2018年1月19日金曜日

【即興型英語ディベートの練習法】ak_debate式英語の上達方法 5つのポイント

【背景】
「これをakさんに頼むのも変な話ですが、純ジャパとしての成長戦略についての寄稿文を読んでみたいです。(最近、レトリック、fluency、海外音源の聴き取り等、様々な面で帰国子女と比べてハンディキャップを感じることが多いので)」

という質問を頂戴しました。色々な回答方法がありますが、「同じ土俵に立つため」の英語力は重要かと思います。(競争戦略で言うところの「等位」にする部分)また、場合によっては「ノックアウトファクター」、すなわちそもそも「土俵にも立てない」状況になってしまうことがあり得ます。したがって、英語力の向上は至極命題になっているかと思います。

私は質問者の方が示唆してくださっているようにいわゆる海外経験のある人間です。とはいえ、全く英語の努力をしてこなかったというわけではないのと、英語の指導も英語ディベート部の部長やコーチを通じて行ってきました。また、実は英語の家庭教師/レッスン講師も行っていたりしたので、お話できる範囲でポイントを5つあげてみました。


1."伝えたもん勝ち"精神を持つ
 私が思うのは、今までお会いした多くの方(非ディベーター含む)は真面目に英語に取り組まれていることもあり、完璧主義に陥りがちです。きれいな文法で、きれいな発音で相手に伝えることを優先しているように思えます。もちろん、奇麗さを求めるのは中長期的には必要ですが、足元の取り組みとして「伝えること」が競技上も至極命題になるかと思います。
 勿論英語ができない状態が他人に見えることはとても恥ずかしい部分もあるかと思います。特に、英語力が高い人の直後にしゃべるとその差は歴然で、スピーチ中に帰りたい衝動に駆られることもあるかと思います。また、伝わらなかった時の辛さというのも引きずりがちです。私も、日本で何年か過ごした後、再び海外に戻った際、小学校の先生に全く英語が通じず、何度か試み、先生も何度か説明をしたり耳を傾けたりしてくれたのですが、最終的に匙を投げられたことは、未だに脳裏に焼き付いています。
 しかし、まずは英語をコミュニケーションツールとして捉えた際に、大目的は「伝える」ことになるわけで、その合目的性に照らし合わせればどんなに拙くても良いのです。
 私はそういう意味で、出川哲郎さんの「はじめてのおつかい」はとても好きです。この番組は、英語ができない出川さんがニューヨークなどの地で、知っている単語、ボディーランゲージ等を駆使して必死に伝え、それが花開きます。もちろんたまに奇想天外な発言もあり、それは笑いを誘う部分もあるのですが、それ以前に、私は実際にそれで伝わっていく様子を見ていて、伝えようという想いの下、どんなに拙くても、「伝わったら勝ちだ」と思うことが、重要なファースト・ステップであり、出川さんに対して笑って終わってしまうのは勿体ないなと思っています。
 これを繰り返していくと、必ずうまくなります。アウトプットを繰り返すので取りアンドエラーがなされていくかもしれません。

2.  Keep it Simpleの原則を徹底する
 完璧主義者になりがち、というところにつながっているのかもしれませんが、シンプルにすることはとても重要になります。これは特に「話す」という局面で大事になってきます。
 具体的には、whenがあったから…ifがあったから…のように文法をとても気にしがちだったりするかと思います。また、ついつい一つの文章が長くなってしまうことも傾向としてあります。また、単語という意味でも、「あ、あの言葉なんだっけな」とベストフィットな言葉が出てこず、悪戦苦闘することも多々あるかと思います。
 もちろん、それらは中長期的に改善していけばよいと思うのですが、特にスピーキングの文脈では、「シンプルに話すこと」はとても重要になります。私も海外でプレゼンテーションやディベートを中高時代に行った際に「akは言いたいことはとても良いが難しすぎて伝わらない、もっとシンプルに話せ!」と先生にアドバイスを受けました。その時、この原則を教えてもらいました。ーその際は、なんなら、ジョークを交え、「Keep it Simple Stupid!の頭文字で"KISS"の原則だ」と教えてもらいました(笑)
 具体的に英語ディベートの文脈で捉えなおすと、まずシンプルな文法で短く話すことをお勧めしています。文章は極力短くする。接続詞を使用して長くなるようだったら一回文章を切るくらいの勢いで大丈夫です。過去完了形等は難しくなってしまうので、できるだけ過去形のようなシンプルな構造に努める、等になるかと思います。また、単語も一番シンプルな言葉のレベルでいいです。"improve"という言葉が出てこなかったら、"make the situation better"のような言い換えで大丈夫です。Keep it Simpleですね。(もちろん、あとで言葉の反省とかはすればいいかもしれませんが、ラウンド後にとっておきましょう)

3. 最もベースとなる単語力を鍛えるため、文章で、書いて、聞いて、話して、覚える
 「元気 あなた ですか?」という文章を見ても、「あなたは元気ですか?」のように、言いたいことは想像がつきます。一方「xyz abc ですか?」だと、「何か聞いているようだが何を言っているかわからない」という状態になってしまうかと思います。そういう意味で、単語は最も重要だと思っています。いわゆる英語の4技能(リスニング、スピーキング、リーディング、ライティング)を横断するからだと思います。
 とはいえ、さあ、単語力を鍛えようと思ってもなかなか難しいところはあるかと思います。そこでak_debateは「文章で、見て、聞いて、話して」覚えることをお勧めしています。具体的には、私は日本の受験生のような、暗記カードをつくりました。どういうことかというと、表面に文章を書き、覚えたい単語に下線を引きます。右下には同じ単語を書きます。裏にはその意味を英語で書いていました。
 ここでのコツは、まず「想像できるシチュエーションの文章」にすることです。実際に自分が想像できる状態にするのです。稚拙な例で言うと、happyという言葉を覚えたければ自分が実際に嬉しかったシチュエーションの文章で覚えるとかですね。場合によっては例文の主語をリアルの人に代えて想像しやすくする、というようなこともやっていました 笑 仮にすぐ想像できない場合は、頑張って想像できる例文を電子辞書等で探しました。(なお、おすすめの単語帳はこちらにも書きましたが『神部孝(2006)『TOEFLテスト英単語3800』旺文社』です。)
 そして、暗記カードを使う時に「話す」ことも大事です。文章として実際音読(周りに人がいるときは黙読)して口を動かします。見るだけじゃなく、書いて話す、というようなところまで行うため五感をできるだけ使っているというのがミソです。
 これをディベートに置き換えても通じるところはそのまま多くあるかと思いますが、「想像できるシチュエーション」を一ひねりするのが良いと思います。「この単語はディベートだとどういう時に使うかな~」と思い、それを文章にする、場合によっては上手いディベーターのフレーズをそのまま書くとかも考えられます。例えば"pave the way for"という表現があります。weblioによると、道を開くとかの意味があるようです。実際例文は、「The function of the UN is to pave the way for world peace.」 国連の任務は世界平和への道を開くことだ.と書かれています。ak_debateの場合は「国連系のモーション、例えば安保理の拒否権廃止のモーションのときに使えるなぁ」とか思ったり、「また、principle一般で使えるなぁ」と思うわけです。というのも、principleは原則論を話すので、そのアクターが政府であれ国連であれ、NGOであれフェミニストであれ、何かしらの道を開くべきだという「べき論」があるからです。

4. 毎日英語は何かしらの形で触れる。「1日にまとめて」ではなく「毎日15分」
 帰国生であっても、英語をしばらく話さないと口がまわらない、だとかあります。何なら、英語以外でも例えばak_debateはピアノを3才からやっていたのですが、どんなにやる気がでんかうても、高校までは必ず15分はピアノを触っていました。万が一手をあんまり動かせないなという時は、机を鍵盤に見立てて、曲を弾き切るくらいはしていました。「1日ひかないと、取り返すのに何日かかかる」というのは音楽の世界では鉄則とされていたからです。私はこの考え方は英語でも当てはまると思っています。
 帰国生である私ですら、学生時代は毎日オックスフォードなどの有名スピーカーの音源は毎日最低1スピーチ、たいていは30分~1時間聞いて「耳をならす」ことをしていました。それに加え、その日のスピーチの復習としてのスピ練を、イントロだけ、1st Argumentという形だけでもよく行ったものです。「英語に触れないことのこわさ」を肌で感じていたからかもしれません。
 ここでのコツは、「とりあえず始める」ことと、「習慣化すること」の2つに尽きると思います。どんなにやりたくなくても、とりあえずYouTubeで流したら「まあ聞くか」くらいにはなって、だんだんはまっていきます。それから、嫌なことは習慣化するのが勝ちです。そのうち当たり前になります。例えば、ak_debateの場合は寝る前に必ずスピーチの音源を流しながら寝ました。この癖は実は受験時代からあり、英語の例文のCDを流しながら寝ていたのとまったく一緒です。「とりあえず流して寝よう」くらいの勢いでいいので、やっておく、という、その小さな積み重ねが、イチローも言っているような「とんでもないところに行くただ一つの道」だと思っているからです。

5. 英語の成果を"見える化"し、できた自分を褒める
 最後に大事なのは、英語の成果を"見える化"することです。英語はとはいえすぐはうまくならないところは当然あります。また、単語を覚える、文法を学ぶ、のような地道な作業が多いです。すぐに花が開かないし、他の人からも何なら見えづらい。なので、英語がうまくなったね、となかなかすぐには言われないわけです。
 この構造は即興型英語ディベートだとさらにあると思っており、勝ち負けの理由が必ずしも英語だけに依存しない、あくまで論理的・感情的に人を説得することに尽きるからであり、そのための要素として少なくとも、以前取り上げたような思考力プレゼン力がかかわってくるからです。さらに、だいたいディベートの中身(Matter)に対してフィードバックが中心になりがちという構造もあるかと思います。したがって、なかなか英語の成果が目に見えず、やめてしまうこともあるかと思います。(なので、もちろん、英語に関するフィードバックを自分から求めるのも大事です)
 そこで、何かしらの「指標」、つまりは「ものさし」を準備することが大事になります。目標とかKPIとかのイメージにも近いです。もちろん、この「指標」の置き方は難しいのですが、(合目的性などの要件が必要)例えば、ak_debateでは、下記のような指標を持ったり、お勧めしたりしていました。

・覚えた英単語の数 (自分で知らない単語だけをベースに(=暗記カードをつくった単語だけで構成した)テストを週1回等のペースで定期的に行って、何点とれたかを見える化していく。)
・聞けるようになったスピーカーのタイプ (帰国生で英語が早い人>英語が早い人>英語がゆっくりな人という優先順位付けで、まずは英語がゆっくりな人が聞けるのであれば、早い人を聞けるようにしよう、等)
・聞いた音源の時間 (毎日15分なのであれば、それが30日あれば450分という風に積み重ねが見えてきます)
・読んだ英語の文章の数 (毎日1記事読むだけでも、30日で30記事読んだなとなります。例えば印刷しておくと「ああこんなにやったんだな」という達成感にもつながります)
・英単語/表現をどれくらい使えたか (上記のpave the way等、「覚えた単語を使えた」ときは覚えておきました。赤ペン先生状態じゃないですが、「あ、これやったところだ!」となる瞬間は嬉しいものです)

もちろん指標は多岐にわたりますが、ポイントは成果を目に見えるようにするというこころです。(実は、指標も主に4種類あるのですが、これはまた別途どこかの機会で!)

