2018年11月26日月曜日

弁論ブログの「アロケーター」記事からakが受け取った3つの問いかけ

最近、キエフ弁論同好会さんが素晴らしい記事を連発しており、更新がとても楽しみです。

特に今回の記事「役職「アロケーター」がいてもいい気がしなくも無い」は、反響も大きいようです。ポイントとしては、従来ACは全ての役割(モーション作成、ジャッジ、アロケーション等)を等しくやると想定されてきていたが、大会運営を効率化するためには「アロケーター」としてアロケーションに専念する役割分担をAC内で行うべきでは、という問いかけです。(もちろんすべての大会で毎ラウンド行うべきか、というのは別の議論でしょうが。)

これだけでも当然示唆深いのですが、背後にある問いかけをさらにak的に深堀りすると、3つの問いかけを見逃してはいけないのではないか、と思いました。

1. 「AC」のベストプラクティスをコミュニティとして引き継ぐ工夫が必要ではないか?
まず、この記事で暗に私が注目しているのはN西さんの存在です。私も一度ご一緒したことがあるのですが、N西さんはまさにAC・コミの両輪どちらでも秀でている能力があり、大変すばらしいと思っていてこの大会でも素晴らしい貢献を果たされたのだな、と思っていました。一方で、ツイッター等の反応を見ると「このような制度は知らなかった」という声及び「この制度って他でもやっていませんでしたっけ?」という一見相反する声があります。これは、「ベストプラクティス」(wikiによると、ある結果を得るのに最も効率のよい技法、手法、プロセス、活動など)がコミュニティとして共有されていないことを示唆していると思いました

もう5年以上前のことになりますが、私の同期にもAC・コミどちらをとっても優秀なディベーターがいました。彼と一緒にACを行った大会では全て「アロケーター」なる役割が当たり前に存在していました。どこかでやったことを聞いた人、もしくは思いついた「ベストプラクティス」がコミュニティ全体にいきわたれば、reinvention of the wheelも起きないのにな…と思いました。

その意味で、今回のブログは素晴らしいです。まさにコミュニティへの「公共財」を提供することで、ベストプラクティスを共有しているので。Fantasticですね。

2. 「アロケーター」が解決している課題は他の方法でもさらに解消する工夫ができないか?
アロケーターがSolutionだとすると、背後にあるProblemは「遅延リスク」や「ACがスピーディに帰って来ざるを得ないためフィードバックを受けられないリスク」等に当たるかと思います。これらはアロケーターで解決できる部分もあれば、それ以外の方法も取ることでより効果をあげる、というケースもあるかと思います。(また、ジャッジがいなくなってしまう、のようにアロケーターのデメリットを鑑みて採用しない場合の代替案にもなりますね)
例えば、アロケーション周りでakがよく経験した遅れるパターンはパッと見ても下記があります。

・事前にアロケーション・フィロソフィーを決めていない
(最後の方になって、この部屋にどのジャッジを入れるかでもめる、等)

・「質」と「速さ」がトレードオフの際過度に「質」を優先しすぎるアロケーション・フィロソフィーになっている
(例えば、Round 1の結果をすべてRound 2に反映する、等)

・アロケーションのインプットとなる情報をそもそも得られていない
(オフライン・タブの場合はランナーの配置方法等、オンラインの場合はそれとタブとの連携)

・アロケーションの最終責任者を決められていない
(ブログにも少し書かれていましたが、例えばそれはCAなのか、それともDCAのだれかなのか、等)

・(もしアロケーションを全員でやるのであれば)ACを近い部屋にアロケートできていない
(最新のTabだと、部屋もいじれるようですね)

これらともセットでより効率化を目指すことはできるのではないかな、と思います。
そういう意味で、以前取りあげたRyoso Cupも素晴らしいですね。アロケーションが相当に合理的に決められています。

(これは、ある種「大会のコンサル」をakが行った際に作成した「Debate Tournament Frameworkから見た Ryoso Cup 2016、Momiji Cup 2016」の成果物のP.9-10にも引用させて頂いております。(記事はこちら))

3. ACの「役割分担」はアロケーションに限らず考える余地はあるのではないか?
アロケーションはもちろん役割分担を必要に応じてするとして、それ以外の役割分担もセットになるかと思います。

例えば、Adjudication Core Manualでは、ACの仕事をCommunication, Rules/Guideline, Allocation, Motions, Seminar, Presentationの6つに分けています。(5つめと6つめは大会によって異なる)

例えば私が常にベストプラクティスだと信じてやまないLokeの大会ではこの分業も徹底されています。私がこの前行った大会でも最初に役割分担が徹底されました。
具体的には、下記のような役割分担がなされました。

・コミ・参加者とのCommunication=Lさん、(当日の対ジャッジはBさん、ak)

・Rules/Guideline作成・プレゼン=Pさん、Rさん、Jさん、ak

・Motions=リードはBさん、(それ以外も自然に精緻化する人、ディスカッションをファシリテートする人、EFL/ESL等の観点からaccessibilityを確認する人等、ディスカッションをしているうちに自然に役割分担がされました)

