2015年3月22日日曜日

学生引退ポスト② これからのディベート界の可能性

今後の日本ディベート界にあったらいいなと思うもの、というテーマで書いてみました。
もちろん発展してきたコミュニティであることは言うまでもありませんが主に、質的・量的にさらに発展する余地があると思うのでそうやって分けて書きます。「まだこんなに可能性を秘めている」というニュアンスです。
もちろん、こういった話は各部や各団体で話されているとは思うので、僕が勝手に思っている内容なだけです。

【ディベートの「質」的向上】
① 公共財の蓄積
多くのディベートのノウハウというのは言語化されていないか、もしくはされていたとしても一部の大学や仲の良い人の間で受け継がれていっているのが現状です。
もちろん、人的・時間的資源の制約や、また各大学の戦略としてそれはある程度あるべきなのでしょうが、もう少し公共財が増えるといいなと思っています。
これは2段階あり、
(1)ノウハウの言語化を行うことと、
(2)それをブラシアップしていくということ
が必要かと思います。

(1)に関しては、教え方・理論・いい資料等の共有が増えるといいなぁと思っています。
勝手な個人的な印象ですが、(別に他と比較したり、ナショナリスティックになるつもりではないのですが)日本ディベート界の人たちはすごく真面目で勉強熱心な傾向があります。
音源を研究したり、レジュメを読んだりする人は本当に読んでいて。単純にそれへのアクセスのプラットフォームであったり、最近増えつつあるブログがさらに増えたりするといいなぁと思っています。
特にディベートへのアプローチは一つではなく、様々なアプローチがあるからこそ多くのノウハウや考え方が出てくるといいなぁと思っています。
また、大会のACは個人的には大きな責任があると思い、どのようなモーション意図があったのかはGeneral Commentでは必ず話すべきだと思っています。また、モーション解説は(もちろん画一化を避ける必要はあるので制度工夫は必要でしょうが)大会を大会だけで終わらせず、その後の教育効果まで考えると行うべきだと思っています。

(2)に関しては、ブラシアップというのは①理論・考え方自体への発展や批判と②他のアプローチの提示(多様性の向上)になるかと思います。
例えば、①に関して言うと、Triple Aの考え方というのはある程度有益ではあるかと思いますが、Analogy-based思考であり、RevolutionaryなPricnipleを立てる上では向いていません。その際は別のアプローチが必要になるでしょう。
②に関しては、本当により多くの人が発信できる環境がベストだとは思っています。具体的な方策まではつめられていませんが、モナッシュがやっているようなDebate Reviewのようなプラットフォームは面白いかもしれません。
他にも、草の根レベルとしては、ツイッターやブログが促進されると良い気はします。

② 海外ディベートに触れる機会の向上
まず前提として誤解してほしくないのは、別に「海外が善」というわけではなく、英語ディベートに関するアプローチやノウハウは各国によって違うところがありそれを学ぶのが有益だというニュアンスの方が強いです。
((もちろん、一般的な日本人よりも理解が進んでいる分野もあるとは思いますが(ローカルな地政学や、宗教など)。
とはいえ、海外でも活躍しようと思った際に海外のディベートの考え方を適宜知っておくことは非常に重要でしょう。

実際、例えば東南アジアのジャッジが一般的に重要視しているところが国内と異なることがあり、アジア大会になると日本勢が苦戦する傾向があります。
また、日本でも流行る考え方は海外で言われていたものが多い感覚があります。(パッケージング、フレーミング等)

海外ディベーターとのエンカウントを増やす方法は(1)日本勢が海外に行くことと(2)海外勢に日本に来てもらう、ことですが、前者は金銭的制約があるため、後者をより積極的に行っていくことが必要でしょう。

(2)では、(1)現状のICU-T、Kyushu Cupのように海外のAC・ジャッジを招聘すること (2)春セミ時のようにコーチとして招聘すること の2パターンが考えられます。

(1)に関しては、AC間でのlearning effectがあるだけではなく、ディベーターがフィードバックで学べる機会が多いというメリットがあります。
また、個人的に気づいたこととして、国内のConflictがほぼ無く、ディベーターに対する先見もないため重要なラウンドにアロケーションができるメリットもかなりあります。
特にLCCの発達や地理的状況を見ると、関東地方だけではなく、関西地方・九州地方等がLCC Terminalの発達や韓国等に近いというところから今後かなりポテンシャルを秘めているのではないでしょうか。