いかがでしたでしょうか。少しでも5つのポイントが参考になれば幸いです!

2018年1月14日日曜日

【調査型/即興型×日・英ディベート交流】2018.01.13 ディベート教育国際研究会(ISTD)関東支部/CDS Project合同シンポジウム メモ

ディベート教育国際研究会/CDS Projectが合同で行っているシンポジウムですが、調査型/即興型、日本語×英語のディベートコミュニティの方が一同に会し、色々な議論が行われました。

今日は主なアジェンダとして、下記の3点が行われました。
① シドニー大学における組織論の基調講演
② 各コミュニティの代表者によるパネルディスカッション
③ 全体ディスカッション

(僭越ながら、②では英語即興型のコミュニティの観点からパネラーとして話してきました。)

総論として、ディスカッションは大変示唆深く、ディベート界がスタイル横断的に色々同じような課題に直面していたり、色々な工夫がなされていたりしている一方で、異なる固有の状況もあり、とても面白かったです。皆さんコミュニケーション能力も非常に高く、"ディベートのOSが入っている"人たちだけが集まると、傾聴や意見交換がこんなに楽しいのか、と思いました。

いくつか、備忘録として。

・が議論の内容、→がak_debateが思ったことになります。なお、下記の議論は当然のごとく網羅的ではないですが。

・世界の"最競校"ともいえるシドニー大学では、150人の部員をマネージするために、部の運営がかなり組織的に行われている。具体的には、部の貢献のポイント制・表彰制、女性のインクルージョン施策(女性専用の練習会など)が、専門の役職により協力に推進されている
→そもそも国内でも「どのような組織にしたいか?」から逆算して役職を見直したほうが良いのでは?(国内でも一部の部では「部長」「キャプテン制」が異なります。最近コミでもChief Innovation Officerという新役職を経験させて頂きましたが、この場合は"カイゼン"と"新規施策"のビルトインで有効だなと。ak_debateが提唱しているDebate Tournament Frameworkは、大会/部活/コミュニティビルディングにも通じるところがありそうだと思いました)

・シドニー大学では、色々な組織・制度により、「縦のつながり」「横のつながり」が実現され、それが「練習の質」にはねてきている。毎週社会人を含めたOBOGがレクチャーやジャッジで参加するなど、WUDC向けの練習が「WUDC SFレベル」だったりする。
→なぜこれができているのか、まで分析したいところですが、ak_debateは①縦のつながりを専門的に推進する人がおり、②それがレクチャーなどの制度に落ちてきていることが重要だなと思っています。また、単純にディベートだけのつながりではなく、ソーシャルな部分まである(ふらっと大会にきて飲んで帰る文化とかがある)のがミソかなと思っています。

・シドニー大学は総じて自分たちの強味を"principle/practical"両方、かなり細かいレベルで鋭く話すことができる分析力だと理解している
→競合であるヨーロッパ圏等を常に意識

・オーストラリアでは、多くの大会はスモールで行い、「選択と集中」が上手。普段の大会は20チーム規模で、タブも毎回同じ人で構成される"Expert Team"。運営者も3人くらいでまわす。案内等のホスピタリティは省き、参加も3日前まで可能、参加費の徴収も当日、提供ジャッジ不要。一方で、ランチ(タコス、ピザ)、ドリンク、スナックを配布、夜にはバー等で3000円クラスのパーティもある。10:00開始・18:00終了、その後はそのパーティという形で日本よりも"イベント"色が強い。この結果、運営側の負担を減らしながらも、参加のしやすさ・満足度をあげている
→大会の参加のしやすさ・運営のしやすさを両方追求するために、大会を小さくする、(参加者の数を目標やKPIにしない)のが一つ重要かなと。大きな大会はもちろん全国とかでやるのでそれが重要になるかと思いますが、普段の大会は小規模にしたほうが負担が少ないと思います。(Tokyo MiniはWUDC準備にコンセプトを特化し、最初は4部屋限定で、AdviserとしてかかわっているKK-Cup/K-Cup参加者「数」を最も重要視するKPIとはしておらず、参加者の満足度・ホスピタリティという「質」を重視)
一方で、案内はない、のように日本コミュニティでオーバークオリティになってそうな部分は一気に削減していくのもセットなのがいいなと。(=全方位的に全部やりがち。)
また、"ソーシャル"的側面がむしろ強いのでイベント的な楽しさがある。確かオーストラリアの別大会も3日間大会の2日目の午後から2ラウンドジャッジしてその後ソーシャルに参加して帰った、っていう人もいるとか。英語即興型は会場の都合もあるので大変ですが、ずっとラウンドやって1日が終わるイメージが強いと参加しづらいのではと思いました。(こちらも地方大会のほうが上手なイメージ。2009年の若葉杯は、R4の後に交流ということでお菓子とボードゲームが提供され交流があったり、KK-Cup/K-CupではCommunication Roundという、ディベーター/ジャッジがくまなく別の人と組んでディベートするというイノベーションが生まれています。詳細は)

・シドニー/オーストラリアがではジャッジ/大会運営者に対するリスペクトが相当に強い。(原因は要調査)。例えば、コミに対して大会のときに大きく拍手/recognitionがあるだけではなく、部のレベルでも「大会運営(特にTD等のコミ)」が「貢献」とされ、一定ポイントがたまると名前入りのワインや表彰までされる。トップディベーターも、「かみつく」ことは無く、初心者ジャッジに対しても熱心に耳を傾けることがあたりまえ。
Australs体験記でも書いた気がしますが、ジャッジの質がとにかくオーストラリアは高いです。ただそれだけではなく、そもそも参加者からのリスペクトが大きいとは思いました。この相互作用(ディベーターがジャッジやコミをリスペクトする→ジャッジやコミが増える、続けるのでレベルがあがっていく→ディベーター、ジャッジへのベネフィットも増える→ディベーターがジャッジやコミをリスペクトさらにする)が好循環だなと思いました。

・シドニー/オーストラリアでは、"噛みつき"だとか、他の人の"でぃすり"というような行為はほぼ行われず、"いけてない"というのが当たり前。
→これもなぜ?というところまで掘り下げたいですが、多くの人が実際コミを経験しているからというところがあるだとか、色々ありそうです。でも確かに、国際大会に私が招聘ジャッジとして参加するときも、ほぼ"噛みつかれた"ことはないです

・シドニーでは大学・中高を巻き込んだ教育制度が仕組化されている。中高の法人としてバイト代を学生に出し、大学は会場と昼食を提供している、分業体制が成立。コーチには相当な報酬が払われている
→早期教育がなされているのがいいなというのと、「エコシステム」的なのが素晴らしいなと。さらにいうと、マーケットメカニズムも重要だなと。

・調査型のトップディベーターのリサーチのアプローチは基礎理解→キーパーソン特定→アウトプット向けの深堀りという順番。まず論題の課題や周辺領域をぱっと読み、学者がどういう人たちがいるのか、その論理や派閥なども理解し、それを「こういう議論をつくりたい」と思いながらアウトプットへ。
→なんならコンサルティング業界の基本のようなアプローチがトップディベーターではされており素直にすごいなという感想。即興型もかなり参考になるし、私もこの方法で社会人になってIR等の知識は指数関数的に伸びました。効率的なリサーチ方法はuniversalだなと。

・調査型のトップディベーターは、ラウンドの後のディスカッション/フィードバックが長い。その後の食事・飲みの場でもひたすらに「この議論はこういう風にやったほうがむしろいい」「その証拠よりもこっちの証拠のほうがいい」のような情報共有やフィードバックが多くてどんどんブラッシュアップされていく
→今はあんまりお邪魔できていないのでわかっていませんが、創設時のWAD(早稲田大学)も確かラウンド後のディスカッションの時間が長かったのは特徴的。2010年代前半のICU(国際基督教大学)も、成蹊大学も、OBOGの方が1時間位かなり細かくフィードバックくれたことを覚えています。
フィードバック、ファシリテーションの技術は今後よりいっそう重要だなと。
もちろんそこでのインクルージョン(ディベート初心者、留学生や女性等、ディベート界においてマイノリティになりやすい人たち)とセットでしょうが、重要だなと。

教育ディベートの文脈に関連すると、フィードバックは必ず「その個別のラウンド」にとどまらないことが重要。一段抽象化して「こういうことを伝えたかったんだよね」というところまで踏み込むと大学や中高、社会人研修などの満足度があがる
→「三重のフィードバック」をak_debateは提唱しようと思います。「そのラウンド固有に関するフィードバック」「どのようなディベートでも使えるフィードバック」「ディベート外でも使えるフィードバック」が大事かなと。今後深堀りします。

・ディベーターは、調査型・即興型、日本語・英語にかかわらず、「反論=人格否定ではない」という前提が共有されており、できていない点を指摘されることは苦ではない。ただし、非ディベーターは必ずしもそのような前提を持っていないので、社会人になった際などは気を付けることが有効。特に「相手の一番言いたいこと」を理解しないとディベートでは負けてしまうため傾聴力・理解力は実は高いというところがあるので、いかに伝えるかだけ、人によって変えることが大事
→私もコンサルティング業界にいるのでディスカッションや、アサーション(ここは違うと思うと、何なら執行役員に対して主張すること)は当然よしとされているのですが、それでも、ディベーターと話すときとは話し方は当然のごとく違います。相手が考えていることを引き出したり、こういう観点だったらこれと一緒に合わせ技にできますねというような建設的なブラッシュアップをするのはもちろんですが、相手の話のこういうところがいいと思ったところをよりしっかりと言うことですとか、言い方としても「こういう風にしたほうがよりよくなるかもしれない」「私の理解が追い付いていないのですがもしかしてこういうことですか?」「そのメッセージだと、お客さんがこうお話してくるなと思っていて、その際ってどうすればいいですかね・・・?」のように手を変え品を変えて、ソフトにしている部分もあります。勿論私もまだまだなので、だし結構自分のリサーチなどに自信をもって話してしまうこともあるので日々かえって反省しているのですが、「伝え方」はずっと精進しないとなと。とはいえ、一般論としてディベーターは「伝え方」を工夫するとより能力が生かせそうだなと。

