うのだろう」「その個人への便益はどういう感じなのだろう」と発想していきます。また、一段さらに「飛ばした」形で言うと「一見悪そうなものを非犯罪化する例ってないかな・・・?例えばオランダにおける売春とかはどうなのだろうか」と考える、「harm-minimization」(被害の最小化)のために非犯罪化する場合もあるのでは?と考えることもあります。(近年、アムネスティ・インターナショナルも売春を非犯罪化するほうがよいのではという提言を出して議論を呼んでいますね。参考リンクはこちら
ここでの細かいコツは、まさにどんぴしゃの本である『アナロジー思考』に譲りますが、具体例を見た際に「これって何と似ているのだろう?」、複数の具体例を見た際に「これは何が共通しているのだろう?」と考える癖をつけることをお勧めしています。ストックをする際も「関連付ける」「グループ化」することがコツです。
また、リサーチに落とす場合はその「共通点」を軸に整理します。例えば私は主要な軍事介入の成功例・失敗例をマターファイルにストックしてあるのですが、その際「成功例」「失敗例」という共通点だけではなく、「成功要因」のレベルまで深堀りして「アナロジー化」するようにしています。もちろんアカデミアの方ほど専門的にはできていませんが、発想方法はこういうところかと思います。

<3. Horizontal思考法とその練習法>
Horizontal思考法とは、「相手が話してくること」を起点とした思考だと定義しています。(Horizontal思考法が得意なチームのコーチ事例はこちら())

したがって、「相手がそもそも何を言ってくるか?」「それに対してどう対応するか?」の2つの要素が必要になります。前者は、Top-DownとBottom-Up思考のどちらか、もしくはその組み合わせで出てくるかと思いますのでそちらのスピードアップになるかと思いますので上記の練習法ということになりますが、後者に関してはどうでしょうか。

2つのパターンがあると思います。

パターン①としては、「相手の一番強い話をどうするか」ということを考えることです。これは「相手の言っている話が起こらない」というmechanism(現象が起きる理由)に対するアプローチ、「起きるがそんなに深刻ではない」というimpact(現象の深刻性)に対するアプローチという細かい反論レベルでもできるとは思いますが、強いチームになるとその2つは確実に立ててきます。そこで例えば「むしろ向こうが守りたいものにとってもこちらのほうが良い」という、いわゆる"flip"と呼ばれる話がないか、というのは一つの考え方です。("rather better", "counterproductive"というような表現が英語ディベートではされます)(なお、余談ですがこれはよく実世界の会議などのディスカッションで用いるようなパターンでもあり、相手の納得感も醸成しやすいです)また、特定の比較軸を出してそのデッドロックを解消していくパターンもあります。(例:インパクトの大きさ等)。(こちらも実社会だとよくつかわれます)

その意味では、中長期的には、いわゆる「ディスカッション能力」を身に着けることもおすすめです。
参考書籍は『ファシリテーションの教科書: 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ 』、『東大生が書いた 議論する力を鍛えるディスカッションノート』等かと思います。

もう少し足元の話をすると、これらは、具体的なモーションを行いながら「ここまで言ったら勝てそう」という風に考え抜く、もしくはClosingやWhip・Replyのスピーチを見ることもお勧めです。うまいClosing、Whip、Replyのスピーカーは相手の話を考慮した上で「なぜ上回るのか」ということを明示的に話すことができており評価が上がっている傾向にあります。また、そもそも自分で強い話を思いつかない場合は、強い音源を見てそれに対してどう反論するかというのを自分で考えることもあります。ここでのコツは2つの音源を組み合わせることで、1つは「ちょっと頑張れば勝てそう」な相手の音源の反論を考えることと、「すごく強い」相手の音源の反論を考えることです。前者だけだとモチベーションはあがるが大きな伸びが少ない、後者だけだと最大出力が上がる可能性はあるが、圧倒的すぎてそもそもキャパオーバーになってしまうリスクがあるからです。

パターン②としては、Gov/Opp(肯定側・否定側)を何度も行ったり来たりすることで議論をどんどん深めるパターンです。これは、何人かでやる場合と一人でやる場合があります。何人かでやる場合はプレパの後ディスカッション形式で、こう言ってきたらどう返すか、のように議論を深めていきます。この際あまり大きく発散させずに、特定のClashだけでやることも有益だと思います。また、ラウンドの後に「この後さらにスピーカーがいるとしたらどうやって勝つか?」という風にラウンドを活用するパターンもあると思います。また、最近やっているところをあまり見なくなりましたが "Summary and Refute"と呼ばれる練習法も効率的だと思っています。

一人で行う場合でも、あるディベーターはgov、oppをひたすらに交互に一人で考えていくことを地道にやっていたようです。こう言ったら相手がこういってくるから、このように反論して、さらにこのように再反論がくるからこうやって・・・という風に考えると、Horizontalの思考スピードがぐんとあがる傾向にあります。この際書きだすのは一つのコツです。

いかがでしたでしょうか。かなりボリューミーだったので最後まで読んでいただいて恐れ入りますが、思考法に限って言うとこのような練習法が例えばあるかなと思いました。何かご質問などございましたらいつでもご連絡ください。

0 件のコメント:

コメントを投稿