・Allocation=草案はTabのGさん、FinalizeはJさん/Hさん
(ポイントは、Tabが相当に世界トップクラスの方でACも何度も行っている方なので、ほぼ草案が通るらしいです。これも示唆深い)

・Presentation(モーション発表スライド、マッチアップ等)周りを奇麗にする役割=Tさん

これらのLeadはCAが行う、もしくは経験者の方がCAにこっそり耳打ちする、とかがいいのかもしれません。


取り急ぎ以上となります。
アロケーターはオプションの1つとして広まることを願いつつ、これら3つの問いに関しても併せてご参考になれば幸いです。

ちなみに蛇足ですが、ブログ記事があると、色々それをもとにインスパイアされるのでいいですね。弁論ブログさんの記事があったおかげでここまで書けました、改めて感謝です。たぶんブログが活発になると、こうやって「ブログ間のディスカッション」とかも増えていい気がします。

2018年11月11日日曜日

その練習、ボトルネックを解消していますか?

1. ボトルネックとは何か?
突然ですが「ボトルネック」という言葉を御存じでしょうか?
ググるとこの定義が分かりやすかったので引用します。
「ボトルネック」とは作業やシステムなどにおいて能力や容量などが低い、または小さく、全体の能力や速度を規定してしまう部分のことを指します。つまり、「ボトルネック」は全体の能力や成果に影響する問題となる要因です。 
大きなボトル(瓶)でも通り道が狭いネック(首)になっていると、一定時間当たりの出る液体の量は少なくなってしまいますよね。「ボトルネック」は、この現象に由来してさまざまなビジネスシーンに利用されているのです。
(参照:https://gakumado.mynavi.jp/freshers/articles/43640)

上の定義にもありますが、ボトルって通り道が広いところと狭いところがあります。全部広ければ一気に水はだーっと出るのでいいのですが、狭いところがあると少なくなってしまいます。その狭いところを広げることを「ボトルネックを解消する」ということとイコールになります。

コンサルティングでも「今の問題のボトルネックは何だろう?」という問いがよくされます。最も効率的に問題を解決しようとすると、「一番影響する原因」に対する処方箋を考えるのが良いからです。これは、特にヒト・モノ・カネや時間が有限である際にとても重要な考え方となります。資源があれば全部できるのですが、そうもいかないからですね。

2. ディベートでも重要なボトルネックの概念
そしてこれはディベートにも応用することができる考え方です。特にディベートは多くの人が長くて4年程費やすことがありますが、365日フルであるわけではありません。大学の授業はもちろんとのこと、他のサークルやバイト等も考えると時間はどんどん限られてくるからです。

今あなたがやっている練習法が「ボトルネックを解消しているか?」という点で見直してほしいというのが私のメッセージです。

凄く言い方を悪くすると「非効率的な努力」に時間を費やし、その結果としてなかなかディベートがうまくいかない、という現象に陥ります。「たくさん練習はしているつもりなのに勝てない」「あんなに練習したのにスピーカースコアが伸びない…」という悩みはないでしょうか?実は私もありました。

3. ボトルネックを解消できていない練習例

練習例1:ラウンド依存症
分かりやすいのはラウンド練にのみ傾注しているパターンです。何度もこのブログでも取り上げているように、ラウンドはある種総合練習であり、特定の能力を集中的に高める上では向いていません。これが「(想定外なことが起きそうな)具体的なラウンドでの立ち回りができない」「最近のディベートやジャッジのトレンドが分からない」というのがボトルネックなのであれば最適な練習なのでしょうが、そうでない場合はラウンドばかりやることは向いていないでしょう。

Debating Cycle Theoryを見ても「ラウンド外」に注目する必要がありますし、どうすれば、上手くなれるのか? -"成長エンジンの設計方法"-でもラウンド依存症が陥りがちな罠としてご指摘させて頂いております。)

練習例2:「とりあえずIR」のリサーチ
他にもよくあるパターンは、とりあえずリサーチ=IRという等式に基づくことです。確かに、IRはできなかった時のインパクトが大きいためIRのリサーチは行いがちです。ですが、これはボトルネックなのか?というのは2つの問いが必要となります。

I. 知識不足と考えた際に、それはIRが最もボトルネックになっているのでしょうか?
例えば、IRは「大会でよく出るのか?」×「あなたが知らないのか?」の2軸で考えた際に最も優先順位が高いものでしょうか?
例えば、akの調査によると、最近の1年生の全国大会でIRの頻出度は11位です。もちろんこれだけで判断するのは浅はかですが(ACの傾向や近年のトレンド等、勘案すべき点は多数あるので)もし、政治、社会的弱者に関する知識が不足しているのであればそちらのほうがより「ボトルネック」ではないでしょうか?


(参考:【即興型ディベート部のマネジメント】練習における議題の選び方

II. そもそも、私はディベート力は大きくは「インプット(知識)」×「プロセス(思考法)」×「アウトプット(英語プレゼン力)」で構成されていると思っています。(厳密には色々他もありますが)
これは一種ボトルネックを特定するフレームワークとして活用できます。

換言すると、何がボトルネックになっているのか、ということをアセスメントできるのはこういう問いができます。
・議題に関する知識が足りない?
・思考力が弱い?
・英語プレゼン力が弱い?