・調査型・即興型に共通して、教育論として、「守破離」すなわち最初は限界がありながらも型を教えOR特定の型を模倣、そしてその型を超えていくということが大事。前半は先人の知恵もたくさんあるのでちゃんと教えたほうがいい
特に外資系企業はこれが強い。マーケティング系大手だと「誰でも60点がとれる」ようにいわゆるセグメンテーション、4Pと言われるようなマーケティングのフレームワークを最初は教え込む。もちろんその限界は多々あるが、最初はそれ。
教えるほうは実は型をすでに破っているので型を教えることの心理的抵抗感があったり、型を批判するタイプのディベーターの"イキリ"や"プライド"が邪魔することは、後輩ディベーターにとっては不幸。型は最初はちゃんと教え、そのやぶりかたのコツ(自分の強み、弱み起点の競争戦略や、他分野からの"輸入"等)までシャイにならずに発信するのが良いのでは。
結局のところ、調査型でいうディベートの議論の三要素だったり、即興型でいうSQ, AP, ImpactやTriple Aは色々限界もありますが、やっぱり最初は教えたほうが総じて皆さん伸びやすい。
→ここはかなり示唆深かったです。ak_debateとしても過去に「どうすれば、上手くなれるのか? -"成長エンジンの設計方法"-」という内容を書いており、東大全体練習会でもレクチャーしておりますが、示唆として「守」はもっとまず大事にしようかなと。そしてこの上記の記事はどちらかというと「破・離」の話なんだなという整理ができてすごくすっきりしました。
即興型の文脈でも、Monashは(最近弱くなっているとはいえ)安定的に強いのは1st Principleがどの人にも共有されていることでしょう。(AustralsでMonash 11?くらいにあたったときに、彼らは1st Principle起点でプレパしていました。普通に強かったです。)

・調査型では、社会人もディベート大会の運営に本気でかかわる。そこで、コミに金銭的に報えないこともあり、社会人が今思っているのは「コミに対する唯一の報酬」はプロジェクト遂行能力だと捉え、プロジェクトワークの動き方等をかなり細かくブリーフィングし、説明し、習得できるようにしている。なんなら、企業のインターンも別に学生を成長させることが最大の目的ではないことを鑑みると、むしろそこよりもレベルが高い可能性すらある。(なお、プロジェクト運営のような大学の授業もニーズはとても強い。)
→ak_debateの理念とも合致しました。私もかけだしですし、ペーペーなので全然仕事はまだまだできませんが、「即興型ディベート(英語/日本語両方)に関して、競技者にとどまらず、審査員・部の運営者/コーチ・大会運営者・教育の観点からも幅広く考察し、オリジナルの分析・教育理論の提唱・提言を行っています。」というのはトップページにある通りです。また、UTDSも運営能力がとても高いレジェンダリーなMr.Xにより発展してきましたが、その方とやることの教育効果も大きかったと私も思っています。
なお、上記の議論はコミに対する金銭的リワードを与えるべきではない、という論調では当然ないです、念のため。


・調査型・即興型でも「伸びるな」と思うのは、大会運営/ディベートどちらでも「いい上司」(「いいパートナー」)と組むこと。なお、仕事でもそう。
→これはじゃあどうするのかという風になると即興型でいうPro-Am Tournament(経験者と非経験者が組む大会)とかが増えることとかなのかもしれません。


2018年1月13日土曜日

【初心者向け】即興型ディベートって何?

このブログにおいて、実は最も基本的な問いである、「即興型ディベートとはそもそも何か?」ということを取り上げていないことに気づきました。

したがって、簡単な資料をつくりました。リンクはこちら
(なお、基本的には公開情報をベースに作成しており、必要に応じてupdate致しますのでなにか齟齬等ございましたらご連絡ください)



【コンセプト】
・「政治家が一般大衆を説得する」議会を模していることが即興型ディベートの最大の特徴(英語では“Parliamentary Debate”と呼ばれるのが一般的)

【基本ルール】
・肯定側(与党)と否定側(野党)に分かれ、第三者である審査員を論理的・感情的に説得することを競う(肯定側・否定側はランダムで決定される)
・審査員は一般的な市民(投票者)を模して、説得度を包括的に評価(一般的に“Matter”と呼ばれる「話す内容」及び”Manner”と呼ばれる「話し方」の観点で評価)
・議題が発表されてから15~30分の準備時間を経て試合開始(発表後の調査は不可)
・1チーム2~3名により構成されることが一般的

【議題】
・議題は政治・法・経済・倫理・ジェンダー・宗教・環境・国際関係など多様
・具体的には、死刑廃止、タバコ廃止、ベーシックインカム導入、AI開発禁止、遠距離/近距離恋愛の優劣、不老不死になれる技術の是非、安保理拒否権廃止等、幅広く議論

【競技人口】
・国内で主流の英語即興型は、ESS/ディベート部を中心に学生団体46団体*がJPDU(日本パーラメンタリーディベート連盟)に加盟。1大会に200名以上集まることも
・高校生、社会人ディベートも盛ん(HPDU、PDA等の高校生大会も200名規模)
・毎年行われる大学生の世界大会では約1000人が参加(2017-2018年にメキシコで行われた世界大会は選手約600人、審査員約250人が参加)
・(参考)海外ではメディアも注目・報道(例:2017年に韓国が高校生を対象としたディベートのテレビ番組を放映)


そして下記のように、国内では多くの団体/メディアが即興型ディベートを推進しています。

また、よくある質問は下記のとおりです。



【よくある質問】
Q1. 勝敗はどのようにして決められるのでしょうか?
A1. 第三者への説得度を、“Matter”と呼ばれる「話す内容」及び“Manner”と呼ばれる「話し方」の両方から評価します。論理的に分かりやすいだけではなく、パブリック・スピーチとして感情にも訴え かけることが重要になります。どうしても人による主観は入ってしまう部分もありますが、「より多くの人を説得できること」を目指してディベーターは練習を重ねます

Q2. その場での“でっちあげ”や“でまかせ”が横行しないのでしょうか?
A2. 競技の性質上可能ではありますが、①明らかな嘘などは審査員が考慮しない裁量があり、②特定の事例だけで勝敗が決まることは少なく、③競技ディベーターは多くのテーマに対応するために日常 的に国内外のメディアをチェックする傾向にある等するため、多くの場合行われません

Q3. 調査型ディベートとの違いは何でしょうか?
A3. 調査型ディベート(通称アカデミック・ディベート)は、「一般市民」ではなく「専門家を説得する」ことをコンセプトとして、数か月にわたる準備時間を経て証拠資料を用いて議論します。(ディベートの種類が異なるため、異なる能力が身につく傾向にあります)

Q4. ディベート経験者はどのような就職先に進むのでしょうか?
A4. 人それぞれですが、国内のディベート経験者に限って言うと、法曹・官僚・経営コンサルタント・学者・メディア・商社・投資銀行・エンターテイメント業・サービス業等多岐にわたります

2018年1月8日月曜日

【即興型ディベート部のマネジメント】練習における議題の選び方

Q.「普段どのようにモーションを選んだら良いと思いますか?」
このようなご質問を、部を運営している人から頂きました。

(競技ディベート目的なのか、教育ディベート目的なのかによるところはありますが、
いったん競技ディベートだと想定してみます)

その場合、色々な考えはあると思いますが、一つ大会で結果を残せるようにする(それは以前と比べてもありますし、その"結果"の定義も色々あるかと思いますが)が、部員にとって良い(勝てて嬉しい、勝てなかったとしてもそれに向けて的確な努力ができたため成長実感も大きい、等)とすると、下記のような考え方をお勧めしています。

A. 大会での出題確率×部の成熟度で考えること
私がおすすめしているのは、縦軸に「大会でどれくらい出るか?」、横軸に「部としてどれくらい対策できているか?」をとり、優先順位付けすることです。
(もちろん、他の考え方もあるかと思いますが。)

具体的には下記のようになります。


資料にも書いてありますが、出題確率はその時の時事問題、大会レベル/特性、モーション作成者等を勘案することがポイントです。
海外大会だと最近「過去のACの出題モーション」を公開していることもありますが、これはこの対策ニーズが大きくなっていることが背景にあるのではないでしょうか。

部の成熟度は測るのが難しいのですが、こればかりは色々なモーションを見ながら日々観察しておくことがキーになるかと思います。私がUTで昔部長をしていた時は、よく同期や先輩、場合によっては他大学の方に「どれくらいできているか」をうかがっていました。その結果、特に法学部のディベーターが多かったというのも相まってか、なんとなく法律系のディベートは強いということは分かったりしていた気がします。

なお、縦軸を考える際に、過去の議題の傾向から選ぶのは多くのディベーターの中でも暗黙の了解になっている気がします。(もちろん、時事、ACの傾向等もあるかと思いますが)それをもう少し精緻にアプローチすると、例えば下記のような分析をak_debateが試してみました。
1年生大会であると、政治・社会的弱者の議題が最もよく出ており、企業・労働、教育、紛争・戦争、法律なども続いてくる、という結果が見えてきました。
(なお、社会的弱者とはいわゆる"minority"関係のsocial movement関連などです)


このやり方は色々難しいところがあります。(例えば、大会といってもどこまでを対象とするか、テーマもどのように選ぶか、等。実際今回、モーションの分類をしようとしたときにとても困ったときがありました。またテーマは違っても出る議論や背後の対立軸が似ている場合とかもあるので、「テーマ」だけだと限界もあるのかもしれません。また、結局その年のACによっても大きく変わる部分もあるので、今まではこうだったけど急に変わるということも考えられます)ですが、個人的にやっている/やっていた感覚としては一定程度の成果はあるように思えました。)


したがって、部の運営者/コーチ、ないし教育を担当している人というのは上記のようなイメージをもってモーションを選ぶのが一つ良いのかもしれないなというのが示唆です。(もちろん一言で「部」と言っても、人によって横軸は大きく変わってくるので、個別化した対策も必要になるかとは思いますが…)

なお、ここまでデジタルには行っていませんでしたが、このアプローチは、私が部長を行っていた時にやっていたものです。具体的には、梅子杯を一つ大きな目標として、どういうテーマがでるか過去の議題から分析していました。(そのcontributing factorの大きさはもちろんわかりませんが…本人たちの努力も大きいですし、自主練とかは分からないですし…)