(2)に関しては、実は過去にもウィルジョーンズやリディアンモーガンがある社会人の方の協力の下1週間セミナーを開いたことがあります。
JPDUのセミナーの枠組みの拡大なり、各大学の自主性なり、ポテンシャルを秘めているのではないでしょうか。
渡航費・宿泊費・食費(場合によってはそれ+αのコーチ費)によって海外コーチを招聘することは他サーキットでは行われていることであり、検討が必要かもしれません。
例えば、最近の韓国ディベートサーキットの躍進は、もちろん国内の努力もありますがADI等を通した海外ディベーターへのエンカウントや、ローガン、ブレット等のコーチによる尽力も影響しているでしょう。

③ その他
また、Japan Essay Projectでも書かれていた「ジャッジの質向上」のような論点もあり、色々な論点を民主的に吸い上げていき検討していくことが必要でしょう。
(なお、ジャッジに関してはこのブログでも過去に記事を書いたので参照して下さい)

【ディベーターの「数」的向上】
就職活動中や、他の団体の方との交流の際に思ったこと・指摘されたこととして、ディベート界は実はまだ競技人口が少ない方であり、また携わる年数も少ないということです。
これは日本ディベート界を海外コミュニティと比較しても、いわゆる長くやり続けるディベーターが少なかったり、高校生ディベーターが少なかったりする傾向が指摘されています。
その問題としては、①ディベートの活動自体が困難になる(会場・スポンサー等)②ディベートのノウハウの蓄積が遅れる③ディベートに対する印象が誤解されたままになってしまう、等があります。
またより本質的には、単純にディベートを楽しみたいという人が楽しめなくなるのは問題な気がします。

実際にどのように行っていくのかは非常に重層的なアプローチが必要だとは思いますが、より多くのディベーターが残るコミュニティ・ビルディングは必要かと思います。

① ディベートを始めた人の残りやすさ
まずは、既存の学生がやり続けられる環境づくりとして、就職活動・院試から戻ってきやすくすることや、社会人も残りやすいシステム(2日目に来ることが負担で敬遠する方もいらっしゃるようなのでブレイクアナウンスメントを必ず初日の夜にする、等……)づくりが必要でしょう。
このあたりに関しては、「ディベートをやめた人」「ディベートに理解がない人」に対してしっかりとヒアリングをすることが必要になってくるでしょう。
そろそろ「残った人たちだけ」でディベート界をまわすことには限界がきている(大会の会場は年々減っている等)ため、メスを入れることが必要でしょう。

この点に関して、昔よりも感覚的に3年生以上のディベーターや院生ディベーターが増えている気がするためそこはディベート界としての前進と評価することはできるかもしれません。しかしそれにしても、一部の「ディベートフリーク」に限られている傾向はあるため、ある程度カジュアルにでもディベートに携わりたい層の取り込みは不可欠でしょう。

② ディベートへの携わり方のダイバーシティ強化
よく言われていることですが、「カジュアルディベーター」が参加しづらい空気が現状であるというのはまず1つの問題でしょう。
(その点で、大沢杯の復活は非常に評価されるべきでしょうし、ディベートのすすめのようなユニークな大会も非常に良いと思います。)
大会におけるエンターテイメント・ソーシャル要素の向上は一つ鍵かもしれません。(その点で、Media DirectorやSocial Directorが今後役割を増すかもしれません。)
また、次にコミッティーや、またはソーシャルのようにディベートに関わってくれている方々へのrecognitionがさらに向上する余地はある気がします。
個人的に、国内の「メガ」institutionはそういった層をうまく取り込んでいる傾向があり、非常に参考になる気がします。
また、数年前からコミッティーの名前をメーリングリストに載せたり、ORのパワーポイントで常に表示する(秋T2012等)試みがされており、これは今後も続けるべきでしょう。
個人的に、後「何回かコミをした人」をしっかりと表彰する制度があると面白いなと思ったりしています。
特に、AC・ディベーターの方がスポットライトがあたる傾向があるため、これは直していく必要があると思います。
多くの人がコミッティーをしてはじめて「コミの大変さを知りました」と言っていることは、看過できないでしょう。