すなわち、ここで実はあなたはそこそこ知識はあるものの、実はそれを短時間でArgumentにする「プロセス」が弱いかもしれません。またはArgumentやRefutationも考えられているのかもしれませんが、英語力が追いついておらずスピーチに反映されていないかもしれません。正しくボトルネックを解消できていない典型例になり得ます。

4. どうすれば、ボトルネックを解消できる練習方法を立案できるのか?

すこし答えを頭出ししていますが、下記の3ステップをおすすめしています。

Step 1: ディベート力の「全体像」を考える
私は「インプット(知識)」×「プロセス(思考法)」×「アウトプット(英語プレゼン力)」が全体像の一つの切り方だと思いますが、他にも「プレパ(個人)」「プレパ(チーム)」「相手のスピーチを聞く」「自分のスピーチをつくる」のように時間軸で全体像を捉えることもできるでしょう。
さらに一段解像度をあげれば、「知識」も、CJS、経済、IR等たくさんあり得ますし、「思考力」もTBH思考法に分けることもできます。
(なお、思考法に関してはこちら、プレゼンに関してはこちらも参考になるかと思います)

Step 2:その中でも特に自分に欠けているものは何か原因を考える
これは、チームメイトやジャッジなどからのフィードバックをたくさん得ることも大事ですが、それらをもとに「なんで勝てないのか?」「なんでうまくならないのか?」という問いを繰り返すことが重要です。
なお、この際コーチを依頼することも効率的です。僭越ながら私の例では、チームとしての思考法の部分をボトルネックと特定し、過去にプレパ・シートを提案したことがございます。

Step 3:実際にそのボトルネック仮説に基づいて練習を行い、成果が出ているか確認する
その後はいったんJust Do Itという世界にもなります。
実際うまくなっているのか、というところを何かしらの方法で「見える化」していくことが重要になります。
分かりやすい指標は勝率やスピーカースコアになるかと思いますが、色々あり得るかと思います。
成果が出ていないのであればボトルネックが違う、もしくはボトルネックは正しく特定しているがアプローチが異なるのどちらかになりますので、それを修正していくことになります。

いかがでしたでしょうか?
ぜひ「ボトルネックを解消している練習」を毎回行ってくださいね。

2018年11月7日水曜日

紙なしスピーチにチャレンジ!

最近お勧めしている練習の一つに「紙なしスピーチ」があります。
文字通り、プレパ用紙を使わずにスピーチをすることです。(プレパ中はOKだが、慣れたら無しも良いかも)

海外のディベートサーキットでは(それこそオックスフォードとかでも)たまにやられる練習スタイルらしいです。

私もやってみたことがあるのですが、下記のようなメリットがありました

スピーチを通じて「イイタイコト」が結晶化(クリスタライズ)される
(結局チームとしてのスタンスは?だとか一番伝えたいことは何か?だとかが必死に分かりやすくなる。特にボトムアップディベーターであるとすごく良いトレーニングかと。)

・上記と関連して、スピーチのストラクチャーが奇麗になる
(1st Argumentで言わないといけない点はこういう風に3点に整理する、のようなことができる、単純化しないと覚えられないので)

・「その場で考えながらスピーチする」ことで、プレパ時間の無駄を省ける
(これはakにとって実は1番のブレイクスルーでした。例えば1年生の時とかって最後の5分は自分で考える時間ね、のようなプレパスタイルが当たり前化していて、「5分は無いとスピーチができない」と思い込んでいました。実はそこまではいらないんだ、ということとかが分かったりします。)

「その場で考えながらスピーチする」ことで、実はその場でロジックとかを深めたり話を取捨選択することができる
(その場では何を言うかとかを丁寧に考えるようになるので、あ、その場で実はもう一つロジック思いついた、というような現象も。)

・(プレパのメモも禁止の場合は)話の流れを必死に頭の中で整理し(Issueの見える化)、重要なポイントとその対応へと取捨選択できる(ボトルネックへの取捨選択)
(これも意外と重要でした。特にBPだとか、AsianのWhipとかになると、紙を書きすぎるクセがあったんだなと思いました。意外とその場で「結局論点は2つでここを倒せばいいのか」と考えられるようになりました。)

もちろん、全員に全員この練習がベストだとは思っていません、が、
・イイタイコトが実はなかなかはっきりしないボトムアップ系ディベーター
・ストラクチャーが汚いと言われるディベーター
・長い間とりあえず最後の5分はスピーチをつくっているディベーター
・議論が整理できないディベーター
・「重要じゃない反論を打っている」と言われるディベーター

にはフィットするかもしれません。仮説的には、1年生とかよりも少し後のディベーターのほうがいいのかもしれません。
ぜひ一度やってみてください。

(追伸:なお、実際にやる際に人によっては「こいつ舐めてるのか?(失礼なんじゃないか?)」みたいな目で見られることもあるようなので、事前に伝えておくといいかもしれません)