なお、これまで「部」という単位で話していましたが、これは個人という単位でも使えたりもするので、そちらでも応用できます。自分で横軸を分析するイメージですね。

いかがでしたでしょうか。モーションの選び方の参考になれば幸いです。

2018年1月6日土曜日

即興型ディベートに必要な能力を身に着けるための練習法シリーズ② プレゼンテーション力

前回の「思考法」に引き続き、「プレゼンテーション力」(プレゼン力、パブリックスピーキング力)に関して書きたいと思っています。

そもそも即興型ディベートは議会を模していることから、政治家が「一般人」を説得することが求められていることから、ディベートの中でも特にプレゼン力が重要視される傾向にあります。(毎年行われる世界大会だと余興的にではありますがPublic Speakingの大会も並行して行われていることからも、親和性が高いなと思っています)

まず、下記の2枚がサマリとなります。


【1. そもそも即興型ディベートで目指す「効果的なプレゼンテーション」とは?】
色々な整理があると思うのですが、私は即興型ディベートにおいては「論理的な分かりやすさ」と「感情的な分かりやすさ」の両輪が大事だと思っています。
(巷ですと、前者を左脳的、後者を右脳的と表現していたりですとか、古代ギリシャの哲学者・アリストテレスが人を動かす上で必要だと言っているエトス(ethos)・ロゴス(logos)・パトス(pathos)でいうロゴスとパトスにあたるものだとご理解ください。)

即興型ディベートで言うと、「論理的な分かりやすさ」とは、下記のような特徴があります。

  • アイデアの結論が最初に述べられ、根拠によって支えられている
    • 単純に“言いっぱなし”ではなく、その理由や例が説明されている
  • 複雑な事象であっても、シンプルに本質を抽出している
  • 特定のメッセージを伝えるために効果的なストーリー/構成になっている
    • 理解する上で必要な前提条件から説明したり対戦相手やチームメイトの発言内容の文脈と関連づけたりする
一つ目がKeyとなる原則であり、それが難しい内容であっても、個別最適だけではなく全体最適の観点からも「論理的に分かりやすい状態」であるか、という整理をしております。

「感情的な分かりやすさ」とは、下記のような特徴があります。
  • まるで目の前で起きているかのような、具体的な描写を通じて五感に訴えかける
    • 例えば、政策をとらない場合最も被害を被る人のドラマを描写
  • 声のトーン、表情、身振り、視線、相手との距離等、“非言語的”なコミュニケーションを活用している
  • 最低条件として、誰に見られても好感を持たれるような言い回しになっている
    • 差別的・侮辱的な発言ととられないよう、一言一言配慮している
言語的・非言語的なコミュニケーションを駆使して感情に訴えることが「0からプラスへ」の話だとすると、そもそも「マイナスを0にする」という前提条件が最後の話です。

(なお余談ですが、一部の方は「論理的なわかりやすさ」のみをディベートでは重視する、言い方を悪くするとロジック・マシーン、ロジック・モンスター、場合によっては口喧嘩のようなイメージを持たれています。ですが、実はそもそも「感情的な分かりやすさ」も同じくらい重要であるという話をすると、よく驚かれます)

【2.プレゼンテーション力を強化するための練習方法】
色々な練習方法が様々な本などでもご紹介されているかと思いますが、即興型ディベート関連ですと、下記のような練習方法があるかと思います。

まず、「論理的な分かりやすさ」の強化に関しては「通常よりも短い時間でのスピーチ練習」をお勧めしています。これは短い時間であればより何を言いたいか強制的に考えさせられ、結論・根拠の明示化につながりやすいというのがあります。

「イントロ」の1分だけに集中するのも非常に効果的です。昔は西日本地域の大会で「イントロ合戦」というような余興イベントも大会中にありました。これはどちらかというとエンターテイメント要素も大きかったとは思うのですが、強豪校では練習の一環として取り入れられていた時期もありました。自分でもできるのでおすすめですし、「ちょっとフィードバック頂戴!」というのも気軽ですね。
ak_debateがコーチする際も、イントロだけ書いていただきそれをwordで送っていただき、その添削をすることもあります。

「常に結論を先出しした完璧なスピーチづくり」というのもとても重要です。
AREAの型(Assertion、Reasoning、Example、Assertion;結論→理由→例→結論)を徹底することは、プレゼンテーションにおけるノウハウの一つです。巷では、別名OREOの型とも呼ばれているようです。(O=Opinion、意見)
ミソは、結論が最初と最後でサンドウィッチされているため分かる、またそれが根拠によって必ず支えられているというところです。
ak_debateはラウンド終了後、反論から立論まですべてAREAを徹底しなおした内容を納得するまでスピーチしなおしていましたし、結論の端的な言い方の言い回しをストックしていました。(英語即興型で言うと、具体的には、2010年の世界大会で優勝しているシドニー大学のクリス・クロークがword efficiencyも高く何度も聞きなおしていました)

また、「結局何を言いたいの?」を3回繰り返すディスカッションも重要です。特に思考がボトムアップ型の人、(積み上げ型の人)というのは、「で、何なの?」を他の人よりも意識的に繰り返す必要があります。(何を隠そう、ak_debateがそうでした)他の人と議論しながらso what?を繰り返していくと言いたいことが洗練されていく傾向にあります。コーチのセッション等でよくやらせていただいています。


次に、「感情的な分かりやすさ」で言いますと、まずドキュメンタリー、映画、小説等のストーリーテリングの技法を応用することはお勧めです。すぐできるのは、言い回しのストックですね。例えば、「痩せすぎているモデルの活動を禁止する」という議題があります。(最近フランスで話題になっていますね)こちらの肯定側の議論を行う際ですが、例えば下記のような記述の迫力があります。

In addition to extreme weight loss, symptoms of anorexia can include fatigue, dizziness and fainting, thinning hair, the absence of menstruation, dry skin and irregular heart rhythms. It can be life-threatening, warns the National Institute of Mental Health.

こちらは、モデルの目の前の健康状態の被害が目の前に浮かんできて、とても説得的だと思います。自分でやる方法としてはこのようにリサーチと組み合わせて表現をストックしていくことですね。

他にも「特定の感情(喜怒哀楽)のみを表現するスピーチ練習」も効果的です。これは昔ウィル・ジョーンズ(過去の世界大会チャンピオン)とリディアン・モーガン(現パブリック・スピーキング講師)が日本に来てレクチャーを行ってくれた時に聞いた話ですが、実際にやってみても効果的でした。「はい、じゃあ悲しくスピーチしよう!」「じゃあ次は楽しく」のように、喜怒哀楽の特定表現だけに特化して、すぐ内容にあわせて感情をこめられるようにする「ストック」づくりが重要です。なお、この際、感情を表現する際は表情であったり、場合によっては入場(ないしスピーチ台への向かい方)まで含めてすべてコントロールする必要があり、まさに「雰囲気を作り出すこと」「場を支配すること」が重要だとされています。
これは、鏡の前で自分でもできることなので、私もあえてやったりしています。特に、ディベートの国際大会になると海外は個々の表現が豊かで所謂「印象操作」で負けてしまうのでアジア大会で負けて悔しかった後はかなり練習していました。

最後に、悪い癖の矯正も大事です。不要な「まあ」「皆さん」などの表現を使用してしまった場合、スピーチをやり直すのが一例です。これもリディアンに教えてもらったのですが例えば海外では「特定の悪い口癖」がある場合それをスピーカーが言った瞬間先生や他の生徒がそれを即座に真似するらしいです。すると「あっ、やってしまった」となり恥ずかしさもあり必死に悪い癖を直しにいく傾向があるとのことで、荒治療ではあるものの一定の効果はあるんだろうなと思っています。

自分で行う場合ですが、私は自分のスピーチの音源を必ずその日のうちに聞き直しているのですが「よく使いすぎている表現」などは聞いて、次のラウンドでは「言わない!」という目標を立てたりしています。例えばLadies and Gentlemen!という表現ですが、これは最初や、本当に聴衆に訴えかけたい時は重要ですがそうでない際の「つなぎ」としてよく使ってしまっていました。なので、途中から一切使わないようにしています。

なお、これら一連のプロセスの際のコツですが「いろいろなバックグラウンドの人からフィードバックをもらう」ことが重要です。是非自大学だけではなく他大学の人も、ということもさることながら、社会人の方の視点や何ならディベートをあまり行っていない人の視点も重要で、場合によってはよりクリティカルだったりします。UTDS(東京大学英語ディベート部)で世界大会の日本人記録をたたき出したチームはよく「社会人練習会」で社会人の方にフィードバックをもらっていたのは有名な話ですね。

いかがでしたでしょうか。ぜひ「論理的な分かりやすさ」「感情的な分かりやすさ」の両方を身に着けてください!

2018年1月3日水曜日

即興型ディベートに必要な能力を身に着けるための練習法シリーズ① 思考法

最近テスト期間ということもあってか、一人でもできる練習方法を質問されることが多いです。また、例えばプレパ練をより効率的にするにはですとか、英語力をどのように向上させるのか、ですとか色々個別具体的な練習方法に関する問い合わせもSarahah・メッセンジャー等で頂戴しています。

したがって今回、一回ステップバックして、「即興型ディベートに必要な能力を身に着けるための練習法シリーズ」と題して連載をしてみようと思います。背後にある考え方というのは、「即興型ディベートが"上手い人"が身に着けている能力というのを効果的に身に着けて上手くなろう」というアプローチです。
(なお、即興型ディベートを通じて身につく能力に関してはak_debateが別途学会発表済で、現在私の研究者としての研究テーマとして検証・論文化を進めている最中にあります。また結果などをご共有できればと思います)

以前か即興型ディベートで必要な能力(≒身につく能力)としてTBH思考法をご紹介させて頂きました。具体的なコーチの際(実践編)でも使用させて頂いておりますが、ここではもう一段深堀りして練習法にまで落としてみようと思います。

かなりボリューミーになったので、サマリを最初に載せます。


<1. Top-Down思考法とその練習法>
即興型ディベートにおいてはマクロ的な思考(根本的な問いを起点に発想していく思考)と定義しております。

私はこれは言い換えると「因数分解」する力、「構成要素を明らかにする力」でもあると思っています。いくつかのパターンがあると思っています。

例えば、古典的ですがTHW ban tobacco.(タバコ廃止)、THW allow active euthanasia.(積極的安楽死)のような「選択」に関するディベートであれば、個人の次元で言うと「選択」とその「結果」に関して因数分解することができます。具体的なディベートの議論としてタバコを吸う/安楽死を選ぶという選択の妥当性(例:自由意志に基づいているのか)、結果の良し悪し(例:健康への害、苦痛からの解放、死)の論点が出てくることが分かってきます。