③ ディベート普及
また、既存の学生以外でも、いわゆる「振興大学」へのアプローチや、各地域へのディベート普及等も(既に行っているとは思いますが)必要でしょう。
この文脈において、個人的には秋Tの関西開催は非常に合理的だと思います。(関西の大学が「振興大学」というわけではありません。)
勿論、意図としては会場の分散によるディベートの長期的開催や、東日本と西日本の負担の公平性の観点等が強いと思いますし、それはしかるべきことでしょうが、それだけではなく「ディベートの普及」的なメリットも実はある気がします。
今WUDCの開催場所で「様々な場所で開催すべき」という風潮があるようですが、bidを読んでいる限りその1つの意図としては「ディベートの普及」があるようです。
やはり、近い地域でディベートが行われるほうが参加のしやすさ・見学の行きやすさ・ノウハウの蓄積等もあるからです。
ディベートではなく、ディスカッション等の全国大会をみてみても、東日本と西日本で持ち回りになっているケースもあるらしく、それは参考になるでしょう。

振興大学という観点では、上記にあげた質的向上の部分も参考になるかもしれません。
また、ややくだらなく聞こえるかもしれませんが、現状は「強豪大学」が常に固まっており一部のコネでディベート普及のリソースが割かれている傾向もあるようなのでそういったsocial capitalの再分配機能も要検討でしょう。
この部分に関しては、しっかりと振興大学のニーズ(どの部分で困っているのか)を聞き、寄り添っていくことが必要でしょう。また、ディベート普及に関する理論化・研究はあまりされていないので(高校ディベートに関するアカデミックな議論もそのようならしいです)検討は必要でしょう。

なお、海外では機会の平等の提供という観点からBreak Capや特定の大会の参加制限(WUDCは4回まで、Australsは5回までディベーターとして参加できる)、Break Eligibility(例えば、メインでブレイクしたらESLでブレイクできなくなる)もあるようです。これに関しては、現在オーストラリアでも議論があるようですし、「実力主義」とのバランスも必要にはなるでしょう。
また、Australsのような女性が必ずチームの1/3必要である、ような制度はどこか応用できる可能性を秘めているかもしれません。(実は、「恋愛対象」がチームに必要な点でディベートのすすめがその機能に類似した役割を果たしているという議論もあるようですが。)
個人的に、国内で実現可能性が高そうなのはひとまずRookie Breakの定着ではある気はします。

④ 対外的アプローチ
ディベートの社会的認知はまだ低い傾向があるといわれています。(データがあるわけではありませんがニッチな競技ではあるでしょう。)
これは、ある社会人の方とお話した結果でもあるのですが、ディベートのメディア露出というのは非常に限られておりメディア戦略を考えることも一考かもしれません。
もちろん、一部の方のご活躍により文部科学省の事業が行われたりもしているので、それがさらに加速化されるといいなと思っています。

また、ディベートに対する批判に関して理解をすることも必要かもしれません。
例えば、個人的に面白いなと思った批判は「議論に勝つ・負けることは必ずしも社会人生活における本質ではない。」というものでした。(又聞きですのでもっと個人的には詳しく知りたいと思っています。)
もちろん、ディベートはむしろ多様な議論をしる機会にもなっているため一概には言えないところもあるかもしれませんが、こういった批判をしっかりと受け止めていくことは必要かもしれません。

【数・質的向上に必要なこと】
個人的にどちらにしろ必要なのは、民主的なシステム・プラットフォームを通してニーズをしっかりと汲み取り、それをどうすれば解決できるのかと精査していくプロセスな気がします。要はディベーターが大好きなdemocratic principleですね。
その点でJPDUが数年前から各大学からのメンバーシップを導入したことは非常に良い試みだと思っています。さらにこういった試みが増えると良いというのは、言うまでもないでしょう。というのも、色々なレベルで民主的正統性は確保できるからです。

例えばですが、JPDU以外のプラットフォームや、Japan Debatersのページの活性化等は一つの可能性でしょう。
また、ACをやる際も民主的な仕組みを導入するのは必要だと思います。手前味噌になるつもりは一切ないのですが、春Tのときに最初に行ったのは「各ACのニーズ」の共有でした。つまり、「こういう制度があったらさらにディベートの大会が良くなるな」というのを最初に共有したのです。
(http://debatejiyucho.blogspot.jp/2014_04_01_archive.html)ぜひ参考にして頂けると幸いです。

【最後に】
日本ディベート界は様々な変革を遂げてきたと思います。ここ数年でもAC制の導入や、海外モーションの積極的利用、ダイバーシティへの意識の高まりなど枚挙に暇がありません。
ぜひ今後とも、さらに日本ディベート界が質的・量的に発展することを祈ってこのポストを締めくくりたいと思います。

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