時間軸として「因数分解」する場合、例えばTH prefers a world without marriage.(結婚制度が存在しない世界のほうが今の世界よりも望ましい)の場合、結婚前、結婚という選択をする際、結婚後、場合によっては離婚の際等のシナリオに分かれることがモーションを見た瞬間に分かると思います。

説明責任を起点に「因数分解」するパターンもあります。例えば、THBT feminist movement should actively seek to include men’s right activist in their movement.(フェミニスト運動は、男性の権利活動家を積極的に運動に含めるべきである)のような場合は「そもそもフェミニスト運動とは何を求めるべきか」「男性の権利活動家を運動に含めることはそれになぜ理想像に合致するのか」「男性の権利活動家を運動に含めないことはなぜ理想像に合致しないのか」という3点の説明責任が導出されます。(2つめと3つめは表裏一体ですが。)これはある種「理想像」を起点に2つの世界観(男性を含めている状態/含んでいない状態)を比較していることになります。

これに似ているのは、例えば多くのディベーターが最初に学ぶ説明責任のクッキー・カッターです。特定の政策をとる場合、多くの場合汎用的な争点としてnecessity(必要性)、solvency(解決性)、justification(正当性)、があがるとトレーニングされることがあります。肯定側であれば「必用であり、解決でき、それは正当化できる」ことを説明し、否定側であればそれらのどれかを否定することをチャレンジします。

この練習法はいくつかあると思いますが、個人的には2つあります。

1つ目は、まず足元で過去のモーションから「こういう因数分解が必要なのでは?」というのをストックし、自分の型をつくることです。以前ご紹介した1st Principleに近いですね。Criminal Justice Systemであれば有名な、Retribution, Protection, Deterrence, Rehabilitationのようなイメージです。ここで1こコツなのは、「モーション」レベルではなく「テーマ」レベルで考えること、ある種一段「抽象化」することです。なので、「よし今日はCriminal Justiceだ」と例えばし、今まで行ったモーションを復習したり、音源を聞いたり、場合によっては他の人に聞きながら自分としての因数分解のパターンをつくることになります。いわゆる「パターン認識」的な積み上げアプローチになります。ただ、ここで気を付けてほしいのは「フレームワーク病」「議論自動製造機病」です。いわゆる思考停止状態で「あ、CJSのモーションだからこれ言おう」という視野狭窄状態になると、第三者を説得することが難しくなってしまいます。
なお、この練習方法は一人でもできますし、また実際にこういう風に考えたんだけどどう?と他の人にフィードバックを求めることで他人を巻き込んでみることもブラッシュアップにつながります。

2つ目は、中長期的になるかもしれませんが、単純にロジカルシンキング、いわゆるMECEに「切る」能力を高めるというスタイルです。(ディベートにおけるMECEの過去記事はこちら)いわゆる「コンサル本」が巷には山ほどありますのでそちらをご参照ください。(例えば『問題解決プロフェッショナル「思考と技術」』、『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』などです。なお、後者はコンサル業界では名著だと言われていますがかなり難解ではあるので、何度か読むことが必要です。なので前者のほうが個人的にはまずお勧めです。これの第2章の<MECE>の部分がミートしていると思います。もう少しより実践的であれば「フェルミ推定」「ケース問題」などが親和性が高く、やりながら覚えられるので、『東大生が書いた 問題を解く力を鍛えるケース問題ノート』、『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート』、『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』がおすすめです)これは、習得には時間がかかりますがk、比較的ゼロベースで見たことがないモーションでもある程度トップダウン思考ができるようになるメリットがあります。
これは自分でも例えば実践的な本を解きながら練習することもありですし、即興型ディベーターはコンサル業界に行くこともあるので、OBOGを巻き込むのも面白いと思います。

<2. Bottom-Up思考法とその練習法>
即興型ディベートにおいてはミクロ的な思考(具体的な事象・現象から発想していく思考)と定義しております。

これもいくつかのパターンがあると思いますが、まずは「具体的な人」が「どうかわいそうか、幸せか」という問いを立てることが重要だと思っています。(もちろん議題によっては動物実験廃止のように動物等、人が主人公に必ずもならない場合もありますが…)その状況を、映画のワンシーンのように正確に切り取ろうとするとどういうことがあるのか、時間軸に沿って発想していくのです。

例えば、THW not allow religious freedom in public.(宗教的自由を公的空間において認めない)という議題の肯定側では具体的な人を想像します。詳しい人であれば、フランスの「スカーフ事件」が想起されるでしょう。詳しい説明は他に譲りますが、「イスラム子女の公立学校でのスカーフ着用の是非」が議論されました。肯定側であれば、神を信じる一環としてスカーフを身に着けて居たいと考える学生の様子が頭に浮かんでくると思います。(例:「なぜムスリム女性はヴェールをまとうのか」)ちなみに、私はこの関心があったので、『神の法vs.人の法 スカーフ論争からみる西欧とイスラームの断層』という本を読みました。少しボリューミーですが、面白いです)

また、特に話が抽象的になりがちな議題は意識的に具体化することが重要になります。例えば経済関係の議題では顕著です。THW not bail out companies which are TBTF (Too-Big-To-Fail). ("大きくてつぶせない"企業の救済を行わない)というようなモーションの際、例えば肯定側で救済を行わない、その結果として「雇用が失われる」ということは単純に解雇通知の書面だけの話ではなく、その背後に一人一人のストーリーがあるはずなので、そこまで想いを寄せられるとよいかと思います。

ボトムアップの思考法の練習法ですが、幾つかあると思います。

1つ目に、マインドセットとして「その人だったとしたら」と強制的に「自分事化」する練習だと思います。自分がもしスカーフを身に着けたいと思う学生だったとしたらどう考えるか?自分がもし家族を持っていて急に解雇されたらどう思うか?のように「もし自分だったら」と考えることです。人はなかなか、程度の差もありますが、一般的に自分のことにならないと想像力が働きづらい側面はどうしてもあると思います。したがって必死に想像していくことは重要です。

2つ目に、単純に前提となる基礎知識はつけるということは必須になります。ボトムアップ思考が具体的な現象・Factからスタートする以上、その前提となる知識がないとなると手も足もでないことになってしまいます。国内のトップディベーターや海外ディベーターの多くは、The Economist、BBC、The Guardian等のニュースを見ているとのことで、そこのドキュメンタリーは時に目を覆いたくなるようなこともあります。このブログの一番の人気記事である(ここまで反響があるとは思っていませんした)おすすめブックリスト50も併せてご覧ください。

3つ目に、とはいえ2.は毎回すべての事象を知っているとは限りません。そこでak_debateがボトムアップ思考の一類型だと理解している「アナロジー思考」の習得・応用もおすすめです。(こちらは、Triple Aの一つでもありますね)どんぴしゃの例ではないが、構図が似ている例をいかに「引っ張ってこれるか」というのが鍵になります。分かりやすい話で言うと、THW decriminalize marijuana for pleasure.(嗜好用のマリファナを非犯罪化する)という際の肯定派は、タバコと似ているな、という着想で、「じゃあどういうシーンで吸うのだろう」「その個人への便益はどういう感じなのだろう」と発想していきます。また、一段さらに「飛ばした」形で言うと「一見悪そうなものを非犯罪化する例ってないかな・・・?例えばオランダにおける売春とかはどうなのだろうか」と考える、「harm-minimization」(被害の最小化)のために非犯罪化する場合もあるのでは?と考えることもあります。(近年、アムネスティ・インターナショナルも売春を非犯罪化するほうがよいのではという提言を出して議論を呼んでいますね。参考リンクはこちら
ここでの細かいコツは、まさにどんぴしゃの本である『アナロジー思考』に譲りますが、具体例を見た際に「これって何と似ているのだろう?」、複数の具体例を見た際に「これは何が共通しているのだろう?」と考える癖をつけることをお勧めしています。ストックをする際も「関連付ける」「グループ化」することがコツです。
また、リサーチに落とす場合はその「共通点」を軸に整理します。例えば私は主要な軍事介入の成功例・失敗例をマターファイルにストックしてあるのですが、その際「成功例」「失敗例」という共通点だけではなく、「成功要因」のレベルまで深堀りして「アナロジー化」するようにしています。もちろんアカデミアの方ほど専門的にはできていませんが、発想方法はこういうところかと思います。

<3. Horizontal思考法とその練習法>
Horizontal思考法とは、「相手が話してくること」を起点とした思考だと定義しています。(Horizontal思考法が得意なチームのコーチ事例はこちら())

したがって、「相手がそもそも何を言ってくるか?」「それに対してどう対応するか?」の2つの要素が必要になります。前者は、Top-DownとBottom-Up思考のどちらか、もしくはその組み合わせで出てくるかと思いますのでそちらのスピードアップになるかと思いますので上記の練習法ということになりますが、後者に関してはどうでしょうか。

2つのパターンがあると思います。

パターン①としては、「相手の一番強い話をどうするか」ということを考えることです。これは「相手の言っている話が起こらない」というmechanism(現象が起きる理由)に対するアプローチ、「起きるがそんなに深刻ではない」というimpact(現象の深刻性)に対するアプローチという細かい反論レベルでもできるとは思いますが、強いチームになるとその2つは確実に立ててきます。そこで例えば「むしろ向こうが守りたいものにとってもこちらのほうが良い」という、いわゆる"flip"と呼ばれる話がないか、というのは一つの考え方です。("rather better", "counterproductive"というような表現が英語ディベートではされます)(なお、余談ですがこれはよく実世界の会議などのディスカッションで用いるようなパターンでもあり、相手の納得感も醸成しやすいです)また、特定の比較軸を出してそのデッドロックを解消していくパターンもあります。(例:インパクトの大きさ等)。(こちらも実社会だとよくつかわれます)

その意味では、中長期的には、いわゆる「ディスカッション能力」を身に着けることもおすすめです。
参考書籍は『ファシリテーションの教科書: 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ 』、『東大生が書いた 議論する力を鍛えるディスカッションノート』等かと思います。

もう少し足元の話をすると、これらは、具体的なモーションを行いながら「ここまで言ったら勝てそう」という風に考え抜く、もしくはClosingやWhip・Replyのスピーチを見ることもお勧めです。うまいClosing、Whip、Replyのスピーカーは相手の話を考慮した上で「なぜ上回るのか」ということを明示的に話すことができており評価が上がっている傾向にあります。また、そもそも自分で強い話を思いつかない場合は、強い音源を見てそれに対してどう反論するかというのを自分で考えることもあります。ここでのコツは2つの音源を組み合わせることで、1つは「ちょっと頑張れば勝てそう」な相手の音源の反論を考えることと、「すごく強い」相手の音源の反論を考えることです。前者だけだとモチベーションはあがるが大きな伸びが少ない、後者だけだと最大出力が上がる可能性はあるが、圧倒的すぎてそもそもキャパオーバーになってしまうリスクがあるからです。

パターン②としては、Gov/Opp(肯定側・否定側)を何度も行ったり来たりすることで議論をどんどん深めるパターンです。これは、何人かでやる場合と一人でやる場合があります。何人かでやる場合はプレパの後ディスカッション形式で、こう言ってきたらどう返すか、のように議論を深めていきます。この際あまり大きく発散させずに、特定のClashだけでやることも有益だと思います。また、ラウンドの後に「この後さらにスピーカーがいるとしたらどうやって勝つか?」という風にラウンドを活用するパターンもあると思います。また、最近やっているところをあまり見なくなりましたが "Summary and Refute"と呼ばれる練習法も効率的だと思っています。

一人で行う場合でも、あるディベーターはgov、oppをひたすらに交互に一人で考えていくことを地道にやっていたようです。こう言ったら相手がこういってくるから、このように反論して、さらにこのように再反論がくるからこうやって・・・という風に考えると、Horizontalの思考スピードがぐんとあがる傾向にあります。この際書きだすのは一つのコツです。

いかがでしたでしょうか。かなりボリューミーだったので最後まで読んでいただいて恐れ入りますが、思考法に限って言うとこのような練習法が例えばあるかなと思いました。何かご質問などございましたらいつでもご連絡ください。

2018年1月2日火曜日

色々なジャッジのやりかたの考察 ~ジャッジが使用する基準リスト、よくあるジャッジスタイル等~

先日、"ある若手の方から「ジャッジのやり方」が世代や大学により大きく違って、そのギャップの理解が追い付かずに理不尽さを感じてしまうことが多い"というご相談を頂戴しました。

もちろん即興型ディベートにおいて色々なジャッジの仕方があり、それは十人十色であるべきです。なのでジャッジブレイク/評価制度を通じて"より納得感のあるジャッジ"を目指すインセンティブが存在したり、決勝トーナメントでは複数人ジャッジを配置するわけです。なので、完全にジャッジの仕方の標準化などはすべきでもないですし、できないと思います。一方で、様々な「ジャッジのやり方」を知ることは、ディベーターとしての成長にも寄与するだけではなく(=より多くの人を説得する)、ジャッジもよりレベルアップにつながる(=より多様なジャッジングができる)ため有益でしょう。

したがって、今回のポストでは特に、ジャッジが使用する「基準」に関して考察したいと思います。(ジャッジはディベートの内容・全体像を理解した上で、「特定の基準(観点・視点・比較軸)」を用いて比較をするというプロセスがあるかと思いますが、その「基準」の話です)

目次は下記のとおりです。
<1.基準リスト>
<2.(ak_debateの偏見による)基準リストを踏まえた上でのよくあるジャッジスタイル>
<3.事例:ak_debateのジャッジの癖は?>
<4.基準を起点に考える、良いジャッジとは?>


<1.基準リスト>
このリストの注意点だけ先に。
1.包括的では無いと思っています。あくまで、ak_debateの知っている範囲で書いています。
2.下記の基準の理解は人によるかと思います。あくまで、ak_debateの解釈です
3.また、繰り返しになりますが「特定の基準がどれかより良い」という話ではないです。

【Matter関連の基準】
・Relevancy/Uniqueness (モーションのWordingや背後にあるSpirit of the Motionとの関連性)
・Exclusivity (肯定側/否定側にのみ起きるかという排他性)
・Logic(ideaを支える論理。MECEも参考になる。参考記事はこちら
・Example/Case Study/Analogy (ideaの具体例・ケーススタディや類似例)
・Consistency(ArgumentやMatter全体の矛盾の無さ)
・Responsiveness (反論の強さ)
・POI (POIの内容やそれへの対応等)

【Manner関連の基準】
・Framing (絶対的Impactと相対的Impactの明示等。絶対的Impactの中ではminorityを守るのような、いわゆる"聞こえの良さ"も入る。参考ブログ記事はこちら
・Structure(内容の分かりやすさ。結論から話されているか、ナンバリングがされているか、話の間の有機的なつながりがあるか、等)
・Wording/Rhetoric/Visualization (効果的・効率的なWording、レトリック、"イラスト"=描写等)
・Non-verbal Languages(ボディランゲージ等パブリック・スピーチ上効果的な非言語的なコミュニケーション)

【Role Fulfillment/Technicality関連の基準】
・Dynamics (重要な議論が早い段階で出ているか)
・Team/Speaker Role (例えばBPの場合はClosingがKnifingしていないか、PMであればset-upができているか等)

<2.(ak_debateの偏見による)基準リストを踏まえた上でのよくあるジャッジスタイル>
※繰り返しになりますが、誰かを否定する意図は一切ありません。
過去のジャッジを通じて「いろいろなジャッジがいるなぁ」と思った際、無意志的にこういう分類をしていたのを棚卸しました。

・「内容(Matter)重視」 vs. 「見せ方(Manner)重視」
前者は、内容を細かく見て、logicやその反論等を丁寧に追っていくスタイルです。調査型ディベートの出身や、海外だとアジア、北東アジアのジャッジはどちらかというとMatter重視なイメージがあります。
後者は、どのように伝えたかをより重要視するスタイルです。海外だと、非アジア圏(オーストラリア、ヨーロッパ等)がこの傾向が強いイメージがあります。
もしかしたら、例えばイラストをした際に「それはrhetoricalだったが印象操作でしかない」ととるか「十分に感情に訴えかけてきており評価する」ととるかでも分かれる気がします。

・「Principle重視」 vs. 「Practical重視」
前者は「Practicalが立ったとしてもそれがなぜ大事か」まで踏み込まないととらない、ないし、Principleのgov、Practicalのoppだとgovに入れる傾向にあります。海外だと、ヨーロッパ圏のジャッジが特に好きなイメージがあります。また、哲学科などの専攻のディベーターが好きな傾向もあります。
後者は「結局はPracticalが大事」だという価値観の下、上記のシチュエーションだとoppに入れる傾向にあります。海外だと、アジア圏のジャッジが特に好きなイメージがあります。

・Utilitarian vs. Non-Utilitarian
上記と少し似ていますが、功利主義的に評価するか(=インパクトの大きさでとるか)、非功利主義的な話まで含めて評価するか(場合によっては功利主義の話もその重要性までないととらない)だと思っています。
一番難しいジレンマは例えばTHW legalize torture.のようなモーションで「多くの人が助かるから拷問しよう」vs.「人を手段として使用してはらない」のような話が対立した結果、結果大きさを優先するのがgov、プロセスの悪さを優先するのがoppに入れる気がします。

・「General Theory」 vs. 「Specific Contents」
前者は抽象的であったり、ややgenericであっても十分にとり、後者は具体論でないと取らないという癖です。 例えばTHW legalize all drugs.のようなモーションの際、generalなfreedom of choiceでも十分にとるか、具体的なdrugのユニークネスまで踏み込まないととらないかという差分があります。

・gov有利 vs. opp有利 / Opening有利 vs. Closing有利
これは無意識のうちに、何かしらのバーデンの重さがあるという場合です。
gov/opp有利に関しては「govがbenefit 0, oppもharm 0」のような仮想状態の際にどちらに入れるか?という質問をした際どちらに入れるか?という質問でもわかります。
Opening/Closingに関しては、OpeningとClosingが仮に同じくらいの貢献をしている際に、「時間が少ない中CaseをつくったOpening」をとるか、「先に話せるにもかかわらず同じくらいCaseをつくれなかったOpeningを十分に抜いたClosing」をとるかの好みだと思います。

・問題解決モーション時のGovの説明責任重視型 vs. Oppの説明責任重視型
上記のgov 有利 vs. opp有利の話の延長線上にありますが、policy motionで特に問題を解決することが求められる場合の説明責任をどれくらい持たせるかです。
govの説明責任重視型の場合は、問題の深刻性、その発生原因、その解決策としての適切性等を説明することが求められています。oppの説明責任重視型であれば、既存の枠組みや他の枠組みによってその問題をどの程度解決できるのかというのを単純に「alternativeとしてこう」というアサーションではなく、どのように問題を解決できるのかある程度詳細に説明することを求めてきます。
個人的にはこの部分は海外とずれがある気がしており、Asian Style、特にAustralsにおいてはgov、opp共に問題解決のバーデンがそこそこ同じくらいある印象がある一方、国内ではややgovに厳しい傾向があるかもしれません。(一方で、こちらのように過去にはgovが説明しなさすぎで苦しんだ事例もあるようなので、結論としては、gov、opp同じくらいの説明責任を求めるというところが落としどころなのだとおもっているのですが、精査は必要だと思っています) 参考:ICUブログ

・ClosingにおけるNew厳格型 vs. New寛容型
Opening有利/Closing有利にかかわるかと思いますが、ClosingのNew Analysisをどれくらい重くとるかで分かれると思います。確かに、”Anything that opening did not say”がExtensionになり、反論もcontributionになることは誰も否定しないのですが、その貢献の大きさとして、オチ/Impactも違うようなCompletely Newを求めるのが前者で、ほぼフレームはでているが間のロジックを追加することもそれと同じくらい重要な貢献ととるのが後者です。同様のことは、具体化・Case Study・Impactの追加等でも生じるかと思います。

・Framing 超重視 vs. Framing重視
「はっきりと明示しているか」どうかをとても重視するかどうかです。
この話は特に反論/立論のとりかたや、Closingのとりかたで顕著になります。
例えば、反論/立論を「相手のこの部分に反論している」とはっきりとFrameしていなくてもとるかどうか(=ハッキリ言っていないのでとらない vs. ハッキリいっていないが、とはいえimplicitに分かる)、Closingでも「これがExtensionだ」「このExtensionはOpeningを抜いている理由はXXXだ」とはっきり言っていなくてもとるかどうかで分かれます。
なお、最近アジアではFraming超重視型が流行っている気がします。

・Stance 超重視 vs. Stance重視
チームや個人としてのStanceを超重視するかどうかです。
前者の傾向として、例えばPMの話とDPMの話が異なる場合/シフトがある場合、大きく評価を下げます。

例えば、以前この記事でも書きましたがこういう現象です。
また、日本では驚くべきポイントだったと思いますが、同じくそのHigh School Pre-Semi Finalで、PMがpoliticsの話に終始、LOがそれもあるがfeminismも大事だよねと言い、DPMがそれに対応する形で両方話したものの、私以外のジャッジ2人は「それじゃ遅すぎで4位」と言っていました。(そもそも分析の深さやエンゲージで下がるなぁと思っていたので順位は一緒だったのですが、そんなに重く見るんだ、とちょっと驚愕しました)もちろん、その2人がstandardなジャッジなのか?という点は注視する必要はあるかもしれませんが、それくらいにSell your ideaがしっかりしていないと評価が下がる、という例かもしれません。
・Hard Stance好き vs. Soft Stance 好き
上記と少し関連しますが、「これもこれもこれもOK」という話を評価するかどうかです。
例えば、THW legalize hate speechの場合、governmentはdefamationもlegalizeするスタンスでないと評価しないのがHard Stanceが好きな人の傾向であり、「いやそこまでやらなくてもdifferentだし、radicalすぎる」と思うのがSoft Stanceが好きな人の傾向です。

・Contradictionへの厳格型 vs. 寛容型
Stanceと関連しますが、Contradictionがあった際にどれくらい重く見るかです。厳格型ですと「矛盾があった時点で著しくチームとしての評価/点数を下げる」ことになりますし、寛容型であればその部分だけとらない、矛盾する点のみとらないなどの対応をします。近年国内外のブリーフィングでもスタンスが割れているようなホットトピックの一つです。

・ディベートのゲーム性超重視 vs. ゲーム性重視
いわゆるディベートを「競技」としてとらえる度合いの違いです。例えば、POIのやり取り/とった、とらなかったをかなり重く見たり、Dynamicsを重くとるかどうかです。

・ロジック(・説明)重視型 vs. 直感重視型
前者であれば、どのような話においてもロジック(理由)を重視します。後者であれば、一般感覚的に分かるのであればロジックが薄くても十分にとります。例えば、「女性をモノとして扱ってはいけない」「人を殺してはいけない」のような話の際、とはいえ抽象論(全ての人は目的をもって生まれてきている)アナロジー/Case Study(人権がuniversalに認められている)等の説明を求めるのが前者で、「そこまで説明しなくても一般感覚としては分かる」とし重いバーデンを置かないのが後者です。

・ディベーターが設定したBurden重視型 vs. ジャッジとしてBurden設定型
前者は、あくまでディベーターが言った内容をBurdenとして捉えるスタイルです。例えば「OppositionはこれにこたえるBurdenがある」とディベーターが言った際に何もOppositionが言わない場合はそれを是として捉えます。また、Self-Burdenでも「これを説明します」というのを説明すれば取るスタイルになります。一方で後者は、モーションのSpiritを勘案し、自分でBurdenを設定し、それを説明としているか否かで判断します。先ほどの例で言うと「OppositionはこれにこたえるBurdenがある」と言われた際も「それは合理的に無い」のような判断を設定したり、Self-Burdenも「それだとモーション肯定・否定に至っていない」と裁量を発揮する傾向にあります。

<3.事例:ak_debateのジャッジの癖は?>

上記だとやや抽象論かもしれませんので、ak_debateのジャッジの癖を具体的に書こうと思います。といっても、実は私も時代によって変わってきている気もしたり、私がここで書いたことがすべてではないと思うので、あくまで主観的であることを断っておきます。また、他にも色々ありますが、いったんこれくらいで。

・「内容(Matter)超重視」→「内容(Matter)/見せ方(Manner)どちらも重視」
以前は本当に1にも2にも、Logic, Relevancy/Uniqueness, Exampleのような基準を優先していました。例えばイラストだけ話されていても「ただの印象操作」だと思っており、あまり評価しませんでした。なのでLogicのgov、イラストのoppとかであれば明確にgovに入れていました。

その背景には、おそらく自分の癖や勝ち方としてMatter重視があった(=自分がMatterを理由に勝ちをもらっていたり、ライバルがMannerもうまかったことの悔しさ(笑)があったのかもしれません)のかもしれません。一方で、NEAO、UADC、Asian BPのようなアジア大会では所謂「愚直なMatter」を評価されないことが多かったのです。(内容が全くないような印象操作だけのチームに負ける、等)したがって、Mannerも十分に大事なんだと思い始めMannerも評価するようになりました。この傾向はAustralsでも思ったのは別途こちらで書いています。

さらに近年は、職業柄「明示的に言うことが良い」とされており、そうでないと話者の責任だというカルチャーもあるため、より見せ方を重視する傾向になっています。

・Principle重視→Practical重視
以前はLeaderを行っていたことや、憲法学/哲学に関係する本等で得た知識も色々あったので、Principleをすごくとっていた傾向にありました。Animal Rightにしろ、Free Choiceにしろカント主義的な話にしろ、好きでした。一方で、ジャッジをするようになって、principle vs practicalになってしまうと、どうしてもpracticalが個人的には分かりやすいためとってしまう傾向が強くなったのだと思います。また、アジアのディベーターはゴリゴリPracticalでごり押してくるスタイルですごく好きというのもあり、今でも結局Practicalは好きなのだと思います。

もしかしたらこの背後には、1つめの話と関係して、また自分が知っているが故の、Matter重視があるのかもしれません。Principleをロジックなしに建てられてもなぁ、というのが自分の感覚であり、例えばFree Choiceであるならbodily autonomyがなぜあるのかだとか、そのanalogy等を含めて話してくれないと、というexpectationがあるのかもしれません。

・Example/Case Study/Analogy重視
で、結局どういう例なの?という話はとても重視する傾向にあります。Example, Case Studyの中で明示的にLogicがなくても比較的とることがあります。(わからなくはない、という点で。もちろん明示的にLogicがあるほうが当然評価は高くなります。)
この背後にあるのは、おそらく2年目のADIで言われたトレイナーに言われたアドバイスです。「話は十分に分かるけど、よりconvincingになるためにはreal-life exampleがないといけない。」(もちろん、そもそも特にCase-Studyが多い海外の教育機関で学んだこととかも影響しているのかもしれません。)なんなら、このセクション自体事例ですしね。

他にも、同期からオーストラリアの傾向も聞いていたからかもしれません。
ICUの同期による記事を、一部引用します。

⑦ 知識量の差
僕たちICU1は最強チームとあたった訳ではなかったので、この点はラウンド内で感じた訳ではなかったですが、大会全体を通して感じました。やっぱりevidenceがあると自然と説得力が増します。
Octoのacademic achievementに応じて学校への助成金の額を変えようmotionで、USU2のPMは「この政策は既にNYで導入され、成功している。それを受けてArizonaなど他の州でも試されてきている」と序盤から捲し立てていました。
R6(米国は台湾への武器輸出をやめようmotion)が終わったあと、Melbourne1のベテランディベーターが「近年、米国は92年、?年、08年、そして今年の1月に台湾に思いっきり武器を輸出したよね。その度に中国は軍事演習やるとかいう反応を示したよね。それぐらい中国にとってはsensitiveなissueなんだよねー」と教えられてしまいました・・・

<4.基準を起点に考える、良いジャッジとは?>

勿論内容を全部見ている(=このラウンドがこういうラウンドだったという理解が網羅的・正確)である前提で、ですが、その際良いジャッジとは何なのでしょうか?

これに正解はないのですが、基準だけに限って言うと、私は複合的に基準を用いることができるか、にかかっていると思います。要は特定の基準だけで物事を見ないのか、かと。
よく陥りがちなのは、「logicで見ました!!!」「Framingで見ました!」等特定の基準に飛びついてしまうパターンです。それ以外もあるじゃん、と言われた瞬間に「あっ」となってしまうことがよくあります。色々な基準があってそれは皆違ってみんないいとおもっているのですが、となった際の落としどころは「多くの基準を使用する」ことかなと今ak_debateは思っています。

なのでアジアのジャッジとかだと「There are 3 reasons that you lost」のようにジャッジする人もいます。これがbestなのかはわからないし、「え、そこまでボコす?」と思う時もありますが、1つの基準だと納得してくれないがゆえに、複数基準で見るようにしているのかな、と思っていました。特にBPであればなおさら、複数基準で議論することが海外勢と話していると多いなという雑感です。

また、他の解としては「ディベーターが明示した基準を用いる」というのもあると思います。これで比較してよと言っているんだからそれで見るのがフェアだという考えです。最近ak_debateもそうかもなと思っている一方で、それはそれでFraming超重視の考えでもあるし、そもそもその基準が正しいんだっけ?というところまで踏み込まないといいジャッジではないのでは?とも思っており、絶対的な解には至っていません。

とはいえ、また、「これで決めるの?」というのが通説的に「おかしい」とされているものもあると思います。例えばMannerでのNon-verbal Languagesを理由に勝ち負けはたぶんつけません。説得力がどれくらいあがったかというのには当然寄与するのでスピーカースコアには跳ねたりすると思いますが。

いかがでしたでしょうか。

なお、最後に改めて強調致しますが、「特定の基準を用いるジャッジがいい、悪い」という議論をしたいわけではありません。ちゃんとディベートを理解した上で根拠のある説明ができれば「イラジャ」ではなく「ダイバーシティ」だからです。あくまで、私の経験上色々な基準を用いるジャッジがいるのでそれを知っていくことがディベーター/ジャッジにとって良いかなと思っている意図でこの記事を書いたことをお断りしておきます。

また、この記事を書くにあたって何人かの方にフィードバックを頂きました。基準、スタイル等他にございましたらお気軽にご連絡ください!

2018年1月1日月曜日

プレパ・シートをつくれ! ~プレパレーションの効率を最大化するために~ その4<振り返り・まとめ>

4回にわたって行ったコーチ・セッションでしたが、結果はどうだったのでしょうか?

客観的なところで言うと、予選のオープンの3ラウンドで8点を取るなど順調に滑りだしました。残念ながらR4は決勝に進出したチームに囲まれ4位になってしまいましたが、見事に予選を突破。ディスカッションの結果敗退してしまいましたが、Semi Finalist(ベスト8)という結果になりました。

なお、実践編では省いていましたが、2人の共通の目標として「できればGrand Final、少なくともそこに届き得るSemi Finalまではいきたい」があったため、目標は達成できたと言えるでしょう。

実際、大会終了後、ヒアリングをした際のお二人のコメントというのは下記の通りでした。
Iさん「この大会では、ポジティブな感情が大きかったです。やりたいスピーチができました。Semi Finalも負けて悔しかったのですが、"出せる限りを出した"と思えました」
Eさん「正直、終わった瞬間、(もっと勝ちたいという)欲は出ましたが、中堅層にはごりっと勝てるようになれたので満足しています。Semi Finalまで行けたのは良かったのですが、一方で、GFまで行きたいというのはパートナーとも話していたので、もうちょいできたかも、という感覚もあります」
色々な解釈があるかと思いますが、満足度は高く、またポジティブな意味での向上心も沸いたのではないでしょうか。

プレパ・シートの効果に関しては下記のようにいただいています。
Iさん「たまに見ながら使っていた。また、オーダーメイド感もありそれによりモチベーションもあがりました(笑)・・・それから、ぜひ色々な人にとって参考になると思うのでプレパ・シートは公開してください」
Eさん「頂いたプレパ・シートによりプレパが"地に足のついた形"になったと思います。今まで正直このような形でプレパを行ってこなかったので、とても勉強になりました。また、実はすでにこっそり後輩に"こんなのもらったよ"と見せちゃいました(笑)」
「プレパ・シート」の効用はあり、ぜひ他の人にも広めたい、というコメントを頂戴している、というところでしょうか。

さらに、今回のコーチングに関しては下記のようなコメントをいただいています。
Iさん「ak_debateさんに見て頂いて一番ありがたかったのは、特に弱みが分かったことでした。勝ち筋・具体化を意識させていただいたことで、特にクロージングはとてもやりやすく、パフォーマンスは高かったです。すごくありがたかったのは、ak_debateさんはすごく細かく僕たちのことを観察してくれたので、例えばIさんはこういう特性があるからこういう風にやってみるとどうか、のようなアドバイスが頂けました」
Eさん「今回一番ありがたかったのは、最初に何回かプレパ見て頂いて、"このチーム特有の課題を洗い出す"ことでした。例えば、"勝ち筋"に関しては正直全然意識していませんでした。結果的に考えることはあったのですが、毎回意識的に考えられるようになりました」
これは正直恐縮しかありませんし、お二人の人間性に助けられている気がしますが、プレパ・シートをつくることを中心においた今回のコーチングでは「チーム特有」のプレパの型ができた、いいかえると、プレパレーションの効率化が最大化されたのではないでしょうか。

いかがでしたでしょうか。
もちろん、すべてがプレパ・シートに落ちるわけではない(=プレパ・シート以外の要素、それは例えばそれ以外のコーチングの部分であったり、お二人の他の練習であったり、色々な因果をもってプレパの効率や今回の満足がいくようなパフォーマンスにつながった)のですが、「プレパ・シート」づくりはプレパの効率化につながるのではないでしょうか。

最後になってしまいましたが、Eさん、Iさんには感謝です。本来これは「競争優位性」でもありますし、正直弱みもあるので「恥ずかしい」感情もある中、今回このような形で文章を公開させていただきました。また、少しでもお二人の満足度・成長に寄与できていたのであれば、これほどうれしいことはありません。

プレパ・シートをつくれ! ~プレパレーションの効率を最大化するために~ その3<実践編②>

【Day 2/Day 3:プレパ・シートの具体化・進化】

2回目、3回目は細かい違いはあるものの、基本的にはブラッシュアップだったので、どちらもまとめて説明しようと思います。

Day 2はまず、Day 1のプレパを受けてその後どうなったか2人に聞くところから始めました。Eさん、Iさん共になんとなくプレパのやり方は定まりつつあるような感じでした。一方で、とはいえなかなかうまく行っていないという感覚があるようでした。

プレパでは実際に二人がプレパをするところをみながら、「例えばこういうことを意識したらどうか」「こういう問いを立てたらどうか」という部分を試してみるということを繰り返しました。具体的には、Day 1で特定された「Issue特定」→「戦略立案(勝ち筋を見つける)」→「具体性を強化する」→「Speech化」というステップで、それぞれどういう問いを立てればいいかというのが追加されていきました。

例①:
たとえば、「具体性を強化」というところは、なかなか2人の課題だったこともあってなかなかイメージがわいていなかったようです。とはいえ、別にそれがスピーチになった際にできないというタイプではなく(特にEさんは何度かスピーチを見ていましたが、別に話が抽象的な印象はなかった)のではなく、あくまでプレパの工夫次第で解決できると仮説的に思いました。

そこで「具体的にどういう人がどう辛い/嬉しいのか?」という問いを意識的に立てるようにとアドバイスしました。それまで見ていると、例えばTHBT Mexican government should adopt measures that enable the Sinaloa Cartel to monopolise the market、THW criminalize "revenge pornography" in the same way as rape、THW pay teenage girls to not get pregnant.のようなインパクトが見えやすいモーションではArgumentで勝手に具体化されていく傾向はありました。一方で、THW introduce basic income. や、THBT parents and educators should actively encourage children to invest in their physical appearance and attractivenessのような経済モーション/教育モーションであると、なかなか具体化されていないなと思ったからです。この問いを意識するようになってから話が深まるようになっていました。

例②:
他には、「戦略立案」の際に、結局押しどころがわからず、かつ特にIさんがPrincipleの話が好きで、EさんがPracticalの話が好きだった際に、好みが大きく分かれ「結局何を立てよう」というところの意思決定ができず、なぁなぁになってしまっていました。その際、どの話を立てるのかなどはもちろん色々な戦略があるとは思うのですが、いったんEさん、Iさん共に納得感があったのは「最もintuitiveな話は何か?」というintuitiveさによる優先順位付けでした。

例えば、THW ban convicted criminals from publishing the narrative about their crime.のモーションであればgovは「被害者のmental pain」は分かりやすい話として勝ちやすい傾向にあるという結論になりました。
THBT Mexican government should adopt measures that enable the Sinaloa Cartel to monopolise the marketのgovであれば、long termの話は勝ちづらいかもしれませんが、short termでは比較的moderateなactorが力を持つことで人が攻撃されたり、殺される危険性が下がる話は立ちやすいという結論になりました。

したがって、いくつか議論が出た際はまずはintuitiveかどうかという観点から優先順位付けし、それをしっかり立てること、また相手の最もintuitiveな話をいかにつぶすか考えるということで合意しました。

例③:
今までの話はどちらかというと「弱みを改善していく」話でしたが、ak_debateが重要視しているのは「強みを強化していく」ことも重要視しています。Eさん、Iさん共に優秀なジャッジであることから特にCloseになった際優劣をつけることには慣れている傾向がありました。したがって、「Clashの解消力」を一つ武器にできないかと思いました。また、ジャッジだったとしたら、という風に考えたほうが思考が走りやすいのではないかと思っていました。

そこで例えば、「戦略立案」の際には、単純に最もintuitiveな話を考えるだけではなく、その際どういうClashが生まれるか、そのClashをどのように解決するのか?というところまで踏み込めれば特にClosingでは勝ちやすいと思いました。そこで、「ジャッジだったとしたら、解消出来たら嬉しいClashは何か?」という問いを立てることを推奨しました。

例④:
また、「強みを強化していく」文脈で言うと、とくにEさんは面白いアイデアを思いつく傾向にありました。それらは必ずしも思いついた時点でwinning argumentではないものの、強いExtensionになり得たり、主要なArgumentのlogicを強化する可能性もありました。一方で、ak_debateが見ていてプレパで勿体ないなと思ったのは、Eさんは「完璧になるまで言わない、遠慮してしまう」という、Eさんの人の良さがにじみ出る結果のクセでした。これは勿体ないなと思い、最初のIssue特定の際に、「まだできていないけど」という前提でアイデアの種も共有してもらい、それが具体性強化などの際に「花が咲く」ことも必要に応じてチャレンジすることにしました。したがって、Issue特定に「迷っているが、使えそうなアイデアの種は何か?」という問いも追加しました。

例⑤:
さらに言うと、単純にOpening/Closingの練習を2人にさせるだけではなく、他にもいろいろなシチュエーションで練習しました。

例えば、プレパ練3種でもご紹介しましたが、Closingプレパ練も行いました。具体的には、ak_debateも10分ほどプレパし、Openingで言う際言う話を全部いい、その後数分のプレパ時間の後、Closingで言う話やその埋め込み方を練習しました。

この背景としては、Ryoso Cupの参加者の性質を鑑みると、北東アジア大会(NEAO)の決勝進出者、アジア大会(Asian BP)のQuarter Finalist進出者等もいたため、強いOpeningの後ClosingでExtensionがないリスクがあったからです。また、チームとして「Openingをどう上回るか?」という問いがないままいくつかのアイデアをばらまいてしまうことがあったので、「Speech化」のときに「Openingをどう上回るのか?」という問いも追加しました。

(さらに、特定の問いの追加にはなりませんでしたが、Eさんがプレパを観察する形で、ak_debateとIさんがプレパしたこともありました。これは、後で聞いたところEさんが「プレパで止まってしまったとき」ですとか「困ったとき」にどのように打開しているのか見たかったらしく、あえて少し止めたりしながらak_debateの反応を見ていたとのことでした 笑)

<Day 2~3のまとめ>
・各プレパのステップにおけるKey Question(プレパ中にたてる問い)を明確化しました。例えば、「戦略立案」の際は、「最もintuitiveな話は何か?」、「具体性強化」の際は「具体的にどういう人がどう辛い/嬉しいのか?」の問いを追加しました
・これらの問いは正直無限に立てられるものの、その際意識したのは2人が特に課題と思っている「弱み」だけではなく、「強み」も活かすことでした。例えば、面白いIdeaの種が出るEさんのポテンシャルを最大化するために「迷っているが、使えそうなアイデアの種は何か?」という問いを追加したり、EさんIさんが共通して高いジャッジとしての能力をディベートでも応用できるように「ジャッジだったとしたら、解消出来たら嬉しいClashは何か?」という問いを追加しました

【Day 4:プレパ・シートの定着・最終化】

いよいよ最終日になりました。この日は、ak_debateから今まであったプレパ・シートは紙を写メって送っていたのですが、当日使いやすいようにpowerpointにしてわたしました。(時間的余裕があれば最初からやったほうがよかったかもしれません)

それを見ながら、最終調整というところでプレパ・シートを見ながら確認することを特に意識しました。Day 4ともなると、だいぶプレパ・シートは定着しており、必要に応じて問いがしっかりと立てられており、プレパがスムーズになっていました。

それはak_debateから見ても、本当にスムーズになっていました。それはフィードバックさせていただいたうえで、いくつかプレパ・シートをマイナーチェンジしました。

例えば、2人ともHorizontal思考が強いというところのデメリットとして「相手がこれを言ってきたらどうしよう」と考えすぎてしまったことがあったようでした。したがって、最後に「ただし、見えない敵と戦いすぎず、場合によっては自分の話に自信をもって集中!」というのを最後に追加しました。

最後に、プレパ・シートの使い方に関してディスカッションしました。ラウンド前/中にお互いに見返し、今まで行ってきたように必要に応じてアップデートしていく、ということを当日は2人で行ってほしい旨を伝えました。(理論編の3.プレパ・シートはどのように使うのか?の内容です)

こちらにも書きましたが、最終日は詰め込むことは得策ではありません。あくまで今できる「最大出力」を出せるようにコンディショニングすることが最も重要だと考えています。

<Day 4のまとめ>
・今までの復習に代えて、プレパ・シートを最終化して、共通認識を持った。
・プレパ・シートの当日の使い方を合意した。